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【1】
9 (終) ※
しおりを挟む「立てる?」
不思議なことを言います。
体のだるさを感じながらも、体を起こし寝台から脚を下ろしました。
それから――。
「きゃっ……」
立ち上がろうとして膝から落ちました。
こんなことありえません。
「アリソン、すまない」
ブレンダン様が、間に合わなかったと焦ったように言います。
呆然と床に座り込んだ私の脇に手を差し入れて持ち上げると、そのまま抱えて歩き出しました。
「雉を打ちに行くか」
「キジ、ですか?」
いきなり狩猟の話をされてぽかんとします。
もしかして今日は一緒に狩りをしたいのでしょうか。
「あぁ、女性は花を摘むのだったな。すまない」
「……はい」
男性は用を足す時にそのように言うのでしょうか。聞いたことがありませんでした。
しばらく一人にしてもらった後、ブレンダン様が私を運んでくださいました。
なぜかとてもご機嫌な様子で温泉に向かいます。
「体の疲れを癒すのに温泉はいい。……恥ずかしかったら目をつぶっていればいいから」
昨夜もそう言われましたが、恥ずかしさは変わらなかったのでブレンダン様の顔をぼんやり眺めることにしました。
体に力が入らないだけでなく、思考も追いつきません。
ブレンダン様は真面目な顔で手早く私の全身を洗います。
彼自身はそれよりももっと早く洗い終え、一緒に湯に浸かることになりました。
ブレンダン様の胸に私は背中を預けるように抱かれて肩まで浸かります。
朝からこうして湯に浸かることができるなんて贅沢に思いました。
まだ夢を見ているみたいです。
「少し湯が温いか。水を足しすぎてしまったかもしれないな。アリソン、大丈夫か?」
「はい。気持ちいいです。このほうがゆっくりできますし……それに目も覚めますから」
そう答えますと、ブレンダン様が笑います。
首だけ振り返って彼の顔を見つめました。
「寝ぼけたあなたも可愛かった」
「ブレンダン様のせいです」
彼が軽く唇を重ねて、そうだなと笑います。
「あなたが可愛すぎるのがいけない」
「そうでしょうか……?」
なんだか納得いきませんが、唇を重ねながらブレンダン様の手は不埒な動きをします。
「ブレンダン様、ダメです」
「……どうしても?」
「だって、夜もあんなに……」
快楽のわからなかった私に、彼は一つずつ教えてくれました。
色々と驚くことばかりで――。
「アリソン、思い出している?」
ブレンダン様の手が私の脚の間を撫でました。
「んっ……」
「私を受け入れてくれないか?」
「でも、こんな……場所で……」
「誰も見ていないから」
腰を持ち上げられて先ほどから存在を主張していた彼の昂まりが私の脚の間をなぞります。
ぞくりと震えて、私は彼の望むままそれを受け入れました。
やはり拡げられる感覚にまだ慣れることはありませんが、ブレンダン様から絶えず頂点へと押し上げられることを体は覚えてしまいました。
「は、ぁ……」
「アリソン、もしも誰かが入ってきたとしても、私があなたを抱きしめているようにしか見えないだろう」
このようなところに使用人達は踏み込んでこないでしょうけど、やってくるとしたら――。
「そう、でしょうか……野生の、動物が」
「ここへ来るのはリスかオコジョかウサギだな」
「まぁ……」
それは安心しました。
このような身を守るもののない場所ですから、大型の凶暴な動物は困ります。
「母が見たのはオコジョだろう。冬眠しないし、夜行性だから」
「……そうでしたか」
和やかに会話をしていますが、彼を受け入れているので落ち着きません。
ブレンダン様はやはり体力と余裕がお有りだと思います。
私の様子を伺いながら、胸の尖りを摘んでは彼の昂まりを締め付けてしまうのを感じて楽しみ、私をじわじわと追い詰めました。
「アリソン、あなたを味わうのに二、三日とは言わずに一週間くらい籠りたかったな」
「あぁっ、むりです……っ」
ブレンダン様が二人が繋がる場所に手を這わせました。
「こんなに一生懸命、私を咥え込んで」
「あ……っ!」
硬くなった粒を撫でられて、強い刺激に私の腰が浮きました。
彼はすぐに私の腰を引き寄せて奥を突き、あっけなく私の体は達したのです。
「――ッ、アリソン!」
彼の昂まりを食い締めるように内側が勝手に動くものですから、ブレンダン様が苦しげに息を吐いて吐精しました。
力の抜けた私を抱えたまま立ち上がり、湯をかけて身綺麗にすると、ベンチに腰かけて私に水を飲ませてくれます。
「まいったな、あなたと一緒にいると無理をさせてしまう。十代の頃だってこんなふうになることはなかったのに」
それは意外でした。
彼が傷を負う前はとても人気があったでしょうし、たくさんの経験があると思いましたから。
「あなたに対する想いが堪えきれないんだ」
「私も同じです」
ブレンダン様の言葉を嬉しく思って、私は間髪入れずに答えました。
「しばらく我慢するよ。…………せめて、夜までは」
「…………」
それは我慢すると言うのでしょうか。
そう思いましたけど、口に出すことはありませんでした。
だって真面目な顔で言うんですもの。
「朝ごはん、食べましょうか」
別荘で三日ほどお互いのことだけを考えて過ごした私達は、これまでよりも仲良くなって屋敷に戻りました。
申し訳なさそうな顔をした侍女達に気にすることはないと言いますと、その夜は張り切って私を磨き上げた上でオイルマッサージと例の寝衣を着せられて寝台に上がることになってしまったのです。
別宅で寝衣はあってないようなものでしたから、侍女の判断は正しく、ブレンダン様を喜ばせたようでした。
「……アリソン、あなたから誘ってくれるなんてね」
寝台の上で本を手にしていたブレンダン様が私を見て眉を上げました。
それからすぐに私を腕の中へと抱きしめます。
「その……これは侍女達が」
「そう。とても素敵だ」
「あの、今夜は控えめに」
「わかっているよ」
「本当でしょうか」
この三日、彼の腕の中で過ごす時間が長かったので、疑問に思います。
もちろん無理強いなどありませんでしたけど。
ブレンダン様が眉を下げました。
「……もちろん。しかし、あなたが可愛すぎるのは問題だな」
「いえ、ブレンダン様の、……体力がありすぎるのです」
「それは……善処する」
少しずつ日は延びてきましたが、まだ朝日が上がるのは遅いので、少しくらいお寝坊しても大丈夫かもしれません。
そう考えて、私の頭の中も春のようでした。
笑みを隠すようにブレンダン様の胸に顔を寄せて、そっと口づけます。
「ブレンダン様、愛しています」
「あなたは本当に……。愛しているよ、アリソン」
私達はお互いに誠実でいたから、今の関係があるのだと思います。
これからもお互いを大切にして愛し愛される関係でいたいと、口づけを交わしながら私は思いました。
終
******
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