裏切った勇者を捨てて細マッチョの魔王と古式ゆかしいやり方で婚礼の儀式に臨みます!

能登原あめ

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1 異国の物語で見かけるシチュなんだけど ※

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 とりあえず、これはないだろう。
 タイミングおかしくない?

「あっ、初めてなのにぃ、いいっ、すごぉい! あっ、あっ、きもちっ、いいっ、ああっ‼︎」
「クッ!」

 魔王の部屋手前で、激しく腰を振る勇者とよがり狂う聖女。

 主不在の魔王城のダンジョンに潜っていた私達のパーティは即席の四人組。
 魔王の部屋に突入する前に、仮眠を取ることにしたのだけど、私と聖女の兄の目を盗んでこれ?

「うはッ、いいッ、いいぜぇ!」

 壁に手をついた聖女を後ろからパンパンと腰を打ちつけつつ、お尻も叩いてる?

 えー? 本当に?
 初めてがこんなところで、そんな姿で、そんなプレイで?
 えー? ありえる? 理解不能。

 ちなみに勇者は私の婚約者で、私は風の魔法使いだ。
 勇者の称号は、彼がギルドの能力判定の時にもらったけれど、百人に一人くらいの割合でいる。
 魔力があってそこそこ剣士としての能力があれば。
 職業・勇者。そんな感じ。

 聖女は二百人に一人くらい、癒しの魔法が使えると貰える称号らしい。
 ごくごく普通の村にそれぞれ一人、二人くらいいるかなぁという感じ。
 もうみんなすぐ、冒険に出ちゃうんだ。
 
 もともと幼馴染三人でパーティを組んでいて、一人が怪我をして離脱した後、残った私と勇者でお酒を飲んだ時にお互い年頃だし相手もいないし、一年後の二十歳になったら結婚しようって約束した。

 お互いの親にも手紙で知らせてあって、今の私は十九歳と半年。
 村ではいつでも結婚できるように衣装を用意して待っているらしい。

「なんも、考えらんねぇっっ!」
「ああん! あたま、おかしく、なるぅ~」

 うんうん、二人とも頭おかしくなってるよ!
 わかってるなら、いっか。

 話は戻り、このダンジョンには聖女とその兄の剣士に誘われて、一時的に組むことになった。
 聖女の可愛さに勇者はメロメロになり、その兄の強さに私は……楽ができるかもと思った程度。
 そんなうまいこと恋は生まれない。

 今回の目当ては魔王の部屋で数十年も留守番をしているという大きな大きなスライム。

 空は飛ぶし、呪文も唱え、相手の弱点を突く高い攻撃力で、誰一人倒せていない。
 それでも、何度も果敢に挑みたくなる特殊なスライムらしい。
 それを倒したら、一生働かなくていいくらいの報奨金がでる。 
 倒せなくても、スライムの粘液を持ち帰れば高額で買い取ってもらえると聞いた。

 だけど、もうどうでもいいかな。
 私の代わりに聖女を連れて帰って、村八分にされればいいよ!

「あッ、クソッ、すっげーなっ、おい!」

 すっげーなっ、はこっちのセリフだ。
 お尻丸出しで緊迫感ないし、二人の関係が怪しいとは思っていたけど、なんで、ここで、このタイミングで盛っているんだろう?

 スリル? 
 スライム倒してから、ゆっくりじっくり愛を語らえばいいじゃない!
 その方が、ベッドの上で色んなことできるんじゃないのー?
 私は経験ないから知らないけど、物語では、そうだよね!

「ヤツを倒したらっ、結婚しよう!」
「ええっ、あい、してる、わっ」

 盛り上がる二人を横目に、私は馬鹿馬鹿しくなって彼らに背を向けた。

 別に二人が恋人になってもいいんだけど。
 まぁ、そういうことする前にきっちり婚約解消してさ、ケジメはつけて欲しかったし、魔王の部屋の目前で、そりゃないでしょって思うのよ!

「悪いけど、抜けるわ。よろしく」

 寝たふりをしていた聖女の兄に声をかけ、私は地上に出ようと扉に手をかけた。








「よく来たな」

 あ、間違えた。
 魔王の部屋じゃん、これ。
 しかも、本人がいるの? 
 彼、例のスライムじゃないよね?

「あ、すみません」

 逃げようとした私の後ろの扉が消える。
 ここは、瞬間移動的な何か……が、発動しない‼︎

 ぎゃーー!
 やめて!
 予定外、予定外!
 べっつに、私は魔王がどうしようがどうでもいい。
 戻ってきていたって、ダンジョンの中にいるだけなら。
 地上で悪さしなければ。

「……敵意を感じないな。もしかして我の……見合い相手か?」
「違います」
「いや、しかし、そろそろ来ると」
「違います」

 違いますよーー!
 よく見てください、私はただの人間です。















******


 お読みくださりありがとうございます。
 海外のラブサスペンスもので、敵のアジトに潜入中になぜか主人公達が盛っちゃうシチュエーションをたまーに見かけるのです。
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