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18 クリスマス⑤

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 冷えて澄んだ空気の中、私達はふかふかの雪の上を歩きます。
 ブレンダン様が私の手を取り、転ばないようにゆっくり私の歩調に合わせてくださいました。

「すごく暖かいよ、アリソンありがとう」
「私もとても暖かいです」

 心から喜んでもらえると本当に嬉しいです。ふわふわのショールは肌触りもよく、私の首周りを暖めてくれました。
 これから長い時間外にいても大丈夫そうです。
 
 屋敷の庭園を抜けると野生の動物の小さな足跡が残っていて、ほんの少し辿たどってみますと遠くに兎がいるのが見えます。

「ブレンダン様、あの子は冬の間何を食べるのでしょう?」
「草木やコケを。……ほら」

 前足と鼻を使って器用に雪をかいているようでした。
 これ以上近づくと、逃げてしまいそうです。

「真っ白できれいですね」
「……アリソンのほうが綺麗だよ」

 とても真面目な顔でブレンダン様が言いました。
 
「ブレンダン様のほうが……」

 そう言いかけて思わず言葉に詰まります。
 綺麗と言うのも少し違いますし。
 
「あなたは本当に可愛い。さぁ、冷えてしまうから屋敷に戻ってエッグノッグを飲もう」

 


 

 
 部屋に戻り、暖炉の前へ身を寄せます。
 私を後ろから抱きしめるようにしてブレンダン様が座り、お互いにエッグノッグを手にしていました。

 牛乳と卵と砂糖を混ぜながら温め、ウイスキーとナツメグを少々入れるのがコーツ伯爵家の決まりなのだそうです。

「甘くて温かくてとても、美味しいです」
 
 体の中から温まりますし、ブレンダン様に包まれているので少しも寒くありません。
 彼の唇が耳、それからうなじに押し当てられました。

「よかった、温まってきたみたいだな」

 少し、くすぐったいのを我慢して言います。

「はい……ブレンダン様は?」
「暖かいよ」

 私は振り向いて、背中に腕を伸ばしました。冷たくはないですが、私だけ温まっているみたいです。
 カップを置いて身をよじり、両腕を背中に回しました。

「あまり可愛いことをされると……」

 そう言われて顔を上げると、唇が重なります。慈しむような眼差しに私は何も言えなくなりました。

「あなたのことは愛しているという言葉だけでは言い表せない。何か詩でも捧げたほうがいいか?」

 私の髪を撫で、指に巻きつけるようにして弄びます。私がそれに答える前に。

「気持ちに上限がない」
「……私も、です。大好きだけでは全部伝えきれていないのかも。……ブレンダン様がどのような詩を好むのか興味があります」

「……いや、なにも。そういうものはたしなんでこなかった。……これから探してみるよ」
「では私もご一緒したいです」

 冬の楽しみがまたひとつ増えました。
 ブレンダン様が愛の詩を朗読してくださる日がいつになるのか、正直わかりません。
 ただ、想像しただけで私は胸がときめいて、けれど身悶えするような恥ずかしさを感じてしまいます。

 また好きという気持ちが増えました。
 お互いにほとんど知らない状態で結婚したので、良いところをどんどん積み重ねているからかもしれません。
 悪いところなど目に入りませんもの。

「毎日思います。……ブレンダン様と結婚できてよかったって」

 ぐっと腰を引き寄せられて、深く唇が重なりました。
 お互いに飲んでいたエッグノッグの、甘い口づけに酔ってしまいそうです。
 思いのほかウイスキーが入っていたのかもしれません。
 







 クリスマスの晩餐の為に再び着替えて、早速ブレンダン様からいただいたネックレスをドレスに合わせてつけました。
 つい、首元に触れてしまいます。黄色から緑へと濃淡のある石がとても綺麗なので。
 
「ブレンダン様、冬の特別な夜空みたいですごく好きです」
「よかった。とても似合っているよ……アリソン、すごく綺麗だ」
「曇り空や雨の夜も、これからはいつでも見ることができますね。すごく嬉しいです」

 きっと私は見飽きることはないでしょう。
 目の前に立つ、正装したブレンダン様になぜか笑われている気がしたものの、いつも以上に格好が良いので気に留めないことにします。
 お義父様もお義母様もとても素敵な装いでした。

 いつもより明かりを落とした厳かな雰囲気の中、晩餐会が始まりました。
 七面鳥丸焼きにはクランベリーソースを、なめらかなマッシュポテトにローストした野菜が添えられています。

 和やかにお喋りしていると、すべて美味しいので食べ過ぎてしまいそうでしたが、デザートのために控えました。

 食後に用意されたプラムプディングは、料理長がブランデーをかけて火を近づけますと青い炎がゆらゆらとプディングを包みます。
 とても幻想的で素敵でした。
 それを料理長が切り分けて、ウイスキー入りのバターソースを添えます。

 昨年初めて見た時も感動しましたが、今年も青い炎にため息をついてしまいました。
 正直、これまでプラムプディングは苦手でしたが、コーツ伯爵家伝統の配合で料理長が作るととても美味しいのです。

 おかわりしたくなるほどに。
 私の二倍の量のプディングを食べていたブレンダン様が笑いました。

「もう一切れ食べたらどうだ?」
「もう十分いただきました。とてもおいしかったです」

 ずっしりとしているので多く食べることはできません。
 昨年は食べ過ぎて苦しい思いをしましたから。
 空のお皿を見てもう来年が待ち遠しく思いました。
 

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