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しおりを挟むあらかじめ、ニールスが私の仕事復帰を伝えてくれたようで、昔なじみが多い第三部隊の隊員たちとも思ったより穏やかに再会できた。
「ヨハンナ、久しぶりだな」
「まぁ、色々あるよな……あぁ、えっとアルヴィンは色々処理に追われてるからしばらく体が空かないが、ちゃんと話し合えよ」
「わかってる、ありがとう」
「じゃあ、さっそく仕事の話だけど――」
ややぎこちなさはあるものの、仕事に集中するうちに気にならなくなった。
危険をともなう仕事だし、家を空けることが多いからすれ違うことも多く離婚はよくあること。
私たちに子どもがいなかったこともあるからか、踏み込んだことを聞いてくる人はいなかった。
それから間もなくアルヴィンとティールームで待ち合わせをして話し合いをすることに。
すでに離婚は成立していることは義母から連絡があって知っている。
アルヴィンにも手紙を送ったというけれど、へき地まで届くのに時間がかかったかもしれない。
もしかしたら寝耳に水だったかも。
暗い顔をしたアルヴィンを見て思った。
「ヨハンナ、愛している。戻ってきてほしい」
最初、アルヴィンは納得してくれなかった。
彼はまっすぐで素直で、そんなところに惹かれたのに、今の私にはとても重く感じる。
「あの家を出てから、息が楽にできる。私はあなたの家族に加わっただけで、夫婦とは言えなかったね。もう、最初の頃のような愛は残っていない」
「いやだ。信じたくない。もう一度チャンスがほしい。二人きりでやり直そう」
あの生活に疲弊する前なら喜んで受け入れただろう。でも今はもう考えられない。
「もう無理よ。ごめんなさい」
アルヴィンにとってフェアじゃないかもしれない、けど彼はいつも義母たちの味方だった。
「……再婚相手と会ったでしょう?」
「……ッ、彼女は、母が勝手に……!」
「アルヴィン、もう終わったの。私は仕事が楽しくてしかたないし、あなたの妻には戻れない」
「…………」
「私、結婚に向いていないと思う」
言葉を変えながら何度も何度もやり直せないことを伝えたら、彼はようやく引き下がってくれた。
「今までごめん……諦めたくないけど諦める。家にいた時より今のほうが、ヨハンナの表情が明るいね」
そうかもしれない。
身体は疲れるけれど、仕事をしていると充足感があるし、給金ももらえる。
アルヴィンとは恋人期間も短く、すぐに結婚してしまったし、お互いの絆を深める時間が少なかったのかもしれない。
私は若く、アルヴィンはそれ以上に若かったのに、勢いで突き進んでしまった。
あの頃は浮かれていて何でもうまくいくと信じていたけど……違った。
「さようなら、ヨハンナ」
「元気でね、アルヴィン」
アルヴィンの分隊は休みが明けてしばらくした後、再びへき地へと向かった。
またしばらく帰ってこないだろう。
義父を病院に連れて行ったというし、義母が選んだ再婚相手とも白紙になったそう。
アルヴィンがこれ以上勝手なことをするなら家を売ってへき地に全員連れて行くと言ったら、義母は大人しくなったらしい。
もう本当に関わらなくていいと思ったら心が軽くなった。
「ヨハンナ、もうすぐ女子寮に移れるぞ」
今日はニールスが休みで、仕事から帰ってきた私は、呼び止められて一杯だけお酒をつき合うことになった。
「あっという間に三ヶ月も経ったんですね。長い間、お世話になりました」
「…………」
ニールスが黙ったままだから、顔をのぞき込む。
眉間にしわを寄せて、何か納得いかない様子。
「どうしました?」
「……この生活が案外気に入っていたんだな」
彼は感情を整理していたようで。
確かにお互い程よい距離感で、一人暮らしのようなのに時折人の気配があって安心できた。
貴重な相手かもしれないと思う。
「そんなことを言うと、寮に移らないでここに居座りますよ?」
冗談めかして言った私の言葉に即頷く。
「いいな。ずっとここにいていいぞ」
嬉しそうにほんの少し口角を上げるから、
「今は奇跡的に知られていませんが、このまま一緒にいたら職場に……」
「…………」
微妙な間はなんだろう。
「もしかして。誰かに言われました?」
直接何か言われたことはないけれど。
今は新しく入って来た可愛い女の子に恋人がいないと聞いて独身男たちが盛り上がっている。
「副団長は、ヨハンナがこの家に入るのを見たと言っていた」
「…………」
「口が堅いから、漏らしはしないだろう」
実家の方向へ帰るふりして回り道をしていたけど、今の生活に慣れるのに必死で見逃していたことも多いかもしれない。
もしかしたら、ただ言わないだけでほかにも気づいた人がいるかもしれない。
「ニールス、これまで迷惑をおかけしてすみません」
「いや、全く問題ない。家に人がいるというのはいいもんだと知った」
「……私も、そう思います」
そう言うとなぜか彼は眉を上げた。
「別れたのは後悔してませんよ。私は結婚に向いていなかっただけですから」
そういうことでもないだろう、そうニールスが言って一気にお酒をあおった。
それから女子寮の改装も終わったのに、私たちはその話題を出すことなく一緒に暮らし続けた。
今の関係が心地いい。
ニールスも同じように思っているのか、お互いにただ仕事が忙しいのもあるからか。
日々が過ぎて行く。
彼の近くにいると心が落ち着く。
職場も一緒で、家でも一緒なのに嫌だと思うことがない。
家で顔を合わせることは少ないけど、たまに一杯だけお酒につき合う。
たわいのないことを話して、おやすみと言って。
彼のことは親しみを感じるし好き。
でも、恋でもないと思う。
何かと言われたら困る。
尊敬? 同志?
よくわからないからこそ、一緒にいられるのかもしれない。
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