1 / 4
1 それは処女受胎じゃなくて想像妊娠です
しおりを挟む「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」
診察室に入ってきた小柄な女の子はとてもいい匂いがした。
栗色の髪に大きな瞳、何もかも好ましい。
念願の番に会えたと思ったのに……残念だ。
「お相手はどちらに? 診察室に入ってもらっていいですよ」
番の場合、心配のあまりしつこく話を聞きたがるから、一度で説明を終わらせたい。
もしかしたら番じゃないかもしれないし。
その時は……どうしよう。待てるかな。
「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」
なん、だと……?
「それは……興味深い。何があったのですか? いや、何もなかったんですよね?」
何もなかったと言ってほしい。
興奮して瞳をキラキラさせた彼女がまぶしくてつらい。
これなら本当に神様に気に入られたのかもしれない……。
「今姉が妊娠三ヶ月なんです! つわりがひどくて、ご飯が食べられなくて、見ていたら私まで吐き気が!」
感受性が強いのかな。共感力が高いのかな。
俺の番、可愛いな。
「あ~、あ~なるほど……それで?」
「それに最近胸が……大きくなった気がして、ほらっ、お腹も!」
それはまじまじ見づらいし、答えづらい。
「…………」
誤解だって伝えたらものすごく落ち込んでしまいそう。
悩ましい。実に悩ましい。
「私、一人でもこの子を育てます! 無責任なことなんてできないっ」
俺の子も、大切に育ててくれそうだな。
「……えっと、じゃあ、月のものは……?」
「先週終わりました!」
「はぁ……」
だよね。お姉さんやご家族が少しこの子を甘やかしすぎたかな。
そんなところも可愛いけれど、彼女のためにも教育が必要だ。
俺が、教える……?
教えたいな。一から十まで。
「先生も、私みたいな小娘に子供なんて育てられないって言うんですかぁ⁉︎」
ため息みたいな返事をしたから、涙目の番が俺に詰め寄ってくる。
可愛い、愛しいなぁ。
「いや、むしろ愛情深くて、大事に育てるんじゃないかな」
本当にいい匂いだ。
彼女は人間なのかな、俺が番だって全く気づいていないけど。
「先生……」
そんなに潤んだ瞳で見つめないで。
我慢できなくなっちゃうよ。
「よかったら、私を父親にしてもらえないか? 医者だし、君に苦労はかけないよ」
それにいつか本当の父親にしてほしい!
「そんな……誰とも知らない子を……」
「いや、君、神の子だって言ったよね……まぁ、いい。番の面倒をみるのは当然だ」
このままここから出したくないくらい。
いや、診察室だからダメか。
「番?」
「君の番。私はこう見えてリス獣人だよ。ジャノだ」
「私はリーズです。ジャノ先生がリス獣人なのは見てわかりました。とっても可愛いので」
可愛い、だと――⁉︎
「可愛いのは、リーズ。君のほうだろう。一目見て好きになってしまった」
「……ジャノ先生!」
あれ、カップル成立かな!
「……私、これから先どうしようって思っていたので……そんな優しい言葉をかけられると、好きになっちゃいます!」
「好きになって! そうしたら、お互い幸せになれるから!」
番サイコー!
番可愛い。
「えーと、じゃあ今日の診察は午前中で終わるから、一緒に昼ごはん食べられる? あと何人か診るからしばらく待ってもらうことになるけど、その時に今後の相談ができたらいいな」
お願い、待つと言って欲しい!
「はい……先生。私いつまでも待ちます!」
番が俺をいつまでも待ってくれる⁉︎
なんて幸せな響き!
残りの仕事も頑張れるっ。
「……じゃあ、体に負担にならないようにこの部屋で休んでいて」
そう言って簡易ベッドとソファを置いた部屋へ案内する。
「先生、優しいですね。ありがとうございます」
「番に優しくしないなんてありえないんだよ。番を見つけたら、一生大切にする。番の幸せが私の幸せだから」
優しくするのは当たり前。
だって、ずっとずっと笑っていてほしいし、幸せに暮らしたい!
「先生、それ以上言うと私、先生にメロメロになっちゃうので……」
心の声も漏れちゃったのかな?
赤くなる番、大変可愛い。
2
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説

憎しみあう番、その先は…
アズやっこ
恋愛
私は獣人が嫌いだ。好き嫌いの話じゃない、憎むべき相手…。
俺は人族が嫌いだ。嫌、憎んでる…。
そんな二人が番だった…。
憎しみか番の本能か、二人はどちらを選択するのか…。
* 残忍な表現があります。


精霊王だが、人間界の番が虐げられているので助けたい!
七辻ゆゆ
恋愛
あんなに可愛いものをいじめるなんてどうかしている!
助けたい。でも彼女が16になるまで迎えに行けない。人間界にいる精霊たちよ、助けてくれ!

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています

数多の想いを乗せて、運命の輪は廻る
紅子
恋愛
愛する者を失った咲李亜は、50歳にして異世界へ転移させられた。寝耳に水だ。しかも、転移した先の家で、訪ねてくる者を待て、との伝言付き。いったい、いつになったら来るんですか?
旅に出ようにも、家の外には見たこともないような生き物がうじゃうじゃいる。無理無理。ここから出たら死んじゃうよ。
一緒に召喚されたらしい女の子とは、別ルートってどうしたらいいの?
これは、齢50の女が、異世界へ転移したら若返り、番とラブラブになるまでのお話。
16話完結済み 毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付きで書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

触れても伝わらない
河原巽
恋愛
王都から離れた地方で暮らしていた猫の獣人マグラは支部長自らの勧誘を受け、王立警護団第四支部に入団する。
入団初日、支部の詰所で甘い香りを放つエレノアと出会うが、同時に男の匂いをべったりと付けている彼女に苛立ちを覚えるマグラ。
後日、再会した彼女にはやはり不要な匂いが纏わり付いている。心地よい彼女の香りを自分だけのものだと主張することを決意するが、全く意図は通じない。
そんなある日の出来事。
拙作「痛みは教えてくれない」のマグラ(男性)視点です。
同一場面で会話を足したり引いたりしているので、先に上記短編(エレノア視点)をお読みいただいた方が流れがわかりやすいかと思います。
別サイトにも掲載しております。

白猫は異世界に獣人転生して、番に愛される
メリー
恋愛
何か大きい物体に轢かれたと思った。
『わん、わん、』と言う大きい音にびっくりして道路に思わず飛び込んでしまって…。
それなのにここはどこ?
それに、なんで私は人の手をしているの?
ガサガサ
音が聞こえてその方向を見るととても綺麗な男の人が立っていた。
【ようやく見つけた。俺の番…】

番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる