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 そんなつもりはなかった、って言おうとして唇をふさがれた。

「んんっ……!」

 半端に開いていたから林の舌がするりと口内に忍び込む。強引だけど強引じゃない。
 なんでそう思うのか不思議だけど、反応を確かめながら誘うように唇を重ねてくる。
 
 こんな状況なのに、林がモテるのがわかるとかそんなことが頭に思い浮かんだ。
 キスしながら優しく髪を撫でるとか、抱きしめる腕は逃げられそうなくらいゆとりがあるなぁとか。

 心地いいキスに慰められているような、いたわられているような、欲情してるって感じじゃない。余裕がある。
 そう思っていたら、林が自然な動きでスカートの裾から手を入れて下着の中に忍び込ませる。

「あれ?」

 林の指を濡らしたのを感じて、思わずぎゅっと目を閉じて身構える。

「なみちゃんって濡れやすいタイプ? 感じてるって顔じゃないもんな」

 そう言われてハッとした。
 目の前にいるのは女の子慣れした林で元カレじゃない。
 元カレは体質的に濡れやすいなみのことをエロいカラダだとか淫乱とかムッツリとか言って笑った。

 そういう言葉が興奮するから好きだと言って、なみが嫌がっても本気に受け取らなかったのは苦い思い出。

「どうせなら俺が欲しくてたまらない、みたいな顔を見たい」

 林の言葉に驚いて顔を上げた。
 この先に進むつもりはない。
 そう言って離れようとしたものの、唇を塞がれて言葉は全部彼の口の中へ吸い込まれる。

 後頭部を押さえられて上あごをぬるりと舐め、なみのこわばった舌を解きほぐすように絡ませてくるから、背中のほうからぞくぞくとした感覚が這い上がってきた。

 よりによって林とこんなことしちゃいけないのに。
 でも武勇伝のように話す男じゃないし、今夜のことを自分から漏らすこともないはず。これまでだって女の子のほうが広めていたから……だから。

「ベッド、行こう」

 林はそう言ってなみを抱えてパンプスを脱がせると彼も靴を蹴るように脱いで部屋に入った。
 玄関の明かりだけで一つ目のドアを開けたら室内を見渡せる。
 まっすぐベッドに進んで下された。

「林は今、彼女いないの?」
「いない」

 でもセフレはいる、って続きそう。
 彼女がいないなら今夜だけ。
 自分にこんなことができると思わなかった。

「なみちゃん、可愛い」

 手際よく服を脱がせながら、時々肌にキスを落とす。
 慣れてる。
 愛はないのに気持ちいい。
 相性というより経験値の違いかな。
 
 林のワイシャツに手をかけてボタンを外していく。
 鍛えているって噂は本当だったらしい。

「ジムは……週にどれくらい?」
「週に3日か4日。か、5日。土日も時間があれば行く」
「そうなんだ」

 カッコいいねって言ったら林が珍しく顔を赤らめた。

「調子狂う。なみちゃん、余裕があるよな」
「余裕なんてないよ、ただ静かなのが恥ずかしくて」
「へぇ……? もっと考える余裕がなくなればいいのに」

 首筋に息がかかったと思ったら、胸をすくい上げるように包み込んでゆっくり指先を動かす。先端をかすめるように動くから、弱い刺激に逃げたくなった。

「どこが好き? 黙っているのがつらかったらどうされるのが好きとか触ってほしいところを教えてくれてもいいけど」
「わ、かんない……っ」

 林の指先が胸の先端をとらえてきゅっとつまむ。体に電気が走るように感じた後、口に含まれてさらに脚の間が濡れるのを感じた。  
 胸に触られるのはあまり好きじゃなかったのに、林の触れ方は少しも嫌じゃない。

 元カレは濡れてるから感じていると決めつけて、前戯もほぼなく勝手に挿れて気持ちいいよねって言ってた。
 少しは心地いいと思ったこともあるけど、ただ体を使われているみたいで良さがわからないまま。

「愛されてきた女のカラダって興味あったけど想像とちがった」
「つまんないよね」

 元カレたちもきっとそう。すぐに背を向けて眠ってしまったし、魅力がないんだと思う。

「そうじゃなくて。もっと開発されてると思ってたから、逆に楽しい」

 林の顔をまじまじとみつめた。

「戸惑った顔も可愛いね、なみちゃん」

 会社でもよく見る爽やかな笑顔。
 林とこんなことしてるなんて信じられない。

「もう考えるのはやめよう。俺の顔、嫌いじゃなかったら見ていて」

 




 整った顔を見つめ続けていると、林のことしか考えられなくなる。

「最高に可愛い」

 触れられるすべての場所が熱を持つ。
 今まで生きてきて言われた回数よりも多く、可愛いと言われた気分。
 今までってなんだったんだろう。

「彼氏と別れてから初めて?」

 内壁を探る指の動きは緩やかで、痛くない。
 同時にクリトリスにさわられると勝手に体が震えてしまう。

「んっ、そう、だけど、動かさないで……っ」
「どうして? 気持ちよさそうなのに。何度だってイケばいいよ」
「あっ、だって……っ、ん、あぁっ!」

 すべらせるようにクリトリスに触れられて彼の指を締めつけながら果てた。
 するとこじ開けるように指を増やすから、その刺激に体がびくんと跳ねる。

「今はっ、だめなの、に……」

 果てても終わりが見えない。
 感覚が鋭くなって、感じる場所が増えていく。自分の体なのに全然わかっていなかった。

「ナカでイけると楽しいよ。どこがイイか探すから」

 内側は感じたことがないのに、林の指はゆっくりと確実に快楽を教えてくれる。
 激しく動かすこともないのに的確にポイントを見つけてしまうのはいろんな女の子を抱いてきたからかも。

「林、病気持ってないよね?」



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