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11 エルバは困惑した① ※微
しおりを挟むガーデンパーティーは日が暮れても続いたため、蝋燭であかりが灯され長時間賑わった。
マルシオがしばらくグアタルペの元に寄り添って抜けていた為、本日結ばれた幸せな二人が来客をもてなす。
「結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お二人の幸せを祈っております」
侯爵家と縁をつなごうとやってくる人々が途切れず増えていく中、マルシオが戻ってきて、ようやく二人が退場することになった。
「お疲れ様、あとは任せて」
「義母上は?」
「寝室からのぞいていると思うよ。ほら」
マルシオが手を振る。
和やかな父子の会話に、エルバがグアタルペの寝室の窓を見上げる。カーテンは開いていて、窓辺に置かれた寝椅子にぼんやりと人影が見えた。
「外の様子がよく見えるように移動させたんだ。この雰囲気を味わいたいだろうと思ってね。最後まで彼女も見守っているよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。……エルバ、このまま下がろう」
「はい、ではお義父様よろしくお願いします」
屋敷に入ると、日常に戻ったような気がしてほっとした。
「結婚おめでとうございます。今夜はこちらの部屋をご使用下さいませ」
新婚生活がこれまでと同じ部屋というのも味気ないために、いったん客室を整えて使うことに決まっていた。
というのも、フェルシアノが見つけた屋敷の改装が終わるまでの仮住まいだから。
誰にも邪魔されずに二人で過ごせると思うと楽しみで頬が緩む。
「今夜は日付けが変わる頃までパーティーが続きそうだな」
「そうね……急だったから、それぞれ時間の都合をつけてやって来ているみたいだったわ」
ここぞとばかりにリモンチェッロ――侯爵家の領地でたくさん実る、レモンの果皮と砂糖を使って造る甘いお酒を飲みに訪れているようにもみえる。
もしも泥酔したり具合が悪くなったりする客が現れたら、二人の部屋から離れた部屋を開放することになっているけれど、きっと義父が手遅れになる前に帰すだろうと思う。
「フェルシアノ様は隣の部屋の浴室が準備できておりますので、そちらをご利用くださいませ」
「わかった、ありがとう」
フェルシアノがエルバの頬に口づけして言う。
「またあとで」
「はい」
エルバ付きの侍女が声をかける。
「エルバ様、こちらへどうぞ。……フェルシアノ様、準備が終わりましたら声をかけますのでしばらくお待ちくださいませ」
「わかった」
髪を解いてもらいウエディングドレスを脱ぐと、気に入っていたとはいえ解放されてほっとする。
とても長い一日だった。
そのまま薔薇の花びらの浮かんだ風呂に浸かり、体を清めて肌の手入れをしてもらう。
いつもより念入りなのに、手早くてエルバは不思議に思った。
その後慎ましさのかけらもない薄布をまとってベッドで待つように声をかけられる。
「本当にこれだけ? 何か羽織るものはない?」
「その……初夜の女性はそのようなものを着るものです。……ではもう少し部屋の灯りを落としますね。フェルシアノ様をお呼びしますので、そのままお待ち下さいませ」
部屋が少し暗くなって、ほっとした。
「わかったわ、ありがとう。今夜手伝ってくれたのがあなたでよかった」
「恐れ入ります。エルバ様、改めましてご結婚おめでとうございます。この日をずっと楽しみにしておりました。……そろそろ待ちきれないでしょうからお呼びしますね」
待ちきれないとは、フェルシアノのことだろうかと考えてすぐにドアが開いた。
あまりにも早くて心の準備ができない。
「エルバ」
ガウン姿のフェルシアノの姿に心臓が跳ねる。
巻き戻る前は幾度となく見ていたはずなのに、エルバには違って見えた。
これならベッドに腰掛けるのではなくて、中に入っていればよかったと思うものの、今さら動くこともできない。
「フェル……お、お待たせしました」
「うん、待ってた。でも、待つのもすごく幸せな時間だったよ」
笑顔で、少しも怒った様子がない。
私の隣に腰を下ろし顔をのぞき込む。
「とうとうエルバが俺の妻になってくれたから。これから毎日どんなことをして過ごそうか色々想像していた」
楽しそうに笑うから、エルバも肩の力が抜ける。
「フェルはどんなことをしたいの?」
「まずはエルバをたくさん愛したい」
とん、と肩を押されてそのまま後ろに倒れた。
「フェ、ル?」
戸惑うエルバの上から覆うように抱きしめる。
「愛しているよ、エルバ。俺がどれだけ好きか、身をもって知って」
そう言って彼は唇を重ねた。
強く押しつけられた唇がそのままエルバのそれを何度も啄んだ後、フェルシアノの舌がエルバの唇の内側をなぞる。
「……ん!」
感じたことのない感覚に驚いていると、歯列に舌を這わせ、彼の指が顎を下げるように掴んだ。
「口を開けて、鼻で息して」
エルバの薄く開いた口内に舌がすべり込み、探るように動く。
営みのことは本で知識を得たけれど、具体的なことはよくわかっていなかった。
「あっ、……フェルっ」
彼の舌がエルバのそれを探り当て、絡みつく。唇を重ねるだけでも心臓が跳ねたのに、今は驚きすぎて彼のすることをただ受け入れる。
「我慢ができなくてごめん、移動する」
フェルシアノが膝裏に手をかけ、軽々と持ち上げてベッドの中央に下ろした。
「フェル……、私あまり知らなくて……」
「俺がわかっているから大丈夫。さっき色々考えてた」
いつもとは違う表情を浮かべるフェルシアノに、エルバは見入った。
知らない一面に触れて心臓がますます速まる。
「教えて。フェル」
嬉しそうに笑って、フェルシアノがガウンを脱いだ。
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