16 / 51
【2】
16 クリスマス③
しおりを挟む今朝開けた包みの中には、柔らかな花の香りのするクリームが入っていました。
「唇に塗るように作られているらしい。手や爪に使ってもいいと聞いた」
「ありがとうございます」
ブレンダン様がこれを買い求めた様子を思い浮かべると、何だかとても顔が緩んでしまいます。
指先にとり、そっと唇にのせてのばしました。少し硬いかと思いましたが、体温で柔らかくなるようです。使い心地もよく、食事の邪魔をしないくらい香りも弱いです。
「アリソン」
ブレンダン様が唇を重ねてきました。
なぜこのタイミングなのでしょう。
「とても美味しそうにみえたんだ」
「塗って差し上げます」
もう一度指先にとって、ブレンダンの唇にのばしました。そんなことをされるとは思わなかったみたいです。
「……悪くないな」
私も真似して背伸びして口づけしました。
ブレンダン様が私を抱きしめて持ち上げて何度も唇を啄みます。
悪戯する気持ちもありましたのに、驚かせることができませんでした。
まさか最初からこれが狙いだったのでしょうか。
「口に入っても問題ないと聞いた。次はもっと大きいものを買おう」
包みの中身はどれも二人で楽しむものが入っているみたいです。
翌日の香水は瑞々しい爽やかな香りで、新鮮でした。一緒につけてもなぜか匂いが違うので、お互いに距離が近い日だったかもしれません。
強い香りではないからこそ、そばに近づいて嗅ぎたくなってしまいましたから。
だんだんお菓子以外のものも増えてきたように感じます。
ですが、ちょうどいいと思っていました。
ダイニングルームには大きなお菓子の家――ジンジャーブレッドハウスが飾られていて、これはクリスマスに使用人達に分けられることになっています。
コーツ伯爵家では、お菓子の家の周りに誰でもいつでもつまんでいいお菓子が添えられているものですから、常に甘いスパイスの香りがしました。
ブレンダン様のお祖父様が始めたそうです。
「幼い頃は下から眺めるだけだったが、手が届くようになると、通るたびにビスケットを摘んだよ」
「お腹いっぱいになりませんでしたか?」
食事が入らなくて叱られることはなかったのかと気になりました。
ブレンダン様はいたずらっぽく笑います。
「ならなかったな。それに食事を取る頃にはまた腹が空いた」
言われてみれば、兄もそうでした。
驚くほど食べる時期があったので、男性はそういうものなのかもしれません。
私もきっと時々つまむと思いました。
コーツ伯爵家の伝統としてこれからも続けていきたいと思います。
クリスマスが近づいて、モミの木の下にプレゼントが増えていきます。
当日はブレンダン様のご両親と晩餐を共にする予定で、四人分のプレゼントだからでしょう。
ブレンダン様へのセーターも編み上がり、ほっとしました。
すでに一人三つ以上あるように見えます。
やはり今年のほうが頻繁にクリスマスのための市場へ行くので、素敵なものを手に取ってしまったからかもしれません。
去年は私の体がこちらの気候に慣れるように、ゆったりとした時間を過ごせるようにしてくださったのもあるのでしょう。
ブレンダン様の心遣いに胸がいっぱいになります。
目が覚めるたびに、この方が夫でよかったと思いますから。
「おはよう、アリソン」
「おはようございます、ブレンダン様」
夜深くまで触れ合っていたので、少し体がだるく感じました。
私も体力がついてきたと思うのですが、ブレンダン様はいつも目覚めがよいのです。
「湯浴みの用意を頼んである。目が覚めるよ」
そう言って私を抱き上げ移動しました。
相当ぐっすり眠っていたようで、ブレンダン様が起きたことにも気づかなかったです。
すでに部屋は温まっているので、お互いに薄着であっても平気でした。
私がぼんやりしているうちに手際よく洗ってくださり一緒に湯に浸かりました。
昨夜は向かい合ってお互いの体をつなげながら唇を啄み、のんびり会話をして、最初はゆったりとした営みだったと思います。
じわじわと高められて、ブレンダン様の手によって快楽を覚えた私の体は、些細な動きにも反応するようになっていて――。
穏やかに始まったのに、なぜか最後は泣かされることになりました。
普段はとても優しいのに、あの時は甘いのに焦らされて少し意地悪に感じます。
「アリソン、風呂から出たら今日の包みを先に開けたい」
もしかして、中身を全ておぼえているのでしょうか。
今朝は全身に使えるオイルでしたから、ブレンダン様が大きな手で塗ってくださいました。
私が赤くなって、吐息が漏れそうになったのは仕方ないと思います。
「すごくタイミングがいいものが出てきたな」
本当でしょうか。
もしも昨夜のことからわかっていて湯浴みの手配もしていたのなら、計画的だと思いました。
そんなことを考えているのがわかったのか、ブレンダン様は何も言わずに笑っています。
「ベッドに戻りたくなかったら、そんな顔しないで」
どんな顔をしたらいいのかわからなくなって、困ってしまいました。
52
お気に入りに追加
1,695
あなたにおすすめの小説
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうせ去るなら爪痕を。
ぽんぽこ狸
恋愛
実家が没落してしまい、婚約者の屋敷で生活の面倒を見てもらっているエミーリエは、日の当たらない角部屋から義妹に当たる無邪気な少女ロッテを見つめていた。
彼女は婚約者エトヴィンの歳の離れた兄妹で、末っ子の彼女は家族から溺愛されていた。
ロッテが自信を持てるようにと、ロッテ以上の技術を持っているものをエミーリエは禁止されている。なので彼女が興味のない仕事だけに精を出す日々が続いている。
そしていつか結婚して自分が子供を持つ日を夢に見ていた。
跡継ぎを産むことが出来れば、自分もきっとこの家の一員として尊重してもらえる。そう考えていた。
しかし儚くその夢は崩れて、婚約破棄を言い渡され、愛人としてならばこの屋敷にいることだけは許してやるとエトヴィンに宣言されてしまう。
希望が持てなくなったエミーリエは、この場所を去ることを決意するが長年、いろいろなものを奪われてきたからにはその爪痕を残して去ろうと考えたのだった。
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる