仲良し夫婦、記憶喪失。

能登原あめ

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 ミケルの欲を浮かべた瞳に、私は何も言えなくなった。
 じっとみつめていると、するりと髪からくしを引き抜かれ、ミケルがゆっくりと私の髪に指を通す。

 侍女が櫛一つで器用に髪をまとめ上げていることに気づいた時、にっこり笑って「帰るまで櫛に触れないでくださいね」と言われたのだった。
 ミケルも近くにいたから聞いていたと思うし、パーティーではいつもそうしていたらしい。

「可愛い、きれいだ」

 髪を一筋とって口づけ、ちょっと恥ずかしそうに笑った。
 その表情が愛おしくて胸がいっぱいになる。
 求められるのも嬉しいし、今すぐ一つになりたいって強く思って――。

「お願い……何か足りないの」

 それだけでミケルに気持ちが通じたみたい。
 短く息を吐いて、彼は私の頬を撫でて言った。

「………モニカ。あとでちゃんと埋め合わせする」

 ミケルは腰の位置をずらして、私の脚のあわいに彼自身をこすりつけた。
 それからゆっくり、ゆっくり入ってくる。

 すんなりいかなくて痛みだってあるかもしれないと思ったのに、そんなことは少しもなかった。

「あっ、あ……あっ、ミケル……ッ」

 痛くない。
 あるのは充足感と熱と。
 覚えていなくても夫婦として過ごしてきて、私の体は快楽を覚えていた。
 何かが近づいてくるのがわかって、熱くて頭がおかしくなりそう。

「モニカ、痛くない?」
「ん、大丈夫……」

 もどかしいくらいゆっくり私を満たす。
 根元まで収まった時は思わずミケルに抱きついて大きく息を吐いた。

「幸せ……」
「幸せすぎて……ずっとこのままでいたいよ」

 うなずくかわりに、深く息を吐いた彼の背中に回した腕を、もっともっと近づいて欲しくてきつく抱きしめた。

「……まだ足りないんだ。モニカ、もっと愛させて」
「うん」

 彼の存在を身のうちに感じながら口づけを交わす。
 最初から私たちは2人でひとつなんじゃないかってそんなことまで頭に浮かんだ。

「どうしよう……気持ち良すぎて、私……」
「よかった。俺たちはきっと全部相性がいいんだ」
「そうかも……今すごく泣きそうなの」
「痛いの我慢した?」

 そうじゃない、そう答えてからキュッと唇を噛む。

「ミケルに愛されて幸せだって思って……幸せすぎて胸がいっぱい」
「……モニカ。もっと俺の愛を受けとって」

 ミケルが腰を揺らし、ゆっくり前後させた。さっき見た時、先のほうが大きくふくらんでいたから、中を余すところなく触れて、私の反応を引き出す。

 こんなに甘くて鋭い感覚にどうしていいかわからなくて、必死にしがみついた。

「ミケル……ッ、あっ、ん……っ」
「ここ好き?」
「わ、からない……っ」
「気持ち良くない? 俺はすごくいい」
「んっ、あっ、……いい、よ……」
「よかった」

 ミケルは奥に押しつけるように小刻みに動く。
 とんとんされて、じわじわと熱がたまって――。

「好きだ……モニカ。愛している」

 私の体が意思とは関係なく動く。この熱をもっと受け取りたいような逃れたいような、よくわからないままミケルに翻弄された。

「気持ちいいね、モニカ。すごく、気持ちいい」
「んっ、あッ、きもち、いい……っ」

 同じところばかりとんとんされて、私の頭は真っ白になり、快楽に飲み込まれた。
 呼吸を奪うような激しいキスに、お腹の中がきゅう、と反応する。
 その瞬間、ミケルが一瞬固まって苦しそうに息を吐いた。

「ごめん、モニカ」
「んッ……あぁッ!」

 大きく揺さぶりぐっと奥に押しつけて、ミケルが私の中に子種を吐き出した。じわじわと温かいものが広がって、私は満たされる。

「……どうして謝るの? 私はすごく気持ち良かったよ。それにすごく幸せ」
「俺も幸せだよ。だけど、もっとモニカに満足してもらいたい。今記憶があったら、もっとすごいことができたかもしれないのに」

 ミケルはそう言って私を抱きしめた。

「そんなの……私が私でいられなくなりそう」
「俺はまだまだモニカが足りないし、もっと満たしたい。さっきはすぐにひとつになっちゃったしね。したいことの半分もしていないよ」

 そう言ってつながったまま私を抱き起こす。
 私の中で硬いままの彼自身がピクリと動いた。

「ミケルは私を抱っこするのが好きなの?」
「そうかも。いつでも触れていられるから。モニカが好きで好きでたまらないんだ」

 顔中にキスして、首や鎖骨にも唇を寄せる。そのまま胸を支えるようにすくい上げ、先端を口に含んだ。

「可愛い。動いてる」

 そんなつもりはないのに、胸を刺激されるとお腹の中がきゅう、として動きたくなるのかも。

「……言わないで」
「いやだった? 可愛いよ、とっても」
「恥ずかしい」
「可愛い。俺も一緒だから」
 
「ミケルも恥ずかしい?」
「うーん……そうでもない、かな。気持ち良くて他のことは考えたくない、いや、考えられない」
「……そうかも」

 戯れるように軽く唇を合わせていると、ミケルの手がお互いの体がつながっている場所に触れた。
 じん、としびれる。

「んッ……。ミケル……そこ、だめ」
「本当に? 俺のを締めつけたよ。……もう一度、ね?」
「あぁッ!」

 ミケルを受け入れたまま脚のあわいに触れられると、すぐに体は気持ち良くなってしまう。
 体に力が入らなくてミケルに体を預けた。
 そんな私の姿を見て、彼は嬉しそうにほほ笑んで言う。

「さっきはすぐに終わってしまったから、今度はモニカのすべてに触れたい。今は思い出せなくても……全部知りたい」

 
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