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しおりを挟む職場にはいつでも開いている食堂があるから、団長と二人そこで早めの夕食を食べた。
空いていたから顔見知りに呼び止められることもなく。
団長が家までの道のりと、部屋を案内してくれた。
「……足りないものはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「……そうか」
団長は職場を離れても寡黙だった。
「あの、すみません……私がいたら、くつろげませんね。なるべく私室で過ごしますから」
「いや、そんなことは気にしなくていい。そもそも、家で過ごす時間も少ないし、休みもお互い重ならないだろう。気にするな」
そう言われてしまえば、私は頷くだけ。
「はい、ありがとうございます。それにしても、部屋、きれいですね」
「あまり家にいないからな。……しかし、じっくり見られても困る」
団長の書類仕事を嫌がる時とはまた違う、戸惑った顔を見ることになるなんて思わなかった。
そういえば、私が働いていた頃の団長は女性の影が見えなかったけど、もしつき合っている人がいたらこの状況はよくないだろう。
「団長、今日は本当に助かりました。……あの、団長はおつき合いしている方とかは……?」
私の聞き方がまずかったのかもしれない。
団長が眉間にしわを寄せたまま黙る。
「あの、私がいることでご迷惑をおかけしたら申し訳ないと思」
「大丈夫だ。問題ない」
私の言葉に被せるように言われて、お互い黙って見つめ合った。
何だか、ちょっと気まずい。
もしかして、誰かと別れたばかりなのかもしれない。
「気楽な男の一人暮らしだ。何も考えずに自由に過ごしてくれ」
「はい……団長、これからしばらくよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。……ニールスだ。家の中まで団長では落ち着かん」
「すみません、そうですよね。ニールスさん」
団長がふたたび眉をひそめるから、もしかしてと思って呼び直す。
「ニールス……?」
「あぁ、そう呼んでくれ」
仕事を離れると意思疎通に少し時間がかかりそうだけど、私たちは職場以外でも何とかやっていけそうだと思った。
それからお互いに気を遣いつつも、二週間が過ぎた。
ニールスの言った通り、家で顔を合わせる時間は少なく、出勤時間も彼の方が少し早い。
私を早く帰るようにうながすくせに、彼の帰りは遅い。
長い会議の後に時々お酒を飲んで帰ってくることもある。
ニールスが早く休めるように、私は帰宅後すぐにシャワーを浴びることにしていた。
寝間着を持っていないから、制服のまま風呂へ向かい、その後は外出着を着て部屋まで移動。
寝る前に下着になってベッドに横になっていたけれど、今はニールスからシャツを借りている。
彼と夜も全く顔を合わさないことも多かったけれど、ある夜、風呂場を出たところで帰ってきたニールスに会った。
『おかえりなさい、ニールス』
『ただいま、ヨハンナ』
そう挨拶した後、ニールスが私をじっと見て謝った。
『すまない、気が利かなくて』
何について言っているかわからなくて、そのまま部屋に戻った私に、彼が二枚のシャツを届けてくれた。
今着ている柔らかな肌触りのもの。
『悪いな。こんなのしかなかったが、よかったら使ってくれ』
『ありがとうございます……助かります。さっそく着てみます』
『ああ、ではおやすみ』
下着で寝るより何か着たほうが安心する。
広げてみたらとても大きかったけど、一枚で室内着にするには足が丸見えになってしまった。
一つボタンを外せば頭からすっぽり被って着ることができて、ゆったりしている。
やっぱりアルヴィンのものより大きくて袖が余った。
何だか自分が小柄になったような気がして、あの日は声に出して笑ったっけ。
丈は太腿が半分隠れるくらいだから、人前に出ることはできそうになくて残念だけど、移動の時だけ手持ちのスカートをはけば室内着として、よさそう。
「何かお礼がしたいな」
給金が入ったらちゃんとした寝間着とシャツのお礼と、ほかに何を買おうかと考えるのは楽しい。
アルヴィンは稼いでいたけど、義父母に気を遣って自由に買い物もできなかった。
なんであんなに縛られていたんだろう。
今は心も体も自由で軽い。
「シャツと……普段使えるものがいいかな。手袋とか、帽子……採寸してもらわないと買えないかも」
用意された真新しい警備団長の制服が少し小さかったのか落ち着かない様子だったのを思い出す。とても動きづらそうだった。
ニールスは私より六つほど年上だったと思うけど、団長としては確か七年目。
私が第三分隊の隊長になるのとニールスが警備団長になったのもほぼ同じ時期。大変なこともあったけど、今となっては懐かしい。
あの頃は慣れない業務で、時間が足りなくて本当に忙しかった。
「懐中時計……とか?」
少しお金を貯めないと買えないかもしれない。まずは別のものがいいかな。
あれこれ考えているうちに私はあっさり眠りに落ちたらしい。
とてもぐっすり眠ることができた。
それから仕事を始めて一ヶ月になる頃、アルヴィンと第三分隊が戻ってきた。
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