裏切った勇者を捨てて細マッチョの魔王と古式ゆかしいやり方で婚礼の儀式に臨みます!

能登原あめ

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2 細マッチョの魔王様と。

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 よくよく見たら、見た目は若い。
 わかりやすい黒髪に白い肌、赤い瞳。
 細マッチョ! 大好き細マッチョ!
 見合い相手になってもイイ!

「……扉は閉じた。しばらく誰も開けることはできないから我と語らおう」
「……はい♡」

 暇を持て余した魔王と、私は和やかにティパーティを始めた。
 なぜか膝の上に座らされ、お互いにケーキを食べさせ合っている。
 よくわからない。
 でも平和だ。
 悪くない!

「とても、おいしいですね」

 私がそう言うと、ぺろりと唇を舐められた。

「ああ。本当だ……とても、甘くて美味」

 知ってるー!
 物語で読んだことあるよ、こういうシーン。

「名は……いや、新しい名を授けよう。レーナ。……この暗い地底で輝く光だ」

 くっさ。
 でも、なんかだんだんこの人といるの、癖になるかも。

「魔王様は、なんてお名前ですか?」
「我か……? もう名を呼ぶ者などいない。忘れてしまったな」
「では、私が名前をつけてもいいですか?」
「レーナが? 我の名をつけるということは、我の伴侶になるということだ」

 まぁ、それもいいかも。
 出会ったばかりだけど、この人となら上手くやっていけそう。
 見た目好みだし、なんだかとっても甘やかしてくれそうだし。
 婚約はもう無効だよね。
 先に私を裏切ったのはあっちだし、彼らは結婚するらしいし、この人の手を取ってもいいんじゃない?

「サイラス、ではどうでしょう?」

 サイラスの名の由来は太陽と聞いたことがあるし、レーナには太陽光っていう意味もあった気がする。

「……おまえが光で私が太陽か。……ふむ、いいだろう。では、さっそく妻にしても?」
「何かに誓うのですか?」
「いや、口づけを交わすだけだ」

 たったのそれだけ? 
 魔王様なのに?

「すこぅし、魔力を込めて唇を重ねるのだ。痛くもないし、すぐ終わる」
「ずいぶん簡単なんですね」
 
 私の村でひっそり結婚する人だって、村長に報告に行くくらいはしていたけどなぁ。
 そっか、魔王様って一番偉いもんね。

「ふむ。……古式ゆかしいやり方のほうがいいなら、それでもよい」
「それはどのような?」
「伝統的なものだ。人間と変わらないと思うぞ? そちらのほうがお互いの記憶に残るし愉しいだろうな」

 口づけだけで終わるか、お互いが楽しいやり方?
 私が知っているのは、結婚式をしてお酒を振る舞って、周りから祝福を受けるのが昔からのやり方だけど。
 旅先で見たのは、お酒飲んで朝まで踊るとか、村中をカップルが練り歩くとか。
 
 この場合はスライムとかスライムとかスライムがやってくるのかな?
 そして祝ってくれるの?
 ちょっと怖いような見てみたいような。
 なんだか面白そう。
 絶対に記憶に残るよね!

「伝統的な方法で、古き良き時代のやり方でお願いします。そのほうが、固く結ばれる気がするので!」

 村で先に結婚した姉が、周りに祝福されると、夫婦として頑張ろうって思って簡単に裏切れなくなるって言っていたのを思い出した。
 いや、裏切るつもりもないけど、どうせ結婚するなら幸せが続くほうがいいよね。

「そうか。ではさっそく始めよう」

 サイラスが蕩けるような笑みを浮かべると、私を抱えたまま悪魔の儀式をしそうな祭壇の前に移動した。
 これは魔族の教会的なものかな?
 立ち会い人がいないけども。
 
「ここで、お互いに愛を誓うのだ……。これからは、レーナ唯一人を愛すと約束する。我はレーナに永遠の愛を誓う。さぁ……」

 促されて、私も同じように繰り返す。

「……私はサイラスを永遠に愛、します」

 彼の顔が近づいて唇が触れる。 
 それからにゅっと二つのグラスが現れた。
 ささーっと魔物が暗闇に紛れる。
 もしかして今のが噂のスライム? 
 お祝いだからかピンクっぽい色をしていたけど。

「これを飲み干すんだ」

 とろりとした赤い液体は甘い匂いがする。

 これ大丈夫かな?
 スライムの粘液ではありませんように!
 がんばれ、レーナ。
 魔王様の妻になるなら一息に!

 一気にあおると、喉に張りつくような甘さに驚いた。
 後味は葡萄酒だったから祝酒なのかもしれない。
 全然怖がらなくてよかったよ!

「レーナ」

 唇が重なり、下唇を喰まれた。
 そのままサイラスの舌がすべりこみ、驚きつつも受け入れる。

「レーナ、もっと口を開けろ」

 ぎこちない私に教えるように、舌を遊ばせたり吸いついて、絡める。

「サイ、ラス……っ、くるし……」

 彼が顔の角度を変えて言う。

「鼻で」

 鼻で息しろ?
 慣れない私は彼についていくのが精一杯なのだけど!
 結婚する時に命の危機ってどういうこと?

「しん、じゃう……」

 ふ、と笑ってサイラスが啄むような口づけに切り替えた。
 それで私は呼吸を思い出す。

「まだこれからだ」

 それから再び口内を念入りに舐められて甘ったるさがなくなるまで唇を合わせた。
 ゆっくりとサイラスが顔を上げた時には、私は蕩けていて、一人で立っているのもやっとで、腰のあたりを支えられていた。

 細いのに体幹がしっかりしている。
 細マッチョ最高。
 すごく素敵な人と結婚しちゃったかも。

「私はこれであなたの妻、ですか?」
「まだ儀式の最初だから、そうとも言えるがまだ足りない。さぁ、移動するぞ」
 




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