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6 お茶会

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 久しぶりとなる王宮のお茶会に、フェルシアノとエルバが顔を出した。
 成人したフェルシアノにまだ婚約者はいないから、すぐに令嬢達に囲まれてしまう。

 いつものことだと眺めつつ、エルバは案内された席に着いた。
 このお茶会に限っては席次などあってないようなもので、お目当ての相手のいるテーブルへ移動してしまう者が多く、今はエルバ以外に誰もいない。

 静かにお茶をいただきながら、周りを見た。
 フェルシアノはどの令嬢にも礼儀正しく、時々楽しそうに笑みを浮かべている。
 心から笑った時はもっと目尻が下がるし、意外とはっきり言う。優しいだけじゃない。

 周りで言われているほど完璧な貴公子なんかじゃないけれど、内面を見て彼の良さをちゃんとわかる相手と結婚して欲しい。
 そうしたら私は――。
 
「エルバ嬢、楽しんでいる?」

 不意に話しかけられて驚いた。気を抜き過ぎていて恥ずかしい。

「……ごきげんよう、オスバルト殿下。もちろんですわ」

 オスバルトはエルバより二つ年下で、おっとりした性格とふくよかな体の第三王子だ。
 第二王子とフェルシアノが人気を二分していて、今も賑やかな輪ができている。

 第二王子とは挨拶を交わすくらいで、巻き戻る前よりも近づかないようにしていた。
 オスバルトは大人しく目立たないし、第三王子ということもあって権力闘争からも自ら外れている。

 彼狙いの令嬢がいないわけでもないが、あまり社交が得意ではなく、時々静かなエルバの隣でのんびりしていた。

 たまにグアダルペの顔が浮かんだものの、オスバルトは神職に就きたいと漏らしていた。
 エルバのことを姉のように思っているようだし、エルバも弟がいたらこんな感じなのかと思えて気楽に過ごせている。

 彼はエルバが誰とも結婚を望んでないことも、なんとなく気づいていると思う。

「大変そうだね」

 エルバがフェルシアノを見ていたことに気づいていたのだと思う。

「……そうですわね」
「僕もしばらくここでのんびりしていたいな」

 今来たばかりのオスバルトは、体は大きいが控えめで影が薄いからか、まだ存在を気づかれていない。
 彼がわざと気配を消しているのかもしれないけど。

「では今のうちにゆっくりなさって」

 オスバルトが笑みを浮かべ、エルバとのんびり会話した。彼は気の強い女性と積極的な女性が苦手なのだと思う。

「今日はババなんだね。……お酒が効いている?」
「今日はレモンのシロップですって」

 テーブルに並んだ菓子の中で、ボリュームのあるコルクのような形のデザートに目がいく。
 ブリオッシュにたっぷりとシロップを含ませて、スライスしたレモンのシロップ煮とクリームが添えてあった。

「向こうのテーブルはラム酒がたっぷりのようです」

 第二王子のテーブルに視線を向けた。
 なんとなく年齢に合わせて用意されているように思える。
 ラム酒が効いたものは侯爵家のデザートとして出されることもあって、酔ってしまいそうになることは確か。
 オスバルトもうっかり食べてしまったのだろう。
 
「エルバ嬢の元へ来てよかった」

 そう言うから、笑ってしまう。
 お互い未成年だし、出席者の半数以上成人していない。
 オスバルトが、二つ目のババを食べながら言う。

「……気がつくと、山盛りのアマレッティがすべてなくなっていたんだ。食べ物が出てくる話はお腹が空いて困るよ」

 アーモンドを粉にして作ったメレンゲ菓子だから、つまみやすくて軽く食べてしまったのだろうと思う。

「すべて空に? アマレッティは後を引く美味しさですものね。それほど夢中になってしまったお話は、なんというタイトルですか? 私も読んでみたいです」

 オスバルトの上げたタイトルはすでにエルバが読んだものだったから、ますます話が弾む。

「私は寝る前に読んで、後悔しましたわ。主人公がなんでも美味しそうに食べますからお腹は空きますし、続きが気になって眠れませんでしたもの!」

「そうそう! ばあやのラザニアや子羊料理、とても美味しそうだったね」

 思わず二人で笑い声を上げてしまい、オスバルトに気づいた令嬢達が集まってきた。その後は賑やかなおしゃべりにエルバもオスバルトも聞き手に回った。






 帰りの馬車はいつも以上に静かで、フェルシアノの眉間にしわが寄っている。
 何か嫌なことでもあったのかと思う。

「フェルお義兄様? どうかされましたか?」
「……エルバは、オスバルト殿下のような方が好きなのか?」

 思いがけない言葉にエルバは言葉を失った。

「いや、なんてもない。気にしないで欲しい」

 そう言ってフェルシアノは窓の外に視線を移す。
 エルバはその整った横顔を見つめた。

「……オスバルト殿下は結婚に興味がないそうで、私といると気が楽みたいなの」
「そう」

 今度はフェルシアノがエルバを真っ直ぐ見つめた。
 近頃のフェルシアノは二人きりの時はこうしてよくエルバを見る。
 馬車の、狭く閉ざされた空間に居心地の悪さを感じた。

「オスバルト殿下は……歳も下ですし、弟のように思っているわ。あの……お義兄様、今言ったことは内緒にしてね」
「もちろんだよ」

 フェルシアノがようやく微笑んで、エルバはほっとした。

 やきもちみたい、と考えているとフェルシアノがエルバの頬に触れた。
 思わぬ行動に、ぴくりと震える。

「修道女になんてさせないよ」
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