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20 結婚式
しおりを挟む快晴。
神様、ありがとうございます!
雲ひとつない青空を見上げながら私はベッドから飛び出した。
真っ赤な目をした父様とおはようの挨拶と軽い朝食をとって伯爵領へ送ってもらう。
結婚式の朝まで家族といられたのは近くへ嫁ぐからできたことで、伯爵夫妻も娘として過ごすのは最後の夜だからのんびりしてきて、とおっしゃってくださった。
娘をお持ちだから気持ちがわかるのかな。
伯爵夫妻は礼儀とか道理を重んじる方達だけど、厳しすぎるということもなくて筋が通っているから尊敬できる。
義妹のカリーナさんは肺が弱いから、伯爵夫妻は早くアーサー様に爵位を譲って、温かい地域にカリーナさんと移りたいと言って、さっそく準備されている。
代わりに領地の本館を私達が暮らしやすいように改装してくださった。
私、アーサー様と二人きりになれちゃうのかな?
それって天国じゃない?
おはようからおやすみ、またおはようってずっと一緒なのね?
なんだかどきどきする。
そんなことを考えながら、私は伯爵家でいい香りの風呂に浸かり、肌の手入れと化粧をしてもらった後、髪を整えてもらった。
それからアーサー様に喜んでもらえるように仕立てたドレスをまとった。
アーサー様の髪か瞳の色にしようとしたら家族みんなに全力で止められて、物語みたいに相手の色をまとうことなんてできないんだなってちょっぴり落ち込んだ。
でも。
象牙色のプリンセスラインのドレスは、父様譲りのアッシュブロンドと青い瞳にピッタリ合うみたい。
『今のエヴァを見たら心臓が止まるかも。そのくらいきれいよ』
そう母様や仕立て屋さんに言われて私は意地になって焦茶色のドレスを選ばなくてよかったって本当に思った。
アーサー様にもいつもよりきれいだって思ってほしいな。
控室に父様と母様が一番に顔を出した。
「エヴァ……きれいだ」
父様がハンカチをぎゅっと握って黙りこむ。
母様が、私におめでとうって、先に戻るわって言うから。
「父様、母様! 今までお世話になりました。私、二人の子供に産まれてとっても幸せです。私も、二人のような仲のいい夫婦を目指すから……だから、あの……今までありがとう、ございました」
「……えゔぁ……うぅッ……」
父様の目からぽろぽろ涙が流れて、私も母様もつられそうになる。
「エヴァ。あなたはこれからもずっと私達の最愛の娘よ」
花嫁さんが式の前から泣いちゃダメって言われて私は目元をそっとぬぐう。
母様はぐっと耐えて凛とした姿でいるから、私が憧れの眼差しで見ていたのに気づいたのかな。
侯爵夫人として、訓練したからよってほほ笑んだ。
それから化粧を整え、今度はイーサン兄様夫婦とローガン兄様がやってきて、髪が崩れるから抱きしめちゃダメだとか今しかできないって騒がしい時間を過ごして涙が引っ込んだ。
胸がいっぱい。
アーサー様と祭壇の前に立ち、誓いを交わす。
ベール越しでも今日のアーサー様が格好良すぎて困ってしまう。
夢みたい。でも、夢じゃない。
「誓いのキスを」
ベールを上げたアーサー様がほんの少し固まった。
もしかして、涙の跡が残っているの?
お化粧が濃くなっちゃったかな?
アーサー様の瞳の中に映る自分をじっと見つめた。
私の顔に息がかかるくらい近づき、瞳が翳る。
それから薄く唇を開き、
「きれいだ」
アーサー様が息を吐くように漏らして唇が重なった。
目を閉じた私はその柔らかな感触に、頭の中が真っ白になる。
ぐずぐずとどまっていた唇が離れて、ゆっくりとまぶたを上げると私の目の前に慈しむような、甘さを宿した瞳。
それと、真っ赤な顔。
「好き」
思わず言葉があふれた私に、もう一度アーサー様が唇を合わせた。
低い唸り声と、神父様の咳払いが聞こえるまで私達はお互いの熱を感じていた。
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