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24 王都へ 

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「第二王子の結婚式の招待状が届いた。その前日に王太子の婚約パーティをするらしい」

 ブレンダン様が王家から送られてきた招待状を開いてそう言いました。

「それはとてもおめでたいですね。きっと王都は賑やかなことでしょう」

 あまり行く機会はもとから少ないのですが、訪れるたびに新しいお店や流行りがあって新鮮です。
 たまにだから楽しめるのだと思いますが、住むとなると疲れてしまうでしょう。
 この領地で過ごす毎日がとても幸せで楽しいのです。

 社交シーズンを王都で過ごしませんので、コーツ伯爵家所有の屋敷はありません。代わりに素晴らしい宿に泊まります。
 前伯爵夫妻もそうしていたと聞きましたが、初めて泊まった時は緊張して落ち着けませんでした。

 ブレンダン様は、王都でタウンハウスを維持するより費用はかからないと笑いますが、他国の王族が泊まるほどの宿なのです。
 
 ゆったりくつろげる浴室と柔らかくて大きなベッドは、ブレンダン様がとても気に入っていて、社交を済ませた後は長時間過ごすことも少なくありませんでした。

 普段と違うからでしょうか、お互いにたががはずれてしまうようです。
 翌朝思い出して恥ずかしくて、ブレンダン様は私が落ち着くまで抱きしめてくれるのですが、なぜか再び睦み合っているのです。
 睡眠不足のまま馬車でうとうとするのがいつもの流れ……かもしれません。

「せっかくだから、一週間くらい泊まってゆっくりしてから帰ろうか」
「そうですね。ブレンダン様はどこか行きたいところがあるのですか?」
「アリソンの行きたいところかな」

 王都の方がこちらより暖かいです。
 きっときれいな花も咲いていることでしょう。
 ですが、どうしても行きたいところは思いつきません。

「今は浮かびませんが、新しい歌劇などもあるかもしれませんね。ただ、婚約パーティと結婚式だけでなく夜会などもありますでしょう? 案外忙しくなるかもしれません」

「……そうかもしれないな。のんびり宿でくつろぐ時間も必要だから、予定は詰め込まないほうがいいかもしれないね」

 ブレンダン様は何か期待するように私を見つめます。
 それから指を絡めて軽く握った後、指先に口づけを落としました。
 私の想像した通りなのでしょうか。
 頬が熱くなるのを感じながら頷いたのでした。
 








 王宮はいつになく幸せな空気が漂っています。凛々しくて存在感のある王太子の婚約式は、とても厳かな雰囲気の中とり行われましたが、第二王子の結婚式はとても温かい雰囲気です。

 彼が幼い頃は天使のように愛らしく、その笑顔を見たら誰もが微笑んでいました。
 一度目の結婚をする前のお茶会で、こっそり現れてケーキを頬張っていた姿を思い出します。
 あれから何年も経ち、こんなに幸せな日々を過ごせるようになるとは思いもしませんでした。

 なんだかずいぶん年をとったような気分になります。
 ですが、私達は結婚して一年半ほどしか経っておらず、新婚と言ってもおかしくないと思いました。

「ブレンダン様、お二人を見ていると私まで幸せを分けていただいたような気持ちになります。まるで恋人同士のようですね」

 ブレンダン様は小さく笑って私を引き寄せました。

「政略結婚だと聞いているが、そうはみえないね。だが……私達もそうだったじゃないか。お互いに歩み寄って今がある」
「そうですね。……ブレンダン様、こんなところで目立ってしまいますわ」

 恥ずかしくなって、辺りを見回します。
 今日が王家主催のお祝いだからか、わざわざ私達を見て噂をする人などいません。
 ほっとしました。
 それに、いつの間にかこのままの私達も受け入られているように感じています。
 
「アリソン、一曲踊ろうか」
「はい」

 苦手だったダンスも、ブレンダン様となら楽しめるようになりましたから、自然と笑顔になります。彼に手をとられ、向かい合いました。

 新しく仕立てた礼装姿のブレンダン様は、いつも以上に素敵です。
 今だって大好きですのに、ますます好きになってしまうでしょう。
 目を逸らすことのできない私に、彼がわずかに顔を近づけました。

「どうした?」
「今夜のブレンダン様がとても……格好良いので、見つめてしまうのです」
「…………アリソンこそ綺麗だ」

 ダンスをするには少し近い距離で、私達はステップを踏みました。
 ブレンダン様といると、いつもそうなってしまうのです。
 今夜は少しも目を離せません。
 幸せな結婚式の雰囲気に飲まれているのでしょうか。
 
「まだしばらく宿に帰れないんだ。……あまり煽らないでくれ」
「……⁉︎ そんなつもりでは……!」

 腰に回された腕がますます私を引き寄せます。そのままホールの端へ促されました。

「わかっている、バルコニーで少し休もう」
「……はい」

 ひんやりとした空気が火照った肌を冷やします。

「アリソン、今はお酒はいけないよ」
「わかっていますわ」

 ブレンダン様から渡された甘い林檎ジュースを一口飲んで、喉を潤しました。

「ここは少し冷えるかもしれないね」

 今日の気分にぴったりの甘さを感じながら、ブレンダン様の腕の中に包まれました。
 二人きりなのを確認した後――。

「ブレンダン様」
 
 私から唇を重ねました。
 すぐに彼はキスを返してくださいます。

 今は火照った顔と体を休めたほうがいいのに、止まることができません。
 髪を崩さぬように首に置かれた手が温かく、私を安心させてくれました。

「アリソン……このままではホールに戻れない」
「……ごめんなさい。ブレンダン様に触れたくなってしまったのです」

 ブレンダン様は無言のまま私を抱きしめました。

「あなただけだ。私をこれほど翻弄するのは」
「……あとで、責任は取りますから」
 
 ブレンダン様が微かに口角を上げて微笑みました。
 きっと、今夜は眠ることなどできないでしょう。
 でもいいのです。
 私も彼に触れたいと望んでいますから。

「約束だよ」

 しばらく過ごした後、私達はパーティを抜け出すことになるのでした。









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 お読みくださりありがとうございます。
この話は「好きな人に好きだと言えるのは幸せだ」とリンクしております。あちらでもほんの少し二人が顔を出しました。
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