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50 ポークリブフェスティバル ※

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 美しい湖のほとりに、似つかわしくない大きくて派手な看板が立てられています。

「良い香りがするな」

 炭火で焼いた肉の良い香りがしました。

「公園の中で開催されているんですね」

 バタータルトフェスティバルの後、ポークリブフェスティバルというものがあることを教えてもらいました。

 やはりフードフェスティバルが好きな方々はいろんなお祭りを知っているようです。
 特に甘いタルトを食べた後だったので、骨つきのバラ肉を食べたい気持ちが高まりました。

 とくにブレンダン様が乗り気で、開催時期を聞いてすぐに予定の調整をしたのです。
 ちょうど王都に二人で出席しなければならないパーティーがありましたので、滞在期間を縮めて帰りに寄ることにしました。
 
 王宮の料理は贅も手も込んでいるのですけど、ダンスパーティーの時は手をつけることもほとんどありません。
 だいたい宿屋で軽く食べてから出席するのですが、時々ブレンダン様と夜食をいただきます。

 領地で過ごす時より不規則で簡素な食事になってしまうので、ポークリブフェスティバルはお腹いっぱい食べることができるでしょう。
 それにブレンダン様がおいしそうに食べる姿は見ていて気持ちがいいのです。



「ポークリブフェスティバルは各地の料理店やお惣菜屋が集まっているらしい。バタータルトの時とは雰囲気が違うな」

 あちらは地元のお店を優遇していましたが、こちらは明るくて開放的な雰囲気です。
 ビールを片手に太陽の下で骨つきのリブにかじりつくのは豪快だと思いました。

 女性も食べていますから、私もひと口くらいチャレンジしようと思います。
 ブレンダン様も許してくれるでしょう。
 ナイフとフォークも用意されているようなので、なんとかなります。

「スペアリブとバックリブがあるな。どちらから食べようか」

 ブレンダン様が楽しそうに言います。
 目移りして迷っていますと、

「アリソン、まずバックリブにしようか」

 スペアリブは豚のお腹側の骨つきのバラ肉で、バックリブは背中側の骨つき肉なのだそうです。

 まずはマーマーレードジャムを使って煮こんだバックリブをいただきました。
 柑橘の香りで肉の臭みを感じませんし、少しほろ苦いです。
 
「……思ったよりさっぱりしていて、やわらかいですね。おいしいです」
「お腹側より脂肪が少ないからいくらでも食べられる」
「まぁ……ブレンダン様ったら」

 他にもオレンジの果汁で煮たものもありましたし、濃厚なソースを絡めて焼いたものや、シンプルに塩焼きしたものもありました。

 スペアリブはさらに味つけの種類が多いようで、異国のスパイスをふんだんにつかったり、ニンニクがきいていたり、トマトが使われていたりして炭火でカリッと焼いたものが人気のようです。

 しっかり焼いてあるので、余分な脂が落ちておいしくいただきました。
 指先がソースまみれになってしまいましたが、周りも同じなので気にしません。
 とても楽しいですもの。

「こうして手に持って食べていると、生きていると感じます。力がわいてくると言いますか」

 私たちのずっと昔の祖先も手づかみだったはずですから、今本能が目覚めたような気がしました。
 ブレンダン様がなにか含むように笑います。

「そうかもしれない。私は他にも実感する方法を思い出したが」

 ポークリブフェスティバルはまた来たいお祭りの一つとなりました。









 
 
「いつも私ばかり楽しんでいると思っていたんだ。ほら、見てごらん」

 背中にいくつものクッションを置かれて、私は半分身体を起こした状態です。
 ブレンダン様の昂まりを受け入れるところを見せられました。

「ブレンダン、さま……っ」

 目を閉じてしまいたいのに、ゆっくりと動くさまを見せつけられて目が離せません。
 ブレンダン様の身体も自分自身も今では知らないところはないはずです。

「可愛いな、あなたは」
「いつも……見ていたの、ですか……?」

 すべてをさらけだして、今さらとも言えるのですが、これは刺激的すぎて――。

「いや」

 ブレンダン様が慈しむような笑みを浮かべました。

「あなたの顔を見ている時間のほうが長いだろう。……そんな顔を見られるなら、もっと前に教えてあげればよかったな」

 私はどんな表情をしているのでしょう。
 困って視線を下げると、二人のつながりが見えてしまいます。

「可愛い人、もっと動いて見せてあげようか?」

 言葉どおり、ブレンダン様が腰を揺らします。
 
「んっ、あ……んん」

 どうしましょう。
 いつもよりひどく、シーツを濡らしてしまっているようで、ブレンダン様の昂まりがなめらかに押し入ります。

「もう、十分ですから……あぁ!」

 触れてほしいところをかすめるだけですぐ腰を引いてしまうものですから、少しもどかしく思いました。

「二人であれだけ食べたんだ。体力も持久力も有り余っているはずだよ」

 リブをたくさん食べた後、のんびり休憩もしましたし、散策を楽しみました。
 一緒に宿屋の大きな湯船に浸かってさっぱりしましたし、確かに疲れもとれたのです。
 本当にブレンダン様はまだまだ余裕があるのでしょう。口角を上げて笑っていますもの。
 
「……っ、そう、いうことでは、なくて……!」

 有り余る体力でどれだけ焦らされてしまうのでしょう。

「もっと? ああ、本当に可愛いな。そんなふうにおねだりされたらなんでも叶えてしまうよ」

 ブレンダン様が私の脚を撫でました。
 無意識に夫の腰に脚を絡めて引き寄せようとしたみたいです。

「ブレンダン様が、いじわるするから……あっ⁉︎」

 お互いの距離が一気に縮まって、隙間がないくらい密着しました。
 奥深くに夫を感じて、ただそれだけで身体が甘くしびれて震えるのです。

 あっという間に達してしまうのも、お互いの愛をいつも感じているからでしょう。
 全部ゆだねてしまいたくなりました。

「あなたが可愛くない日なんて一生来ないだろうな。いじわるする気になんてならないよ」

 そう言いますけど、ブレンダン様は楽しそうに私を焦らして翻弄するのです。
 私は十分満たされて、身体がとけてしまいそうなくらい熱くなっていますのに。

「ほんとう、でしょうか……っ」
「可愛い人、大事に愛おしんでいるだけだよ。困ったな、伝わっていないようだね」

 まったく困っているようには見えません。
 
「今夜は私の気持ちをしっかり伝えないとだめだな。いつもの十倍くらい」
「十倍……⁉︎」

 ブレンダン様は困惑する私を抱き起こして深く口づけました。
 夫の昂まりはずっと硬いままです。
 口づけの合間にささやきました。

「ブレンダン様、愛してます。ブレンダン様の気持ちは十分受け取っていますわ」
「そうかな? まだうまく伝えきれないんだ」
 
 ブレンダン様の笑顔を目にした次の瞬間、私は天井を見上げていました。
 目の前には優しそうで優しくない顔です。
 いえ、やっぱり優しいのですが……。
 もうよくわかりません。

「……ブレンダン様」

 愛しい夫の頬に手を伸ばしました。
 私の手の平にそっと唇を押しつけます。
 とても、愛情深い人なのです。

「アリソン、愛しているよ」

 普段から体力がありますのに、こんな日はまどろみと睦み合いをくり返しながら朝まで過ごすことになるのでした。
 

 
 
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