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12 エルバは困惑した② ※
しおりを挟むそこに痩せていた昔のフェルシアノはいなかった。細身ではあるけれど、うっすらと筋肉のついた体でエルバはどこを見ていいかわからなくなる。
「フェル……」
名前を呼んでみたものの、なぜか少し不安に感じて。
「怖い?」
「……少し。でも、平気」
かすれた声で答えても、言葉通りに受け取ってもらえるわけもなく。
「わからないことは怖いよね。今からすること、説明しようか?」
エルバが首を横に振ると、フェルシアノが心配そうな顔をする。
説明なんてされたら、恥ずかしくてたまらないと思うのに。
「そう? じゃあ、不安に思ったら言って。それと嫌だと感じた時も」
「うん……ありがとう、フェル。大好き」
「うん。俺も」
心臓がうるさいくらい高鳴っていて、エルバは自分の息遣いが気になった。
だけど、フェルシアノに再び口づけられて、唇の柔らかさや思いもよらないところを舌がなぞるのに気を取られて、何も考えられない。
「綺麗だ」
フェルシアノがリボンを引いて、エルバは寝衣をあっさり脱がされたことにも気づかなかった。
指先で体の線をなぞられて、驚いてフェルシアノを見上げる。
「くすぐったかった?」
「驚いただけ」
「そう」
くす、と笑ってゆっくりと体に触れ回り、ついには胸を包み込む。
どんどん体温が上がるようで、お互いの体が熱くなってきた。
「もっと近くで見たい」
顔中に唇が触れているのに、これ以上何を近くで見たいのだろうと思っていると、フェルシアノが首に口づけしてから頭の位置を下げる。
「フェル?」
エルバが名前を呼んだ時、胸の先端を口に含まれて体が跳ねた。
一瞬フェルシアノと視線が絡んだものの、強く吸いつかれて小さく声を漏らす。
恥ずかしい。
フェルシアノの口内が熱く濡れていて、舐められるとお腹の中がきゅんとした。
吸われているところと別の場所が反応しておかしい。
でもそうされることが嫌じゃなくて、頭の中が混乱する。どうしたら。
「エルバ、綺麗だ。愛している」
「……っ、わ、たしも……!」
甘噛みされて、体がびくびく跳ねてしまうし、変な声を漏らしそうになって耐えた。
それなのにエルバを試すように、フェルシアノは唇だけでなく舌や指を這わせて、反応を引き出そうとするから。
「フェル……っ。からだが、おかしいの……」
「どんなふうに?」
フェルシアノにのぞき込まれて思わず言葉を失った。
「違う、人みたい……」
いつもと同じようで、そうじゃないように感じるのは雰囲気のせい?
「ようやく兄としてではなくて、男としてエルバに触れられるんだ。……ずっと我慢してたよ。そうでもしないとエルバに無理強いしたかもしれない」
フェルシアノがそっけなかったのは、そういった理由だった?
それなら……。
「もう我慢しないで。すごく恥ずかしいけど、フェルにたくさん触れてほしい……でも、体が熱くて、自分じゃないみたいでおかしいの……」
エルバがそう言うと、フェルシアノが頬を緩める。
「教えてくれてありがとう。俺もそうだ。正しい反応だと思うよ」
「正しい……?」
「そう。少しもおかしくないよ」
そのままエルバを安心させるように唇が重なった後、フェルシアノの手が内腿を撫でてそのまま脚の間へとのびる。
「ん……っ!」
彼の指が濡れたのを感じて、一瞬で顔が熱くなった。細い指がそこにとどまり柔らかく触れる。
「エルバ、自然な反応だよ。俺を受け入れて」
「はい」
恥ずかしいけれど、閉じてしまった脚の力を抜こうとなんとか努力した。
エルバがフェルシアノの顔を見ることができないでいると、太ももを撫でられる。
「……ありがとう。エルバが傷つかないように、もう少しだけ触れさせて」
「うん」
「夫婦が当たり前にすることだから」
一度強く唇を合わせてから、フェルシアノが脚の間に顔を寄せた。
驚いてずり上がろうとするエルバの太ももを掴む。
「フェル、しなくても大丈夫だよ」
何をされるかよくわからないものの、顔を近づけられるのは恥ずかしくてたまらなかった。
「エルバに痛い思いをして欲しくない」
真摯な態度でそう言われてしまえば、もう何も言えなくて。
フェルシアノは指だけでなく唇や舌を使って、丁寧に触れた。
秘核に触れられると全身が甘く痺れてくる。
「あ……っ、……んんっ」
とうとう声が我慢できなくなったエルバを、フェルシアノは執拗に攻めた。
口を押さえるエルバに彼が優しく言う。
「声、もっと聞かせて」
「でも……っ、ふ、……」
「聞きたいんだ」
エルバが首を大きく横に振る。
「そう、しかたないね」
蜜口に挿れられた指が拡げるように動いているけれど圧迫感から一本ということはないと思う。
じわじわと熱が重なって、目の前が白く霞んで。
「フェル……、あ、あぁ――――っ!」
ふいに秘核を舐め上げられて熱が弾けた。
力が抜けて荒く息を吐くエルバの膝裏に手をかけて、フェルシアノが起き上がる。
