仲良し夫婦、記憶喪失。

能登原あめ

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 昼食会はとても楽しくて、記憶がなくてもなんとかやっていけそうだと思えるくらいたくさんの話を聞いた。

 バージョンアップされた愛のポエムを学園時代に私に贈っていたとイザベルが言っていて、当時私は読んでいた本のしおり代わりにしていたらしい。
 あとでゆっくり探そうと思う。

 みんなの話は私たちが恋愛結婚以外の何ものでもないってこと。

 私も学園で出会ってすぐに格好いいだとか知的だとか素敵だとか友人たちに打ち明けていたことを暴露された。

 恥ずかしかったけど、ミケルも嬉しそうに笑ってくれたし、温かい雰囲気だったから私は素直にうなずいて。
 記憶を失ってからの初対面の時、同じように思ったって答えた。
 
 全然思い出せる気はしないけど、昔の私も今の私もすぐに惹かれてミケルを好きになっている。
 このまま思い出さなくてもいいかもしれない。

 結局話が尽きなくて帰ってきたのは日が暮れてから。
 義父母が夜会に出かける準備をしていて、使用人たちが忙しそうに働いていた。

「疲れたね。夕食はあとで軽めのものを部屋に運ぶように頼んでおいたよ」
「はい……ありがとう。でも入らないかも。お腹も、胸もいっぱいで」

 クスリと笑ったミケルが、私もだと答えた。

「モニカ、今日はみんなからたくさん学園生活の話を聞けて楽しかった。少しも思い出せなかったし、それが残念だけど、今の私もモニカを好きだよ。今日改めて実感した。もしこのまま思い出せなくても、モニカと永遠に夫婦でいたい」

「どうしよう……私」
「ごめん、なんだか同じ気持ちのような気がして先走ってしまった。モニカが私の気持ちに追いつくまで、いくらでも待つよ」

 少ししょんぼりしたようにも見えて、私は慌てた。

「違うの! 私もミケルが大好きだって思って、幸せすぎて夢みたいで……嬉しくって胸が苦しい」
「そうか……あの、抱きしめていい?」
「はい」

 腕を広げたミケルに近づいて、私から腕を回した。
 どうしても自分から抱きしめたくなって、ぎゅっと力を込める。

「モニカ! 可愛い……好きだ」
「私もミケルが大好き。忘れてしまった時間は悔しいけど、今が幸せだから……このまま思い出せなくても、これから先たくさんの思い出を作れたら気にならないと思うわ」

「うん、そうだね。いろんなところへ行こう。今なら、どこへ行っても初めてデートする場所に感じるよ」
「はい。それって幸せ……一緒にいたらどこへ出かけても楽しいと思うけど、まずは湖へ行きたい」

「もちろん、演劇にオペラ、流行りのカフェに新しくできた庭園とか……?」
「楽しみだわ。ミケル……あのね、ひとつお願いがあるの」

 私は彼の胸に顔を押し当てたまま言う。

「私、あなたの子どもを産みたい。……あ、あの、今すぐじゃなくてもいいの、いつか……神様が授けてくれたら、大切に育てるわ」
「うん、がんばるね。一緒に育てたい」

 私はミケルががんばる意味がよくわかっていなかった。
 私たちは夫婦だけど、夜の記憶もまったくなかったから――。

「風呂の間に食事が届くだろう。今夜はゆっくり過ごそうか」
「はい」

 顔を上げると、ミケルの顔がゆっくり近づいてきた。唇が触れる直前、私は目を閉じる。
 息がかかるのにそのまま触れることがなくて、そーっと目を開けると、それを待っていたように唇が重なった。

「……!」

 お互いに見つめ合ったまま、何度も軽く唇を合わせる。
 自然と口を開いてお互いの唇を啄むのも、過去の記憶がどこかに残っているのかも。

「ミケル、好き」
「ん、俺も」

 いつもは「私」なのに。
 少し余裕がないみたいで、そんなふうになっているのが可愛く見えて嬉しい。
 ミケルの首に腕を回し、こちらから何度も口づけする。

 彼が嬉しそうに私を見つめ、腰を引き寄せ深く唇を合わせた。
 大人のキスに頭がクラクラする。
 
「好き」
「大好き」
「すごく、大好き」

 気持ちが抑えられなくて、キスの合間に伝え合う。
 大好きで大好きで、私の気持ちをわかって欲しくて。それはミケルも一緒みたい。

「もっと俺に夢中になって」

 それから私の頭の中は何も考えられなくなった。
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