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いち 通訳した結果
しおりを挟む「貴様とは婚約破棄だ!」
「そんな……! 私は何も罪になるようなことはしていません!」
「ならどうして、彼は怪我をしている? 貴様が仕組んだんだろう?」
王太子の婚約者が、彼の恋人を亡き者にしようと計画したらしい。
痴情のもつれって怖い。
自国の王太子の前で言えないけど、先に浮気して恋人作るっておかしいから。
自業自得なところもあるよ?
この国は男女どちらも子どもを産める選択権があって、王太子の性的嗜好から相手は全て男。
二年前にこの世界の住人になった腐女子の私にはなんと、ミラクルな世界なんだろう!と思ったものだ。
だけど、二次元のBLのほうが好きだし、もうお腹いっぱい。
王家の森に突然現れた私は完全に不審者だった。
なぜか近隣数カ国の言葉を理解できて話せる能力があることがすぐにわかり、スパイ疑惑もあったけど、きっと流浪の民で天才児ゆえに家族に気味悪がられて捨てられた可哀想な子扱いで一応誤解は解けた。
うん、色々思うところはあるけれど。
ミンナヤサシカッタ。
言葉がわかるって異世界あるあるだし、まぁいっかと思って十八歳であることを隠して向こうの言うまま八歳になった。
うん、ありえないよね。
こっちの人は大きいし、彫りも深いからかな。
でも私はもともと童顔で、凹凸のないひょろっとした身体だから仕方ない。
日本でも身分証が必要ないところでは、中学生料金……時には小学生料金を支払って金が浮いたと喜んでた。
ケーキの食べ放題とか。
焼肉の食べ放題とか。
多分、そういう悪いことの積み重ねでこの世界に堕とされたのかも。
きっと、そうに違いない。
普段は役所で移民の対応をして(多分監視)こちら年齢十歳の今、パーティなどで通訳の通訳として働き始めた。
ちなみにパーティの時は十六歳と言うように指導されている。
間違った通訳のせいで他国に攻め込まれた過去から、食い違いがないか二重にチェックするのがこの国のやり方みたい。
この国はさ、私に対する扱いもだけどなんかおかしい。なんか抜けてる。
白けた気分で婚約破棄劇場を見ていたけれど、トントンと肩を叩かれた。
彼は通訳の調整役で、貴族だけどものすごい気さく。
「クミ、あちらの皇子が、今のやりとりを通訳してほしいそうだ。あまりにもなまりがキツくて、担当者が聞き取れないらしい。補助じゃなくて直接通訳して」
「……オブラートに包んだ方がいいですか?はっきり言っていいんですか?」
「……あちらは言葉を飾らない国柄だから、はっきり言っていいだろうよ。あんなの見せられてごまかしたら余計に勘ぐられる」
そうだけど、あんな恥部を語っていいもんかな。
異世界の常識は一味違うわー。
まぁ、仕事だからいいけどさ。
「わかりました。行ってきます」
「失礼します。私は通訳のクミです」
先輩の通訳さんにギロリと睨まれながら交代する。
彼女は子爵令嬢で、皇子の国との縁がほしくて立候補したらしい。
もう一人はほぼいるだけのおじいちゃん。
この場におじいちゃんが残るみたい、よかった。
「クミン……かわいい名前だね。オレの言葉聞き取れる?」
私の名前の呼び方がスパイスみたいになってる。
まぁ、どうでもいいけど。
彼は低く深みのある声でゆっくり話した。
三十歳くらいに見える浅黒い肌に彫りの深い顔立ち。
ナマステ~っていうのが似合いそう。
まぁ、どうでもいいけど。
「はい、わかります」
明らかにほっとした様子で笑い、今も続く王子の婚約破棄劇場を訳せと言った。
「あの……初めからまとめてお伝えしますか? それとも、今話していることからにしますか?」
「では、簡単な説明の後そのまま教えてほしい」
王太子が婚約者がいるのに恋人を作り、婚約者が恋人を害そうとして糾弾、婚約者は無実だと訴えているが、王太子が次々と罪状を読み上げている、と。
追いついたので、今度はそのまま伝えていく。
「王太子が『貴様は結婚するまで清い体でいたいと寝室に寄りつかなかったが、彼は私の寂しい夜を慰めてくれたのだ』と」
いや、それ浮気ーー。
無理。不潔、不潔。
「ふむ……」
「婚約者が『初夜は大切な王家の儀式だと聞いております、そう軽々しく身体を開くなどできません……あなたのことを信じて愛していたのに!』と」
そりゃそうだよねー。
私は婚約者の味方しちゃうわー。
「なるほど?」
「恋人が『愛する人と体を繋げるのは愛情を確かめ合うこと、あなたには愛が足りないのだろう』と」
人のもん横取りしておいてそりゃどうだろう?
順番がおかしくないかな。
「ほほぅ」
「王太子が『私を愛していると? ならば婚約破棄は取りやめて、第二妃として迎えいれよう。今まで通り王妃教育を受け、輿入れした際には業務を任せる。私は一番に愛するものを正妃とする!』と」
はぁ~? 何言ってんの?
恋人殺害計画糾弾してたのなんだった!
結局うやむやにするんかい?
こりゃ、だめだ。
「意見が合うな」
「はい?」
さっきまで適当に頷いていた皇子が私をじっとみつめた。
「この国はあの王太子が治めるようになったら終わるだろう。……お前はオレと一緒に国に来い」
「……あの、どうしてでしょう?」
あれ?
まさか。
「お前の通訳は心地よい。それに、お前のことが気に入った。包み隠さず話す姿が好ましい」
ぽろりしてたのか‼︎
だけど、これってラッキー?
新たな就職先みつけたってこと?
沈む国の監視から逃れられる~‼︎
「……あの、ぜひついて行きたいところですが、辞められるかどうかわかりま」
「いや、そんなものは気にしなくていい。こちらで処理しておく。……家族は?」
「誰もいません」
「……そうか。恋人は?」
「いません」
「それはよかった。……じゃあ、このまま連れて行くぞ」
ひょいっと持ち上げられて、後ろに立つ侍従に何事かささやいて連れ出された。
侍従が育てて妃にするつもりですか、って冗談言ってたけど。
平民だし、そんなことあるわけないよね。
しかしなんで皇子が彼の国の通訳つけてなかったんだろ?
「ところでクミンはいくつになるんだ?」
「……若くみられるのですが……実は二十歳です」
驚かれるかと思ったけど、意外にも満足げに笑って言った。
「そうか。これからはオレのことはジェリーと呼べ」
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