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42 極寒の海に飛び込んで ※

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* 新しい年ですね。皆さまにとってより良い一年になりますように。今年もよろしくお願いいたします!







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 今年の年越しはブレンダン様の友人夫妻に誘われて、南にある温暖な海辺の領地にお邪魔しました。
 家族で気兼ねなくのんびり過ごして欲しいと誘われたのです。
 
 コーツ伯爵家の領地と違って、海が近いのにとても暖かく感じました。
 雪に覆われた領地で静かに過ごすのも大好きですが、雪の少ない暖かい場所も外へ出かけることができて楽しいです。

 ここでは驚くことに、猛者たちが新年最初の昼間に海に飛び込むのだと聞きました。
 暖かい土地だからこそできることだと思うのですが、それでも水温は冷たいでしょう。
 
「愛する人のために、私も今年は挑戦しようと思う」

 ブレンダン様は二十歳くらいの頃にも参加したことがあるそうです。

「大丈夫ですか? とても冷たそうですもの」
「そうだね、冷たいけれどお祭りだから」

 ブレンダン様と一緒に参加する友人も笑っています。彼のほうがさらに五歳年上なのですが、ほぼ毎年参加しているのだとか。

「焚き火もあるし、みんな無理はしないよ」

 体調を崩さないか少し心配ですが、無理はしないというので見守ることにしました。
 だってとても楽しそうに笑うのですもの。

「寒かったらすぐ戻って来てくださいね」
「わかっているよ」

 思ったよりも参加する人が多く、見学している人たちも多いです。
 海風が冷たくて、眠ってしまったジェナを頼りになる乳母に任せて暖かい部屋に残ってもらったのは正解と思いました。

 寒空の下、半裸の人もいますし正装している人、どこかの民族衣装の人、みんなそれぞれ好きな格好をしています。
 新年でみんな浮かれて楽しげに笑っていましたが、ちゃんと着替えも持ってきている様子でした。

 体調の悪い人とお酒を飲んだ人は飛び込んではいけない決まりがあるようで、看板もあって念のためにお医者様も呼ばれているようです。怖そうな先生なので、無理をしたら叱られそうでした。

 浜辺には何ヶ所か大きな焚き火があって、勢いよく燃えています。
 ホットチョコレートも売っていますし、食べ物の屋台もありました。

 もう何年も続いているのでしょうが、最初に勢いで飛び込んだ人はこんなにたくさんの人を巻き込むお祭りになるとは思わなかったでしょう。

 ブレンダン様もすぐ戻ってきて欲しいものです。
 ブランケットと浴布を抱えて見守りました。

 楽器隊が立ち上がってかまえたので、そろそろのようです。
 笛がピーッとなり、太鼓がドーン、ドーンと響きました。
 それを合図にそれぞれ叫び声を上げながら走り出します。

 ブレンダン様を目で追いかけていますと、こちらに手を振った後、ためらわずに水の中に入りました。
 心配になって思わず両手を合わせます。

 寒い、冷たいとの参加者の叫び声や、がんばれなどの声援やはやし立てる見学者の声、太鼓の音がリズム良く鳴り響き、混沌としています。

 ブレンダン様の友人夫妻も参加したのですが、膝が浸かるところまで入った後はすぐに戻って私に声をかけました。
 手をつないで震えています。

「焚き火にあたったら先に戻っているよ!」

 二人は寒い寒いと笑いながら走っていきます。
 私も参加したほうがよかったのでしょうか。
 ブレンダン様は、いつの間にか先頭の集団と一緒にいます。

 楽しそうに笑い合って、一瞬彼らと海の中へ潜ってしまいました!

「まぁ……⁉︎」

 すぐに顔を出して私を見つけると、こっちに向かって手を振り、まっすぐ戻ってきます。
 きっととても寒いはずなので、私もブレンダン様に駆け寄りました。
 薄手のシャツとトラウザーズが体に張り付いています。

「つい、張り切ってしまった。とても寒い」

 そう言って笑い、私が差し出した浴布とブランケットに包まります。
 ポタポタ落ちる水滴が私にもかかり、冷たいです。でもかまわず抱きつきました。
 
「あなたが濡れてしまったな」
「早く焚き火に行きましょう」

 焚き火の前にはたくさんの人がいました。
 人をかき分けてでもブレンダン様を暖かい場所へ連れていかないと。
 そう思いましたのに、ブレンダン様が私の手を逆方向に引きました。

