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46 イースター休暇

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* 今年のイースターは4/9だそうですね。無事間に合いました。








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 昼と夜が同じ長さになる春の始まりの日の後の、最初の満月の次の日曜日にイースターがあります。
 少しややこしいのですが、毎年日づけが違います。

 多産なウサギが卵を運ぶ日だとか。
 ウサギは卵を産みませんが、命の誕生と繁栄の象徴なのだそうで、イースターをはさんで四日間はのんびりする人たちが多いようです。もちろん私たちも。

 クリスマスと同じくらい大事にされている行事で、家族と教会へ礼拝に行ったり、ご馳走を食べたり、小さな子どもがいる家庭では卵を隠して探すゲームもすると聞きました。

 ジェナが庭を走り回るようになったので、今年は私たちも卵探しゲームをすることに。
 あらかじめ卵の中身は抜いて、ブレンダン様がふわふわのオムレツを作ってくださいました。
 とてもおいしかったです。

 その後は二人でこっそり殻に絵の具で色を塗りました。
 少しでも力を入れると割れてしまいそうで、慎重になりましたが無心になれてとても楽しい作業です。

 ふと顔を上げてブレンダン様を見ますと、大きな手で卵を包み込むように持ってササッと色を塗っていました。
 本当になんでも器用にこなすので、

『手慣れていますのね』
『そうでもない。料理長に卵の扱いは気をつけるように言われたからだよ。それより、アリソンは色の組み合わせがいいね、とても綺麗だ』

 春らしい花の色や明るい空の色を塗り終わったところです。

『そうでしょうか?』
『とてもいい。それは私が見つけて飾っておきたいものだね』

 前日の夜に隠して、翌朝みんなで探すつもりでいました。

『きっと土で汚れてだめになってしまいますわ』
『雨が降らなければ大丈夫だろう』

 お互いに褒め合って作ったイースターエッグは十二個。
 卵を食べるのは少し大変でしたが、ブレンダン様は相変わらずたくさん食べます。
 体を動かしますから最初に会った時から少しも変わりません。

 むしろ少したくましくなったようで、それは私に飽きられないように鍛えているからだというのです。
 どんな姿でもブレンダン様のことは大好きなのですけど。

『初めて作ったが、おもしろいね』
『そうですね。次は子どもたちと一緒に用意してもいいかもしれませんね』

 ジェナだけなら飽きてしまいそうな数ですが、少し前からブレンダン様の友人夫婦の五歳の男の子ミロシュを預かっています。

 夫人が病に倒れ、軍人のため一人で子どもたちの面倒を見ることができないと困っていました。
 ミロシュの兄たちは歳が大きく離れていたため、全寮制の学校に入ることができたようです。

 小さなミロシュを辺境の赴任先に連れて行くこともできず、夫人は隔離されることになりました。

 ミロシュはきっと寂しい思いを隠しているのだと思いますが、ジェナの手を握って歩く姿はとても可愛く、頼もしくみえました。
 小さな子のお世話で気がまぎれるのかもしれません。

 そうであってほしいと思います。
 最初は私も男の子とどう接したらいいか戸惑いましたが、ブレンダン様が子どもの扱いがとても上手なのと、大人しい男の子なのでようやく慣れてきました。

 女の子とは違った可愛さ、愛おしさがあります。ここで暮らす間は無邪気に笑ってほしいと思いました。
 
「イースターエッグは十二個、この庭園の中にあるよ。さあ、探しに行こう」

 ブレンダン様の声に、よくわかっていないジェナはミロシュの手を離して庭を駆け出しました。
 驚いてこちらを見上げるミロシュに、ブレンダン様が言います。

「ジェナと私がチームになるよ。ミロシュはアリソンと探したらいい」

 スカートを持ち上げてミロシュに近づきますと、背筋を伸ばして私に小さな手を差し出してきたのです。
 小さな紳士の姿に頬がゆるみました。

「ミロシュ、私たちが勝ちますよ」
「はい!」

 ふっくらした小さな手を握ってミロシュの思うままについていきます。
 私が手がかりを出さなくても大丈夫かもしれません。賢い子です。

「ジェナ、私たちも負けられないね……ジェナ! そこまでだ! 庭園を出てはいけないよ!」

 走り出したブレンダン様をみて、ジェナは追いかけっこが始まったと思ったようです。
 走り回る二人を横目に、私とミロシュはのんびりイースターエッグを探しました。

 結果は――。

「ミロシュ、たくさん集めたね。ジェナ、可愛い卵を見つけたね」

 ミロシュが八個、私が一個。
 ブレンダン様が二個、ジェナが一個。
 ブレンダン様はしっかり私が作ったイースターエッグを手にしていました。

 ミロシュもジェナもほこらしそうな顔をしています。
 子どもたちをねぎらいながら、ブレンダン様も満足げな表情を浮かべていました。

「屋敷に戻ってお茶にしましょう」
 
 私の言葉に今度はジェナとミロシュが手をつないで先に歩き出します。
 侍女たちが子どもたちの手洗いや身支度を整えてくれるでしょう。
 
 私はブレンダン様の腕に手をかけてゆっくり歩き出しました。
 少し疲れました。

「私が負けたから、あなたの願いを一つ叶えよう。何がしたい? 何か欲しい?」

 ブレンダン様がそう言います。

「もう十分いただいていますわ。これ以上に欲しいものなんて――」

 思わず屋敷に造られた新しい子ども部屋を見上げました。
 ジェナとミロシュ、それから少し前に生まれた娘のビビアン。

「なにもありませんわ」

 ブレンダン様が私の顔をのぞきこんで、そっと唇を重ねました。

「思い浮かんだら教えて欲しい。いつでもあなたの願いに応える用意がある」

 イースターの今夜はラム肉のローストと厚切りのハムステーキ、デビルドエッグなど肉料理が並びます。
 今夜のブレンダン様もとても元気そう。

「わかりました」
 
 たまには私から誘ってもいいかもしれません。
 愛しい夫と触れ合いたい気分です。
 デザートのキャロットケーキを控えようと思うのでした。



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