仲良し夫婦、記憶喪失。

能登原あめ

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 余裕たっぷりに笑ったミケルは、私の腰をつかんでゆっくり揺さぶる。

「可愛い、大好き。ずっとこのままでいたい」
「私も……っ、んっ」
 
 はしたない音が響き、恥ずかしさに体温が上がる。だけどそんなことが気にならないくらい、深い交わりに溺れていった。

「ミケル……ッ、ずっと、おかしい、の……! 気持ち、良すぎて……っ、私……!」
「可愛いッ、おかしくない、おかしくないよ! 俺も気持ちいい」

 どこを触られても気持ち良くて、頭がおかしくなりそう。

「ミケルがッ、こうしたの……! 私、こうなるって……知らな、かったん、だから……っ」

 いつの間にか流した涙に彼が唇を寄せる。

「ごめん、昔の俺のせいだよね。自分に嫉妬する。……だけど、そんなことは忘れる。今のモニカも可愛くて好きだ。もっと乱れて」
 
 再び仰向けに倒されて、ミケルが乗り上げるように上から突き込んだ。

「あッ、ミケル――!」

 一瞬浮かべたいじわるな顔。
 そんな彼に私はすがりつく。
 気持ち良くてたまらなくて、もう何も考えたくない。

 私の熱がはじけても、ミケルはさらに高みを探った。
 私の体のことは、私以上に彼が知ってしまったみたい。

「ミケルっ、あっ、もう……助けてッ!」
「うん……可愛い、大好きだよ」
 
 その夜、過去を思い出さなくても十分なくらいお互いのことを知った。



 
 


「おはよう、モニカ」
「……おはよう、ミケル」

 翌朝目覚めると、とろけるような笑顔のミケルが私にキスをする。
 満足そうな笑顔に私もつられて笑った。

 なんだかとても体が重くてだるい、けど幸せだからいいかな。ミケルにすり寄って胸に顔を伏せる。
 すごく落ち着いた。

「モニカは昔からずっと、どんな時も可愛いね」
「……昔から? 何か思い出したの? 私はまだ何も思い出せていないわ」
 
「…………いや⁉︎ まだ! 何も……昨日学園時代の話を聞いたから勘違いしたのかも。早く一緒に記憶を取り戻したいな」

 寝起きの頭ではよく考えられない。
 そんなに急いで思い出さなくてもいいと思うのだけど……。

「思い出せなくても、ミケルが大好き」
「……うん、私も大好きだ」

 私から彼を抱きしめて、慌てなくていいよって慰めた。だってこのままでもすっごく幸せだから。

「ありがとう……ずっとずっと大好きだ」




 
 
 それから、私たちが記憶を失ったことが社交界で噂になることもなく1年が経った。
 相変わらずの私たちだったけど、娘が生まれた時にお互いにすべての記憶を取り戻したのは奇跡。
 
 もしかしたら、娘からのプレゼントじゃないかと思っている。
 きっと頼りない両親より頼れる両親になってほしいんじゃないかな。

「ミケルに似て可愛いわ」
「いや、口元や髪はモニカだよ。本当にこの子は美人になる」
「ミケルに似て美人なのよ。……ずっと見ていて飽きないわ」

 娘のノエルが3歳になる頃、不思議なことを言い出した。
 
「パパはわたしがママのおなかにはいるまえに、ぜーんぶおもいだしていたわ。でも、ママがだいすきでいいたくなかったみたい」

 私が見つめると、ミケルはほんの少し困ったように笑った。

「一緒に記憶を失ったから、思い出すのも一緒がよかったんだ。黙っていてごめん」
「そうなの? そんなふうに思ってくれてありがとう」
「怒ったり、呆れたりしてない?」
「しないわ。……すぐに思い出せなくてごめんね」
 
 少しも喧嘩にならない私たち。
 抱きしめ合うと、ノエルがじっと見つめていることに気づいて、真ん中に娘をはさんだ。

「ノエル、君は私たちの宝だ」
「大好きよ、ノエル。あなたがいるだけで私たちは幸せだわ」
「……パパ、ママ、だいすき!」

 季節が変わる頃、もう1人産まれる。
 お腹の子は男の子だってノエルが教えてくれた。
 娘の言うことは当たる気がしている。
 お腹に向かって話しかけているもの。

「家族が増えると幸せも増えるのね」

 みんなで抱きしめ合って、1番最初に飽きた娘が腕からすり抜けた。

「わすれないうちに、おとうとのかおをかいてくる! パパとママのかおも!」
「まぁ……」
「かぞくだってわすれないようにえをかくのー!」

 ミケルと顔を見合わせてほほ笑んだ。
 私たちがもしもまた記憶を失うことになっても、お互いを好きになることは変わらないと思う。









            終



******


 お読みくださりありがとうごさいます。
 もう一話ミケル視点でおまけがあります。
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