「エルバ」
最初に感じたのは圧迫感。
それから隘路を押し拡げられる痛み。
見慣れない表情のフェルシアノ。
「フェル……っ」
あれだけ丁寧に触れてくれたのに、痛みに襲われる。
「ごめんね。あと少しなんだ」
「……っ⁉︎」
フェルシアノに一息に貫かれて、一瞬息が止まった。
そのまま目尻に口づけが落とされて、エルバは自分が泣いていることに気づく。
「痛いよね」
「……動かなければ大丈夫」
「ごめん、エルバ」
「いいの。痛いけど、嬉しい。フェルが私の中にいるんだね。……フェルじゃなかったら、私、耐えられなかった」
こんなに親密な行為を他の人となんてできるはずがなくて。
フェルシアノがエルバの肩に頭を乗せて、大きく息を吐く。
「今も我慢しているんだ。なのに、そんなことを言うと……」
甘えるように顔をこすりつけるフェルシアノの、柔らかな栗色の髪をそっと撫でる。
「フェルも痛い?」
「……逆。気持ちよくて、動きたくなる」
「そうなの……ごめんなさい、もっと夫婦のこと勉強するね」
急に結婚が決まったとはいえ、修道院に入り浸っていた分、知らないことが多過ぎると気づいた。
「夫婦のことは二人で作り上げるものだから、一緒に学んでいこう」
顔を上げたフェルシアノがそう言ってエルバの唇を啄む。
唇を合わせていると痛みから気がそれる。
「フェル、好き」
舌を絡め合って口内を探られるうちに、再び体が熱くなった。それに気づいたフェルシアノの指先が、二人のつながりへと伸びる。
「……んっ」
優しく秘核に触れられて、体が甘く痺れた。フェルシアノを受け入れたそこが、反応してうごめく。
「……っ、エルバ、動くよ」
試すようにゆっくりと腰を揺らされて、エルバは息を吐いた。
さっきまで隙間なんてなかったのに、体はすでにフェルシアノに馴染んでいたらしい。
痛みが消えたわけでもないけれど、無理に進めない彼の気遣いが嬉しくて。
「ん、……あっ、フェル……っ」
ゆったりとした動きにじわじわと熱がたまる。痛みだけじゃない。
わけのわからない感情が押し寄せて、エルバはフェルシアノにしがみついた。
「エルバ」
小刻みに揺さぶられて快楽を拾うエルバに、フェルシアノは短く息を吐くと、もう我慢できないとでもいうように上から落とし込むように穿つ。
「ひぁっ、あっ。あっ、あぁ……!」
エルバはひときわ大きい声を上げて柔軟に彼を受け止める。
こんな世界は知らなかった。
「エルバっ……!」
それから間もなく体の奥深くでフェルシアノの熱を感じた。
どくどくと激しく脈打つのが自分なのか彼なのか、もうわからない。
お互いにきつく抱きしめ合って息を整える。こんなに親密な行為だと思っていなかったエルバは、ぼんやりしたままフェルシアノの背中を撫でた。
いつもの自分でいられなかったけれど、彼もまた見たことのない表情で――。
いまだ芯を持ったままの彼を受け入れながらエルバは体を震わせた。
「エルバ、大丈夫?」
いつもの表情に戻ったフェルシアノが、心配そうにのぞき込む。
「大丈夫、だと思う」
「……よかった」
いたわるような優しい口づけが嬉しくて、エルバは微笑んだ。
「朝になったら、風呂に入ろう。このまま抱きしめて眠ってもいい?」
そう尋ねられて、エルバは頷いた。
行為の最中は、いつもと違う表情に戸惑ってしまったけれど、フェルシアノはフェルシアノだ。
彼はやっぱり優しい。
「フェルと結婚できてよかった」
「俺も。長かったな」
感慨深げにつぶやくから、エルバは隙間がないくらいきつく抱きついた。
「エルバ……我慢しようと思ったんだけどな」
くるりと反転して、フェルシアノの体の上にのせられる。
「フェル?」
「もう一度、したい」
フェルシアノの顔つきが変わる。
お互いに知らないことがたくさんある。
これからきっと驚くこともあるだろうけど、新しい一面を知るたびにもっと好きになると思う。
エルバは頷く代わりに自ら口づけを落とした。
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一気に読了❗
両想いハッピーエンド🎉
フェル、エルバの献身に気付いてるからこそ、巻き戻り前よりも執着が強くなっていそう😅
お義父様も──知らぬが花──『これでグアタルペも幸せの中で逝ける』と信じてるんでしょうね😅
不本意なのはグアタルペのみ、でも彼女の場合は自業自得なので⭐
一気読み、嬉しいです( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )
ハッピーエンドタグは迷ったのですが、グアタルペ以外は幸せになりました。
義父は……うん、まぁ、はい💦
おっしゃる通りだと思います😅
義父は最善を尽くしているわけで。
フェルは真綿でくるむようにエルバを大事にすると思いまーす(* ˘ ³˘)♪
セライアさま、お読みくださりありがとうございました〜🤗
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