31 / 51
【2】
31 ナイトマーケット ※
しおりを挟む湖の山小屋でのんびり過ごした後、私たちは屋敷に戻りました。
そわそわしてしまうのは、夏の陽気のせいでしょうか。
「準備はいい?」
「はい、ブレンダン様」
今夜は領地で一番栄えている街に向かいました。
日も長く過ごしやすいので、夜遅くまでお店が開いています。
人も多く、お酒を飲んだり食事をしたり、まるでお祭りのように賑やかでした。
最近は移民の方々のお店が増えています。
新しく商業組合の会長さんが変わってから、色々なことに取り組んでいるようでした。
夕方になると新しい屋台が並び、見たことのない色や形の食べ物や飲み物、変わった置き物や装身具、とても興味深くて刺激的で面白いです。
自警団の見回りもありますから、大きな揉め事も起こりませんし、日付けが変わる頃まで街は明るいままでした。
私たちも領民に紛れ込んで楽しむことにしたのです。
昼間の街とは違う様子に興奮してしまいました。
「あれは一体なんでしょう? 半分ずつに分けて食べてみませんか?」
「いいね」
興味を持ったのは、細かな具材を入れて小さく丸く焼かれたもの。
異国の言葉で書かれていて名前がわかりませんが、香ばしく焼かれてブラウンソースのようなものがかかっています。
「飲み物は……あれは飲み物でしょうか?」
「うん? 多分。試してみる?」
「はい!」
近づいてみたら、南国の果物の中身をくり抜いて器にしたフルーツジュースでした。
ゴツゴツした見た目で、直接飲むことはできませんので葦を乾燥させて管状にしたもので吸うのだそうです。
ブレンダン様が持ってくださいました。
他にもお米の上に変わった調味料で味付けしたお肉を焼いてのせたものだとか、ポテトを螺旋状にむいて串に刺して揚げたものだとか、たくさんあって一晩ではすべて楽しむことはできません。
「これは想像したより柔らかいな。中に魚貝が入っているよ。アリソン、熱いから気をつけて食べたほうがいい」
ブレンダン様が先にひとつ口にしました。よくわからない食べ物なので味見してくださったのです。
過保護だと思うのですが、他国で涙が出るほど辛かったり、塩っぱかったりする料理を食べたのだとか。
私がフォークで半分に切ると、とろりとして頼りないかたちになりました。
すくって口に運びます。
「グラタンのような食感ですね。ソースが異国風で、……おいしいです。丸く焼けるってすごいですね」
「あぁ、くるっとひっくり返すところは見ていておもしろい。このサイズも摘みやすくていいね」
ブレンダン様も楽しそうに笑っています。
南国の果物のジュースも甘くてびっくりしました。
美味しいのですが、強く吸わないといけませんし、想像と違って舌がピリピリしましたので不思議と笑ってしまいます。
とにかく新しい経験が楽しくてたまりません。
フルーツに飴がかかっているものや、ごく薄く焼いたパンケーキにクリームやチョコレート、または果物を挟んで巻いたものもありました。
「一日じゃ回りきれないな。また来なくてはいけないね」
「はい、また来たいです。……次は夕食抜きのほうがいいかもしれません」
「全制覇するには、そのほうがいいね」
ブレンダン様が笑って言います。
本気でしょうか。
炊いたお米に具材を乗せて黒いもので包んだものは、少し奇抜で手が出しにくいです。
買っていく人々もちらほらいるので、食べ物だとはわかっているのですが……。
興味はあります、でも。
「アリソンが苦手なものは全部私が責任を持つよ」
「ブレンダン様は苦手なものはないのですか?」
「ないね」
元々軍隊に所属していたからでしょうか。なんでもたくさん食べますし、見ていて気持ちがいいくらいです。
「だからね、遠慮せずに頼んだらいい」
「では次の時に。今日はもうお腹いっぱいですもの」
私たちは喧騒の中、ナイトマーケットを後にしました。
部屋に戻っても、気分は高揚したままです。
私たちの住む領地も、少しずつ変わっているのだと実感しました。
どんどん住みやすくなっているのだと思います。
ブレンダン様は領民の話を気さくに聞く方ですし、良いと考えたら柔軟に取り入れますから。
「アリソン、貸してごらん」
湯浴みを終えて鏡台の前で髪の手入れをしていましたら、ブレンダン様に浴布を奪われました。
最近では私よりも手早くていねいに髪を扱うように思います。
「ありがとう、ブレンダン様」
「私の楽しみでもあるからね」
その間に私が肌の手入れをしていますと、髪にオイルを塗り終えたブレンダン様がうなじに口づけを落としました。
私が平静を装っていますと、髪を耳にかけて耳たぶを食みます。
鏡越しを視線が合いました。
