追い出されてよかった

能登原あめ

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 彼の力強い心音が心地いい。
 それに、彼の身体が反応しているのがわかった。
 
「移動、します……?」

 私の意図を確かめるべく彼が顔をのぞき込む。

「俺の部屋でいいか?」
「はい」

 気持ちを確かめたばかりで早すぎるとは思う。
 でもお互い大人だ。知り合ってから長い。
 もっと深く確かめ合ってもいいんじゃないかともう一人の自分が言う。
 
 軽々抱き上げられて、大きな身体に身を任せた。
 彼は無言のまま寝室へと向かい、ゆっくりと私をベッドへ下ろすと、顔にかかった髪をそっと払う。

「ニールス」

 壊れ物のように優しく扱われてくすぐったい気分。
 私が笑うと眉間にしわを寄せつつも、唇を吸われた。

「好きだ。……ずっと好きだった。自分で思っているよりも前から」

 いつから、とか聞いてみたいこともあったのに、肉厚の舌が忍び込んで口内を暴く。
 大きな身体に似つかわしくない繊細な動きに、思わず声を漏らした。

「かわいいな」

 間近で微笑み、再度唇を重ねてくる。
 欲を浮かべた瞳が探るように私を見るから、恥ずかしくなって目を閉じた。
 すると、目蓋にそっと口づけが落ちる。

 想像と違う。もっと不器用に荒々しく触れてくると思ったのに優しすぎるくらい。
 甘やかされているようで感情が揺れて胸がつまる。
 目を開けたいような、このまま閉じていたいような。

「ヨハンナ」
 
 彼が名を呼び私のシャツに手をかけた。

「俺のシャツ、いつも脱がしたかった」

 着心地が良くて、色々と理由をつけてずっと彼のシャツを愛用していた。
 代わりに彼にシャツをプレゼントしたのだけど、なぜか私に服を買ってくれて。
 お互いに送り合う形になって首を傾げた。
 住まわせてもらっているから、それも兼ねてお礼をしたかったのだけど……。

「あっ……!」

 一気にシャツ引き抜かれて、胸元にきつく吸いつかれた。

「何を考えている?」
「ニールスのこと」
「そう、か……」

 どうして気がそれたとわかったんだろう。
 じっと見つめると、今度は大きな手で優しく身体に触れるから。

「もう、ずっと……あなたのことしか、見ていません」
 
 思ったよりも小さな声になってしまった。
 どうしたって、私には過去に結婚した相手がいて、めったに顔を合わせないとしても同じ職場で。ニールスからすると、気になるのかもしれない。
 
「ニールスが好きです……あなたとずっと一緒にいたい」
「…………ヨハンナ、俺もだ」

 熱っぽく見つめられて、それから彼が私を宝物のように触れる。
 じっくり確かめるように軽やかに指先が動くから、焦らされているみたい。

「私だって同じ仕事をしていたんです。弱くありません。だから、もっと力を入れても大丈夫です」

「わかっているが、俺は優しくしたい。……いやか?」
「いやなわけない、です」

 でももっと触れてほしいだなんて、もどかしくて頭がおかしくなりそう。

「いつも気を張っているから、俺の前でくらい力を抜いたらいい」
「そうしてる、つもりでした、けど……っ!」

 下着を取り払われてひやりとした空気にさらされる。ニールスの手で太ももを撫で上げられたかと思ったら大きく開かれた。

「そう硬くなるな」
「でも……あ!」

 経験があるとはいえ、しばらく時間も空いたしニールスとは初めてなのだから緊張する。
 しかもいつになく濡れていて、恥ずかしい。

「こうして組み敷いたら、どんな表情を浮かべるか……想像していたが」

 ニールスがかすかに笑う。

「その顔、誰にも見せたくないな」
「どうして、今夜は……」

 口数の少ない彼がベッドの上では饒舌じょうぜつだなんて思わなかった。

「酔っているかもしれない。だが、すべて偽りなく本心だ」

 ニールスの指がゆっくりと中心に近づく。
 いっそのこと、今すぐ奪ってくれたらいいのに。
 ごつごつとした指が優しくひだを開いて探る。からかうように陰核に触れられて身体が跳ねた。

「ニールス、もういいから」
「もう? まだ早い。俺の楽しみを奪う気か?」

 そんなことを言われると思わなくて驚いた。過去の男たちはみんな早くつながりたがったから。なのに――。

「……あ」
「ヨハンナ、楽しめ」

 ニールスの指が蜜口をなぞり、ゆっくり押し挿った。ごつごつとした節が内壁を刺激する。

「……んッ」
「敏感だな」

 ぐるりと確かめるように動かしながら、私が反応する部分を探し出して、甘くうずくまで触れ続ける。
 こんな場面でも根気強いと思わなかった。

「……あッ、ニールス!」

 今にも達しそうで、内壁がひくひく動いているがわかる。
 ふいにニールスの指が陰核に触れて、目の前がチカチカと白く点滅した。

 吐息を漏らし続けて、唇が乾く。
 思わず舌で唇を湿らせると、ニールスが唇を重ねてきた。

 頭はぼんやりしたまま、身体は気だるい。
 絶頂を迎えたのにニールスは舌を絡めながらも淡々と指を動かし続ける。
 
 どちらもかき乱されて、どこから水音が響くのかもわからないまま再び絶頂に押し上げられた。
 
「お願い、ニールス」

 キスの合間に、そっとささやく。
 受け入れる前から続けて二度も達するなんて今までなかった。
 十分満足しているはずなのにニールスが欲しくて身体がうずく。
 
「もう待てないの」
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