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しおりを挟む「愛しているよ、クロエ」
展開が早くて気持ちがついていかない。
戸惑う私の頬に口づける。
「ルーカスのお嫁さんになりたいって言われたこと、俺は忘れていないよ。やっと約束を叶えてあげられる」
確かに幼い頃、ルーカスにべったりだったし、大好きだったから心からそう思って言った。
それに家に戻ってすぐにメイソンと婚約と言われてショックを受けたし、泣いちゃったけど、日々過ごすうちに受け入れた。
ルーカスは由緒正しい侯爵家で、うちもメイソンも同じ位の伯爵家だってことを。
「……ルーカスに婚約者がいないのはそのせいなの?」
メイソンと結婚していたなら色んなところで不幸が起きていたかも。
「……クロエ以上に好きになれる人がいなかった。そもそも、俺はクロエしか考えられなかったから、領地を引き継いでも子どもは弟の子を養子にしようと思っていたくらいだよ」
なんだか重くなってきた。
「でも。神は俺に味方したみたいだ。……もう離さないからね」
頭の中で言われたことを整理しているうちに抱き上げられて、ベッドに下された。
「ルーカス?」
「うん、愛している」
とろけるような瞳で見つめてくるけれど。
「あの…………なに、を?」
「クロエを全部もらうよ。……大丈夫、もう家族みんなに話してあるから」
ルーカスの腕の中に閉じ込められた私の唇に、指が触れる。
「心配しないで、俺に抱かれて」
なんで当事者の私が一番最後に知らされるの?
こんなの、恥ずかしい。
思わず涙ぐんだ私の目元に口づけを落とす。
「うん……俺も好きだ」
なんでそうなる?
感極まったと思われたの?
下唇を食まれ、触れ合いを楽しむように啄まれる。
「かわいい、柔らかい。全部俺のものだ」
「ルーカス、待って……」
「大丈夫、優しくする。暴れるとちょっと痛くなるかもしれないけど」
止める気はない、と。
「結婚は卒業後すぐに執り行うから、子どもの心配はしなくていいよ。あと数ヶ月でしょ? それに、エリーが赤ちゃん楽しみだって」
これ、決定事項なんだ。
「ルーカス…………痛くしないでね?」
「もちろん、クロエが逃げなければ」
逃げたら痛くするのか、と思いつつ覚悟を決めた。
重いけど……重いけど気の多い男よりいい、はず。多分。
「逃げない。……ルーカスと結婚する。……だから」
今日じゃなくてもいいんじゃない?
「よかった……愛してるよ、クロエ。大切にする」
潤んだ瞳で見つめられ、唇を舐められて驚いた私の口内ににゅるりと舌がすべり込んだ。
「んむっ……! ルー……」
「あぁ、懐かしい呼び名だね。あの頃、クロエだけにそう呼ばせていたんだ。思い出すな……俺のものだって思っていたのに」
前半は甘くささやいていたのに、後半になるにつれ、なんだか不穏な雰囲気を醸し出す。
「俺が両親に願って申し込んだ時には、あいつと婚約した後だった……悔しくて泣いたよ」
私が九歳の時だから、ルーカスは十五歳だったはず。
うん、なんか……ね?
「回り道したけど、ルーカスのおかげで、私は不幸な結婚をしないですんだわ。ありがとう、大好きよ!」
ぎゅっと抱きついてみる。
一瞬固まった彼だけど、私をきつく抱きしめてくれた。
とくとくと少し早い心音が聞こえて心地いい。
そう言えば、よく一緒に眠っていたな、って思い出した。
よく考えたら……いや、考えないほうがいいか、あの当時ルーカスが私をどう思っていたかなんて。
「昔のクロエが戻ってきたみたいだ。すごく嬉しい……もうあいつとは話すなよ? 話はすんでいるから関わって欲しくない」
「でも、学園で会ってしまうかも……」
「卒業パーティまで授業も試験も終わっているから行かなくていいんじゃないか? ほかの男をクロエの瞳に映して欲しくないんだ。俺だけを見ていてほしい」
重い。
ルーカスの言う通り学園は行かなくても大丈夫だけど。
「長く婚約していたし、卒業パーティで俺が同伴している時なら一言くらい別れの挨拶をしてもいい。その翌日には領地に帰るから、一生会うことはないだろう」
「そうね、ありがとう……最後に一言くらい、言ってもいいわね」
それさえも嫌がると思ったからちょっと驚いた。
言いたいことはたくさんあるけど、ルーもいるし、公の場だから本当に一言だろうなと思う。
「ルーが一緒なのが嬉しい。何着ようかしら?」
最近の夜会はすべて従兄に付き添いをお願いしていた。
両親にはメイソンは従妹を連れてくるから合流すると言って。
なんでかばっていたのかと思うけど。
従兄が席を外すと、アーヤさんと一緒にいる王子様やメイソンたちと私をちらちらと見比べて、クスクス笑われたり、憐憫の目で見られたりしていて居心地が悪かった。
アーヤさんは庇護欲をかき立てられる可愛さを持った女の子だと思う。
少しわざとらしく感じるくらいに。
王子様の婚約者のグループが嫌がらせをしたくなる気持ちもわからなくないけど、エリーに言われてから距離を置いていたし、早めに帰って家でゆっくりバスタイムを愉しむのが、パーティの後の私の過ごし方だった。
すでにメイソンと仲良くすることを諦めていたのかも。
「ドレスはこっちで準備するから、待っていて」
「本当?」
「俺の奥さんになるんだから、当然だよ」
「ありがとう、ルー。嬉しい」
にこっと笑うから、和やかな空気が流れる。
「もう、不安はないかな?」
「う、ん」
多分……?
ルーカスの目つきが獲物を狙う猛獣みたい。
なんだろう、違う意味で不安になる。
「俺、もう我慢の限界だ」
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