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二人でボジョパを 東 

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「今年の葡萄は暑い日が続いたから、いつもより早く成熟したらしくてね、ワインも芳醇な味わいらしい」

 嬉しそうに今年の新酒を開ける夫の様子に、こちらまで笑みが浮かぶ。

「それは楽しみね」

 新酒に合わせた軽めのメニューはもちろん彼主導のもと、二人で一緒に作った。
 結婚してから、夫の態度はより一層甘くなって、社内でもわざわざ些細なことで顔を出す。
 例えばランチタイムにデザートを届けるとか。
 一緒に食べようって誘われるわけじゃないのだけど。
 最初の頃は目立つし恥ずかしいし、やめて欲しかったのに、周りの方が先に慣れて反応しなくなった。

 東が社内の男とデートしないのも、入社してすぐ海堂が一目惚れして当時の彼女と別れてつき合うことになり、半同棲していたと勝手な話が出来上がっていて。
 否定して回るのもおかしいし、そのうち噂も消えるだろうと放置している。
 長年連れ添った彼女が、猫だと知っている人はほぼいないらしい。

 結婚当初、社内で睨んでくる女子社員がいないわけではなかったけど特に害もなく、むしろ社外の海堂狙いだったと思われる女性達がわざわざ顔を見に来るのが面倒だと思った。
 ついぼやいてしまったら、東狙いの男達に若い女に乗り換えたとやっかまれたなんて話を聞いてなんとも言えない気持ちになって、お互い様なのだと、笑うしかなくて。
 
「いいね」

 コルクの匂いを嗅いでにっこりと笑った彼がグラスに注ぐ。
 まずは軽く冷やしたロゼワインから。
 彼がいろんな種類を何本も取り寄せたのは知っている。

「……やっぱりワインが一番好き?」

 最初にホテルで飲んだのもスパークリングワインだったから。

「言われてみれば、そうかもしれないな」

 新居に業務用のワインセラーまで置いたのにとぼけたことを言う。

「なんでも好きだが、一緒に飲めるのが、やっぱり嬉しい」
「…………」

 じっと見つめられてそんなふうに言われると愛されてる、ってつくづく感じる。
 結婚して彼の部屋で暮らしながら、いくつかマンションを見て回って今の住まいに決めた。
 ここがいいと意見が一致してあっさりと。

 結婚してすぐ東家に荷物を取りに行った時も、二人でダンボールに詰めてみたら、彼の車に乗るだけの衣類や小物であっけなく引越しがすんだ。
 母が手伝う間もなく、のんびり起きてきた姉は手際が良すぎると驚いたけど、四人で落ち着いてランチができたのは良かったと思う。
 
 それからは二人で使う食器やリネンを見に出かけるのが幸せで。
 それほど買い込むことはなかったけど、二人の暮らしが明るく色づいた。
 
 新居に移った後も、それらは大切で使うたび、見るたび幸せな気持ちになる。
 ワイングラスもそう。
 ちょっと高かったけれど、ハンドメイドのペアグラスは悩んで買ったからお気に入り。

 乾杯して、料理を食べながら飲む。
 明日が平日なのが少し残念。

「週末はこっちを飲み比べてみよう」
「うん。そうだね」

 思っていることが口に出さずとも伝わる関係で嬉しい。
 お互いにすぐ見つめ合ってしまうのだけど、それは新婚だから仕方ないのかも。
 ただ、大切なことは惜しまず口に出したい。

「あなたのことが、大好き」
「俺も。愛しくてたまらない……愛しているよ。幸せだな」
「うん。……あなたのおかげ」

 身を乗り出して口づけを交わす。
 まるで、恋人同士みたい。
 二人でいたら、嫌なところが目について喧嘩も増えるっていうけど、全然そんなふうにならない。
 きっと、お互いの家庭環境もあって結婚は脆いものだとわかっているから、この関係をお互い大事にしたいのだと思う。
 食事の後も、二人で片付けて示し合わせたように寝室へ向かった。

「明日も仕事だから」

 彼は穏やかに笑ってそうだなって相槌を打ち、一緒にベッドに倒れた。
 こんな夜は、荒々しく訳が分からなくなるような営みじゃなくて、ゆったりとお互いの愛情を確かめ合うように抱き合う。

 横になって向かい合い、彼の腰に片足を乗せて剛直を受け入れた。

「んっ……」

 キスして、お互いの体に触れる。
 彼の筋肉のつき方が好きだなとか、耳に触れるとくすぐったそうに笑うんだな、とか。
 胸の先端を弄ぶと同じようにお返しされて、内壁をぎゅっと締めて、お互いに息を漏らす。

「……っ、は」

 彼が太ももの裏に手を置いて、隙間がなくなるくらい引き寄せて押しつけるように揺らした。
 自分の中にいる彼の存在をしっかり感じて、気持ちいい。
 心も満たされる。

「大好き……ずっとこうしていたい」

 明日だって仕事だし、そういうわけにもいかないのに思わず漏らしてしまった。

「……俺だってそうしたいが、平日に気怠げな色気を会社で撒き散らしてほしくない」
「そんなこと、したことない」
「…………」

 確かに一度、明け方まで揺さぶられて、寝不足と体のだるさを抱えて仕事をした日もあったけれど。

 誰にも、何も、言われなかった。
 ただ、西さんに美肌成分が多めに入った栄養ドリンクをもらったような……?
 もしかして、わかっていてアレをくれたのかと思うとブワッと顔が赤くなる。

「もともと美人の上、色気が垂れ流しで、いつ悪い虫が寄ってくるんじゃないかとヒヤヒヤした」
「垂れ流し……」

 恥ずかしくて、彼の胸に顔を埋めると、頭の上で低い笑い声が響いた。

「もちろん誰にも渡さないけど。……大好きだよ。このままずっと俺の腕に閉じ込めておきたいくらいだ」
「……そうして」

 髪を撫でていた手が耳に触れる。

「それ以上、煽ったらダメだ。その願いを叶えたくなるだろ?」
 
 ちょっと飲み過ぎたのかもしれない。
 それでもいいと思ってしまって。

「好き。して」

 顔を上げて彼の唇を喰む。
 すぐに応えるように唇が深く合わさった。
 受け入れた剛直がビクンと動いて、刺激する。

「今日は木曜だし、明日一日仕事を頑張れば休みだから」

 だから、いいの。
 
「……妻の願いを叶えられない夫なんて、ダメだな」

 そう言って上に乗り上げて、奥深くまで挿入した。

「んっ……」
「たまらないな」

 激しい動きじゃないのに、じわじわと追い上げられるからいつのまにか熱い波に乗せられ続ける。
 しばらくして彼が欲を吐き出し、今度はお互いの体の位置を反転させた。

 彼の早い鼓動を聞きながら、呼吸を整える。

「このまま眠ってもいいし、動きたくなったら動いてもいい」
「……ん、朝。一緒に、シャワー浴びよう?」

 彼を受け入れたまま、うとうとする。
 
「可愛いな……愛してる」

 そんな声が聞こえて、ぎゅっとしがみついた。
 
 大好き。
 少し眠ったら、もう一度ね。

 声に出したつもりはなかったのに、彼がわかったって頷いて笑った。
 

 






 * * * * *


 お読みいただきありがとうございます。
 下の名前をつけないことで、呼び名が苦しいです(困)
 新酒のワイン、お飲みになる方はお楽しみ下さいませ!
 
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