「ブレンダン様?」
「向こうへ行こう」

 夫が指差したのは、海沿いに建つ立派な宿屋です。
 
「実は一部屋借りているんだ。風呂に入れる」
「……準備がいいのですね」

 こうなることがわかっていたのでしょうか。

「寒い、急ごう」

 そう言われて私たちは小走りになりました。








 大きな部屋ではありませんが、海側に面した明るい部屋で可愛らしい作りです。
 恋人同士が過ごすのにとても良さそうな部屋でした。
 窓からは海に飛び込んだり、焚き火にあたる様子がよく見えます。

「ブレンダン様、早くお風呂へ」
「アリソン、脱ぐのを手伝って」

 ブレンダン様の体がとても冷たいです。
 手も冷たくて、濡れたシャツのボタンを外すのは難しいと思いました。

「はい。じゃあ、あちらへ」

 小さなボタンを外していますと、ブレンダン様がなぜか私のドレスのボタンを外すのです。

「ブレンダン様?」
「一緒に温まろう。あなたも濡れたし寒かっただろう?」
「でも」

 それほど濡れてはいませんが、とても寒かったので足先や指先が冷えています。ブレンダン様ほどではないですけど。

「話していたら凍えてしまう」

 そうでした。
 ブレンダン様に今すぐ湯船に浸かってもらわなくては。

「わかりました」

 そう答えると、ブレンダン様が私のドレスを床に落としました。
 手際がいいです。
 なんだか少し納得いきませんが、一緒に湯船に浸かることになりました。

「とても冷えてますね」

 向かい合わせでブレンダン様の膝の上に乗り、夫を温めるように抱きしめました。
 顔も耳もとても冷たいです。
 少しぬるめの湯ですが、ブレンダン様にはちょうどよかったようでした。

「あなたに温めて欲しいね」
「……もう少し熱い湯を足しましょうか?」

 私が言うと、ブレンダン様は片方の口角を上げて笑いました。

「それだけでは足りないな」

 熱い湯を足しながら、戯れるように私たちは口づけを交わしました。
 夫の手が私の体を愛おしげに撫でます。
 あぁ、でもこの触れ方は……。
 
「ブレンダン様、戻らないと」
「少しだけあなたを感じたい」
「……もう、」

 優しく瞳が誘ってきますから、困ってしまいます。

「いやか?」
「……いやじゃありません」
「よかった」

 夫の指が脚の間を探り、指が差し込まれました。ゆっくりと拡げるように動くのですが……。
 指の節を感じるくらい、私の体は勝手に締めつけてしまいます。

「あなたは本当に可愛いな」
「ブレンダン様さまっ、ベッドへ」

 湯船の中は十分に動けませんし、せっかくなら可愛い柄のリネンのかかったベッドのほうがいいと思ったのです。

「アリソンが望むなら」

 そう言って私を抱き上げて、そのままベッドへ向かいました。
 ブレンダン様は私と一緒に横になり、腰の位置をずらして昂まりを私の中へ押し進めます。
 それは焦らすようにゆっくりで――。

「……っ、あ、ブレンダン、さま……っ」

 もっと近づいて欲しくて夫の背中に腕を回して引き寄せました。それから迎えるように腰を上げてしまって――。

「可愛いことをするね。あなたは簡単に私を熱くする」

 ブレンダン様が最奥までぐっと打ちつけました。

「あぁ……っ!」

 それから緩急をつけた律動に翻弄されて、私は声を漏らすしかありません。
 いつの間にかお互いの体はとても熱くなっていました。

「アリソン……ッ」

 頭の中が真っ白になって快楽に打ち震える私に続いて、ブレンダン様もあっさり精を吐き出しました。
 お互いに抱きしめ合って口づけを交わした後で、夫が離れてほんの少し物足りなさを感じてしまいます。

 でもそろそろ戻らなければ。
 なのにもう少しだけ、抱き合っていたいと思ってしまいました。
 そう感じたのは私だけではなかったようで――。

「全然足りない。今夜、この続きをしよう」
「……はい」

 なんとか身だしなみを整えて戻りました。
 私も海に入ったのだと思われて、気恥ずかしく感じたのはしかたないでしょう。
 ブレンダン様に微笑まれると、夫の冷たい体と、その後のことを思い出して顔が熱くなりました。

「海辺にいたから体調をくずしたのかもしれません。早く休んだほうがいいですね」

 乳母やブレンダン様の友人夫妻が私の顔を見て心配してくださるのですが、違うのです。
 ブレンダン様は気づいているみたいですが……。

「大事をとって今夜は早めに休むことにしよう」

 晩餐をとった後、海に入ったことを言い訳に私たちは部屋に篭ることになるのでした。
 
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