ヤンデレ勇者と二度目の召喚

能登原あめ

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 世羅姫せらび
 どこぞの武将の一族の末裔ということもなく、十七年間嫌々つきあってきた私の名前。
 キラキラし過ぎ。
 
 C'est la vieセラヴィ.
 これが人生さ、っていうフランスの決まり文句からつけたというけど、個性を求めた両親を恨んでもいいと思う。

 そんな私がなぜか聖女として召喚された。
 
 勇者の体内で暴走する魔力をうまく循環させられるのはあなただけだ、と。
 そうしないと、彼が魔王を倒すことができず、国が滅びるらしい。

 知ったこっちゃない。
 現実味ないし。
 だけど、目の前に立つ顔立ちの整った黒髪の勇者に手を差し出されて。

「俺はジュードだ。……手を握ってみてくれるか?」

 蒼い目がきれいだな、同じ黒髪でも雰囲気全然違うな、とか思いながら言われるまま手を伸ばす。
 ぐっと強く握られて一歩彼に近づいた。

「…………すごい。……苦しくない……彼女は本物の聖女だ!」

 その言葉に周りから歓声が上がる。

「聖女様ーー‼︎」
「とうとうホンモノが!」

 まじか。
 なんか……置いてきぼり感はんぱない。

「やはり、私たちの目に狂いはなかった!」

 え? 誰?
 サンタ的なナニか?
 
「神官長、ありがとうございます」

 勇者が私の手を握ったまま、サンタ……貫禄のある体型で白い髭の神官長に笑顔を向けた。
 神官が赤い服とか……ま、いっか。

「これで憂いなく旅立てます……彼女がいれば、もう何もいらない」

 ん? 何もいらない?
 
「そうでしょう、もう何も怖くないでしょう! 明日から安心して旅立てますな」

 あぁ、うん、怖くないんだ。
 ふぉっふぉって笑うからお腹が揺れて私は見入る。

「聖女様、明日から勇者たちと旅に出てもらいます。あなたは勇者に触れるだけでいいのです。それだけで、この旅は滞りなく進むのです。……魔王を倒せば、あなたは元の世界の、元の時間とほとんど変わらない時に戻ることができますから……どうか、どうか私たちを助けてください……」

 神官長が私の前で腰を折ると、周りの人も次々に同じようにした。

 待って?
 なんか、断れない雰囲気やめてっ!

「絶対に守る。俺の命に変えても」

 私を守って勇者が倒れたら、本末転倒だけどね?
 そんな私の気持ちを読んだのか、勇者が言う。

「安全な場所で待機してもらうから聖女に危険は及ばない。……名前を聞いても?」

 言いたくないけど、この世界では浮かないかも?

世羅姫せらびです」
「セラヴィ……いい名だ。俺のことはジュードと呼んでほしい。名前を呼ぶと効果が上がる気がするんだ……呼んで」

 それなら仕方ない。

「……ジュード、さん……」
「ジュード、と」
「ジュード、あの、私が元の世界の元の時間に無事に戻れるなら……協力します」

 まるで恋人つなぎのように指を絡めて握られ、うっとりと見つめられる。

 はい? あの?
 聖女効果かな?

「…………聖女様が望むなら、元の世界に帰れますよ」

 答えないジュードに、神官長が静かに言った。
 
 だから私は腹をくくることにした。

 






 一緒に旅をするのは勇者ジュードに賢者シエンナ、魔法使いドリュー、魔王城までの案内人兼連絡係に待機中の私の護衛をこなすおねぇ言葉のアレッサンドロ。
 女性はシエンナだけ。

 勇者以外で一番一緒にいるのがアレッサンドロ……呼びづらいからアレックスと呼んでいるのだけど、ジュードは愛称呼びが羨ましかったのかな。
 ジュードを短くするにはジューくらいしかないからそれは却下されて。

「セラヴィは普段親しい人になんて呼ばれていたんだ?」
「……セラです」

 『セラ』なら外で呼ばれても恥ずかしくないから小学生の時からそれで通してきた。
 何が辛いって、病院で名前呼ばれるとみんなが一斉に顔を見るからね。
 そして、そんな名前をつける親はどんな顔だって見られる。

 それと、運動会の時に張り切って派手なジャージ着てくる両親の声援。

「世羅姫~! がんばれ~!」

 違う学年にまで名前を知られるつらさ。
 当然、私はがんばれなかったけど。
 まぁ、それはともかく。
 ジュードは口の中で何度かセラ、と名前を呟いてから私の目を見つめた。

「ねぇ、ラヴィって呼んでもいい?」
「いいですけど……呼ばれたことないです」

 そういうとものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべる。
 ジュードは今年十九歳で、魔力の高さと、誰も手にすることができなかった聖剣を扱えたことから勇者となったらしい。

 エクスカリバー的な。
 魔力が暴走するのはその副作用なのかもしれないということ。

「じゃあ、ラヴィって呼ぶのは俺だけね? 他の奴には呼ばせないで」
「あ、はい」

 LOVEラブの変型みたいで恥ずかし……くないわけじゃないけど、この世界限定なら別にいいかな。

「ラヴィ、手を繋ぐより効果が高い方法を試していいかい?」
「あ、はい」

 日々の戦いで、魔力を使っているから暴走しないんじゃないかと思いきや、使えば使うほど溢れて苦しくなるらしい。
 魔族との戦いから戻ると体が熱くてひどい時は体が震えている。
 高熱を出した時みたいに関節も痛むみたい。

 手をつないで一日中くっついてじーっとしているから、もっと早くなんとかなるなら協力する。

「ラヴィ……名前を呼んで」
「ジュード」

 すっぽりと抱きしめられて彼の顔を見上げた。

「……はぁ……、ラヴィ、こっちのほうが早い……ありがとう……」

 まじか。
 これからは抱きしめられるのか。

「今夜もこうしてくれる?」
「…………はい」

 躊躇ってしまうのは、初日の夜から私はジュードと手をつないで一つのベッドで寝ているから。
 大きなベッドだし、真ん中にクッションを置いて必要以上に近づかないようになっていたけど、抱きしめられて眠るということ?

 恥ずかしい、けど仕方ないか。
 野宿じゃなくて部屋をとってくれているわけだし、これが聖女の役目なら。

「恥ずかしい思い、させてごめん……そうしてもらえると、朝からうまく体が動かせると思う」
「……わかり、ました」
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