あなたと歩んでいきたい

能登原あめ

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「おめでとうございます、マルコ殿下。アンネッテ様」

 翌朝、アンネッテ様の部屋で目覚めたマルコ殿下は彼女に求婚したらしい。
 マルコ殿下は私の部屋に向かった記憶もあって、途中すっぽり記憶がないがどうしてだろうね、と笑った。

 私もどうしてでしょうね、と返したものの、無事に愛妾にされることもなく婚約発表パーティーの後、すぐに国へと帰ることに。
 エルの行為は見逃してくれるみたいだし、案外マルコ殿下はアンネッテ様の立ち回りを気に入ったのかも。

 きっと二人はあの朝の後、何か取引をしたのだろう。
 マルコ殿下の態度がそわそわしていて、時々アンネッテ様を盗み見るようになったのだから。

「信じられないわ……どうして」

 お祝いムードの王宮で、カルメン様は未来の王太子夫婦を眺めることしかできなくて、悔しそうな表情を隠すことができないでいる。
 
 戻ったら気に入らない家臣の誰かと結婚することになるらしく、どうしてもマルコ殿下と結婚したかったみたい。やり方を間違えなければ、彼女が殿下の隣にいたかもしれないとは思う。
 
 だけどやっぱり聡明なアンネッテ様が王太子妃としてもマルコ殿下の妻としても上手に手綱を締めてうまくやっていけそう。
 二人を眺めながらそんなことを考えていると、私の隣に立つフェデリカ様が耳元に唇を寄せる。

「お互いよかったわね。ね、ロズリーヌ様。手紙を書いてもいい? せっかく友だちになったのだもの」
「フェデリカ様、もちろんです。私も戻ったら書きますわ」

 思いがけずできた国を越えた友だち。
 彼女とはもっと色々と話してみたい。

「これで先に進めるわね。……ロズリーヌ様のほうが先にまとまりそうだけど、私も負けないわ」

 魅力的なフェデリカ様だから、相手を射止めるためにこれから全力を尽くすのだと思う。
 私も国に戻ったらエルとの婚約を認めてもらわないと。

「はい、お互いに幸せな報告がしたいですね」

 



 


 帰国後、拍子抜けするほど淡々と私とエルの結婚の準備が進んだ。
 まるで旅行へ行って帰って来ただけみたいに、花嫁候補だったことが話題にものぼらない。
 私が注目されて騒がれるのは王妃様が嫌なのだと思う。

「二人には治めてほしい領地があるの。後継のいない老伯爵の領地で海に面している大事な領地よ」

 にっこり笑う王妃だったけど、きっと貧しい領地なのかも。陛下は多くは語らずエルに侯爵位を授けた。
 私たちは三ヶ月も経たずに形ばかりの式を挙げて、そのまま領地へと送り出されることに。

「目が回りそう」
「今夜はただ眠ろう」
「いや」

 王都を抜けてから一番最初に辿り着いた街の宿に、私たちは足を踏み入れた。
 他国の王族も泊まったことのある見晴らしのいい部屋は豪華で落ち着いた造り。

 すでにドレスは脱いで湯浴みをし、二人の初めての夜らしく準備を終えていた。
 もう隠れることもなく、堂々と夜を過ごせる。
 緊張しているけど、私は浮かれてもいた。

「旅は長い。馬車に乗っているのも疲れるから領主館に着くまでは眠るだけにしよう」

 エルはいつだって私の体調を優先してくれる。
 だけど、夫婦になって最初の夜だから――。
 
「エル、私ね。この結婚を確かなものにしたい。エルに抱きしめられるのも、キスされるのも好き。だからきっとその先も好きになると思う」

 隣国で侍女が用意した寝衣よりももっと薄くて頼りないナイトドレスを着ているから、エルマンに抱きしめられている今は彼が私に熱く反応しているのも伝わってくる。

「ロー、精いっぱい我慢しているんだ」
「しなくてもいいのに」
「そうはいかない。このままだとローを貪ってしまいそうだよ」

 エルが私の頬に自らの頬をすり寄せた。
 葛藤しているのが伝わってきて、背中に回した腕に力をこめて引き寄せる。

「エル、大好き」
「俺もだよ。ロー、愛している。……ローに触れたい」
「さわって、私もエルに触れてエルを知りたいの……んっ!」

 あごに指をかけられて上を向くと唇が重なった。
 柔らかくて、熱くて、甘いキスにおぼれそうになる。

「エ、ル……」
「もう黙って。あまり煽ると俺の理性が焼き切れる」

 彼の舌が口内を這い、私の舌に絡んだ。
 吐息混じりの自分の声と頭の中までかき乱すような水音に、これまでとは違って目の前にぼんやりもやがかかる。
 
 熱くて溺れそう。
 いっそのこと溺れてしまいたい。

 キスを交わしながら抱き上げられて、気づいた時にはベッドの上で何も身につけていなかった。

「ロー、きれいだ」

 恥ずかしいけれど、好きな人に言われるのが一番幸せで嬉しい。

「エル、抱きしめて」

 素肌で抱き合って再び唇が重なる。
 今が一番幸せかもしれない。
 何も身につけずに触れ合うのがこんなに愛しくて幸せな気持ちになるなんて思わなくて、伝えたくてたまらない。

「愛しているよ、ロー」

 先に言おうと思ったのに。もしかしたらエルも同じ気持ちだったのかも。

「私も愛しているわ。こんなに幸せなのね、愛を交わすことって」

 エルは私の顔を見下ろして笑った。
 その顔はいつもより男らしくて、荒々しい雰囲気をまとっている。

「あ……っ」

 だけど彼の大きな手が壊れ物を扱うように優しく身体を這う。
 もどかしいような、もっと触れてほしいようなすごく変な気持ち。

「ローのすべてを知りたい。すべて触れてキスして俺のものにしたい」
「いいよ、全部エルのものだもの。エルも私のものよね?」

 一瞬動きを止めた彼が、ささやいた。
 
「明日は二人とも馬車で眠ることになるかもしれない」
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