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9 告白
しおりを挟むみんなしてどうかしてる。
デーヴィド以外、オーブリーがこの町に住むことを勧めている。
俺だけをみてほしい、そう彼は言った。
愛しそうに、甘さを含んだ瞳を向けてくるから勘違いしそうになる。
勘違いしてもいいのかも?
オーブリーは私に嘘ついたことなんて一度もないもの。
でも……ミアを好きだったから、妹の私に手を伸ばした?
懐かしいって言ってたから。
似てるとは思わないけど、同じ家の娘だし。
そんな理由ってありえるかな?
いつも心が揺らぐ。
再会してまだ数日。
展開が早すぎる。
なのに私の心はまた彼を求めている。
「何がおすすめ?」
ランチを食べようと言われてゆっくり町を歩いていたけど、考え事をしてぼんやりしすぎたみたい。
せっかくオーブリーと二人きりなのに。
大きな手に私の手はすっぽりと包まれてほんの少し近くにひっぱられた。
上から覗き込まれて、
「抱き上げて歩こうか? 人波にもまれて心配になる」
「オーブリーの陰にいれば大丈夫」
甘い。
優しくみつめられて思わず赤くなる。
もう子どもじゃないのに。
「……かわいいな」
そう言って、私の髪に口づける。
「おい、オーブリー! こんなところでいちゃつくなよ!」
面倒くさいのに会ったなと低い呟きが聞こえた。
前から大柄な男達がやってくる。
風貌から船乗りみたい。
「口説いてるところだ……邪魔するな」
顔を覗き込まれそうになって、オーブリーにそっと抱きしめられた。
硬いお腹に頭を押さえつけられてドキドキする。
その様子に男たちがどっと笑った。
「見るなよ。あっち行けよ」
「わかった、わかった、本気なんだな」
「あぁ、船には戻らない。近々船長に挨拶に行くよ」
男たちが離れていくまで私はじっと抱きしめられたままでいた。
懐かしいオーブリーの匂いと、男らしい筋肉のついた硬くて厚みのある身体に昔との違いを感じて体温が上がる。
どうしていいかわからなかった両手をオーブリーの腰のあたりの服をぎゅっと掴んだ。
「ごめん、苦しかったか?」
無言で首を横に振った。
まだ顔が熱いから上げたくない。
肩に手を当てられてゆっくりと人通りの少ないほうへ誘導された。
「なあ、エラ……俺のこと嫌いか?」
そんなわけ、あるはずない。
首を横に振ってからゆっくりと顔を上げた。
まだ顔は火照って熱いし、私がオーブリーを好きだってばれているのかな。
そんな私を優しい瞳でみつめている。
「守りたいと思ったのも、ずっと一緒にいたいと思ったのも……エラ、お前だけだ」
「でも、ミアが……」
私たちの間にはいつでもミアがいる。
「うん、話さないとだな……おれが浅はかだったんだ。幼馴染だったから結婚するものだと思い込んでいただけで、愛したことはない。むしろ、お前と過ごした日々の方が楽しかった。思い出すのもエラと過ごした森のことだ。あの当時は妹として守りたかったわけだが」
「本当に好きじゃなかったの?」
「幼馴染としての気持ちで、愛じゃなかった」
オーブリーの表情を見逃したくなくてじっと見つめる。
信じてもいいのかもしれない。
熱っぽい瞳でまっすぐみつめてくるのだから。
「俺はおまえと再会して、一目で恋に落ちた。……エラが愛しくてたまらない」
それでも、私のひねくれた感情が溢れる。
「でも、ミアのほうが綺麗だったでしょう?」
「どこが? エラのほうが数倍綺麗だ」
即答されて私は口を閉ざす。
「今も昔も眩しい。すごく、綺麗だ。昔はかわいかったけど。どこがって言うならいくらでも話せるよ。聞きたいか?」
「……今は、いい……」
涙を浮かべた私の顔を優しく撫でる。
「愛してるよ、エラ」
「私も、愛してる……もう、ずっと前から」
溢れた涙を親指の腹で拭ってくれたけど、次々と溢れてくるからオーブリーに抱きしめられた。
「まいった……かわいくて、大事すぎて、手が出せない。俺が震えているのがわかるか?」
彼の腕の中でゆっくりと顔を上げた。
指先がわずかに震えているのをみて何も考えずにその指先をぎゅっと握る。
「エラ……」
その指先に口づけが落とされた。
見たことのない表情に私は戸惑う。
「オーブリー……?」
私の声に一度だけ力強く抱きしめて、大きく息を吐いた。
まいったな、俺が手を出すと汚してしまう気がすると言う声と共に。
私がその意味を考える間もなく、目の前にオーブリーが跪いた。
「俺にはお前が必要だ。結婚してくれるか……?」
「え、と、はい。あの、両親にも話して……」
トムと、ソフィアに。
私がしどろもどろに答えると破顔した。
「なんだか締まらないな……俺は待てない。早く結婚してほしい」
「……はい」
心臓が早鐘を打つ。
彼に必要とされることに胸がいっぱいになる。
「オーブリー、大好き」
躊躇わずに言えることに幸せを感じて笑みが漏れた。
「……まいったな、我慢できるかな」
今日は何度オーブリーがまいったというのを聞いただろう。
ほんのり、彼の顔が赤らんでいるようにみえる。
私のほうがこういう場面でわからないことだらけなのに。
私の視線を感じたのか、髪に口づけてから抱擁をといて肩に腕を回してぴったり寄り添った。
「本当は俺の恋人だって、抱き上げて自慢しながら歩きたいんだが」
色気のある眼差しと、独占欲に私はどきりとする。
「それは、恥ずかしいから……」
「そう言うと思った。……食事にしよう。安心したら、腹が減った」
「この近くに美味しい肉料理の店があるの。デーヴィドも気に入っていたからどうかな?」
「いいね」
昼食の時間が少しずれていたからかあっさりと席につけた。
私の三倍もある量の豚の炙り焼きを涼しい顔で完食した後、私が残した分も平らげた。
「どこにそんなに入るの?」
「ここ? 体の大きさが違うからね。エラだって、もっと食べないと。……結婚したら、体力が必要だぞ」
「……十分あると思う。昔より食べれるようになったし」
「……それならよかった」
宿屋で長時間働いているもの。
そう言うと、オーブリーは私の髪をくるくる指に巻きつけて曖昧に笑った。
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