「ブレンダン様、あと少しで終わりますから」
「好きに触れているから、ゆっくりでいいよ」
「でも……んっ」
息がかかってくすぐったいですし、体が震えてしまいます。
「私も手伝おうか」
ブレンダン様がオイルを手にたっぷりとりました。両手で伸ばして私の腕に塗り込みます。
大きな手のひらですべらせて、伸ばしました。
普段の私のやり方を覚えてしまったみたいで、押したり撫でたりなかなか上手です。
だから油断してしまいました。
ガウンの下にするりと入り込み、胸にも塗り込みます。
「あ……っ、私が」
「たまには私にまかせて」
オイルのせいで、つるりとすべりいつもと違う感覚に胸の尖りがブレンダン様の指にひっかかります。
気づいた夫が時々指の腹でつまんで刺激するので、声を抑えるのが難しくなりました。
「ブレンダン様、……もう、大丈夫ですから」
お腹にもオイルを塗り込まれ、指先が下へと向かいます。
ガウンの下は何も身につけていませんから、なんの障害もなく脚の間に触れました。
思わず脚を閉じてしまい、ブレンダン様は微かに笑い声を漏らして――。
「アリソン、もっと濡らしたい」
もう片手でそっと腿を押し開いて手を引き抜き、私はくるりと向きを変えることとなりました。
鏡台に背を預け、ブレンダン様が目の前にひざまずきます。
ゆっくりとガウンの裾を開いて、脚の間に顔を寄せました。
魅入られたように、私は動くことも声を上げることもできません。
「楽にしていて」
下から見上げられて一気に鼓動が速くなります。
はっとして声を上げました。
「……っ、ブレンダン様……!」
脚の間に潤みを感じて恥ずかしいのに、閉じることはできません。
「まだ何もしていないのに……あなたは本当にきれいで可愛い」
「何もって……」
さっきから私を煽るように触れていましたのに。
体がカッと赤くなるのを感じました。
「まだまだ、足りないよ」
潤みを広げるように指で触れ、ブレンダン様の舌が粒をとらえました。
「あ……っ」
こんなふうにひざまずいて触れられることはありませんでしたから、恥ずかしくてたまりません。
なのに私の体は悦んで、夫の指を濡らしてしまいます。
いつのまにか、私はブレンダン様の肩に脚をかけていました。
下そうにも脚が震えて、椅子をぎゅっと握って力を入れるのですが、夫はますます翻弄してくるのです。
「ブレンダン、さまっ」
ちらりと視線だけ上げて、指を良いところにあてながら粒に強く吸いつきました。
「あぁ……っ」
目の前が白く霞み、ふわりと浮くような感覚をブレンダン様が引き伸ばします。
それも震える体が椅子から落ちないように腰を支えながら。
「アリソン、ベッドに行こう」
立ち上がったブレンダン様が私を抱き上げて歩き出しました。
力の抜けた私は、夫が上に乗り上げて来るのをじっと見つめます。
すごく楽しそうで……。
「ブレンダン様、いじわるしないで」
「しないよ。一緒に気持ち良くなるだけだ」
本当でしょうか。
そう言う前にブレンダン様の昂まりが、私の中へ深く――。
「んっ、あ……っ」
内壁がうねり、昂まりを締めつけ、私の体は再び頂きへと駆け昇りました。
「アリソン……ッ」
少し苦しげな顔でブレンダン様が息を吐きます。
それから、ゆっくり腰を引き、浅いところばかり攻め始めました。
「ん、どう、して……ブレンダン、さま?」
「すぐに終わりたくない。もう少し、一緒に楽しんでからにしよう」
これでは私ばかり気持ちがいいのではないでしょうか。
ブレンダン様は私に考えることも話すこともできないくらい巧みに揺さぶりました。
「アリソン、愛しているよ」
そうして一度目の吐精の後、私は抱きしめられたまま目を閉じてしまったのです。
******
お読みくださりありがとうございます。
モデルにした国でのナイトマーケットは、アジア料理(身近な屋台メニュー)が多いと聞いて取り入れてみました。
16
お気に入りに追加
1,707
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
悪魔な娘の政略結婚
夕立悠理
恋愛
悪魔と名高いバーナード家の娘マリエラと、光の一族と呼ばれるワールド家の長男ミカルドは婚約をすることになる。
婚約者としての顔合わせの席でも、夜会でもマリエラはちっとも笑わない。
そんなマリエラを非難する声にミカルドは、笑ってこたえた。
「僕の婚約者は、とても可愛らしい人なんだ」
と。
──見た目が悪魔な侯爵令嬢×見た目は天使な公爵子息(心が読める)の政略結婚のはなし。
※そんなに長くはなりません。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる