愛は重くてもろくて、こじれてる〜私の幼馴染はヤンデレらしい

能登原あめ

文字の大きさ
上 下
21 / 23
パターン6 (執着心と独占欲の塊だと自覚のある根暗ヤンデレ)

1 好きなのに離れようとするから

しおりを挟む

* ヤンデレの自覚があるため、エリンから離れようとする根暗ブレーカーと、それに気づいているエリンの話。全3話。
* 2人の関係をお読みになってからどうぞ。(別パターンは一旦忘れて下さい)






******


「エリン、もうここに来るな」

 卒業まであと半年もないのに、ブレーカーは学園を休みがちだ。
 私は授業が終わるとまっすぐ帰って彼に会いに行く。

 よく本を読んでいる彼に、その日のこととか思い浮かんだことをひと通り話すのだ。聞いていないようで、彼は全部聞いてくれている。

 私が言ったちょっとしたことも覚えていて、ふとした拍子に尋ねてくる。
 ふうん、って返事して終わるけど。
 でも今日のブレーカーはいつも以上に暗くて、私の方を全然見ない。

「どうして?」
「……もう、お互い大人になるんだ。2人きりで部屋で会うのはやめよう」
「それなら一緒に学園に行こうよ。一緒に行きたい」
「……もう行かない。単位は取ってるから、卒業式に出ればいい……先生にも伝えてある」
「そんなの……!」

 私が寂しいのに。
 
「だから、もう……幼馴染だからって世話を焼かなくていい」
「なに、それ……」
「俺、もう父さんの仕事を手伝っているんだ。学園は卒業できるってわかってるわけだし、働いたほうがいいから」

 たしかにブレーカーは頭がいいし、ゆくゆくは家業を継ぐのだから、早く仕事を覚えることはいいんだと思う。
 でも……どんどん会う時間が減って、どんどん私を避けるようになって、どんどん私より先に行ってしまう。
 私はブレーカーと残りの学園生活を楽しみたいのに。

「卒業パーティ、出れる?」
「どう、かな。……多分、無理かも。仕事になりそうだし」

 ブレーカーは口の中でもごもご答えた。

「私は一緒に出たい。だって、卒業パーティは一度しかないんだよ……?」
「エリンなら、俺じゃなくても……」

 そう呟いて、黙る。
 ブレーカーの本心じゃないって、私は思う。
 どうしてこんなふうになってしまったんだろう。私達はとても仲が良くて、ずっと一緒にいるはずだったのに。

「ブレーカーは私が……他の人を好きになって、恋人ができて、結婚してもいいの……?」

 私の言葉にブレーカーが拳を握るのが見えた。血管が浮くほど力が入っているのに、無言のままでいる。
 だって彼は、私のことが嫌いなはずはない。
 むしろ――。
 だから、私は続けて言った。

「ブレーカー以外の人とデートして、キスして、それ以上のことも」
「エリン、出て行ってくれ!」

 いつもより強い口調に、ブレーカー本人もはっとしたようで口を閉じた。

「…………」
「……出ていってほしい。俺が何かしでかす前に」

 私は言いすぎたのだと気づいたものの、ブレーカーの強い拒絶に何も言えなくなってしまった。







 
 入学した頃は一緒に登校していたのに、だんだん距離を置かれるようになった。
 クラスも別々で、帰りまで顔を合わせないこともたびたびあって。
 だから、一緒に帰りながらどんなふうに過ごしたかよく話した。

「……エリンは毎日楽しそうだね」
「うん! とても仲が良いクラスなの。今度、天気のいい日にみんなと中庭でランチ食べようって話してる。花も咲いているし、暖かくなってきたからね!」

「……そう」
「ブレーカーのクラスはそういうことしない?」
「……さぁ? 興味ないからわからない」
「もう、ブレーカーってば!」
「俺はそういうのはいいんだ」

 あまり人に興味を示さないブレーカーは、友達が少ない。自分から仲良くしようとも思わないらしい。

『エリンがいればいい』

 昔はよくそう言ってくれていたし、多分今もそれは変わっていないと思っていた。
 でも……私の思い違いで、変わってしまったのかも。

 そんなことない。
 きっと今のブレーカーの本心は変わっていないはず。
 私はブレーカーが大好きだし、昔みたいに独占欲をみせてくれてもいいのに。

 そう思ったのに、ブレーカーは私を徹底的に避けた。
 時々昏い目をするようになって、思い詰めた顔をすることもあって、ますます話さなくなった。
 私が一生懸命話しかければかけるほど、離れていく気がする。
 そうして今の状態になって――。


「ブレーカーはね、集中して仕事を覚えるように商会の寮にしばらく泊まり込むことになったの。何人か職員が住んでいるから安心よ。あの子、早く一人前になりたいんだって」

 ブレーカーのお母さんがそう言って笑った。

「心配しなくても大丈夫よ。部屋の掃除くらいは本人がするけど、食事や洗濯は寮母さんに頼んであるから」

 休みの日は戻るように言ってあるし、卒業パーティ用の衣装は準備しているって教えてもらったけど……。

 それからの日々もブレーカーは私を徹底的に避けた。
 休みは私が学校にいる間にとって、姿を現さない。
 こんなに離れているのは初めてで、落ち着かなかった。

 時々ブレーカーの両親から話は聞けたけど、私が商会を訪ねると決まって彼はいない。
 居留守を使っているわけでも、他の職員が嘘をついているわけでもなく、タイミングが悪いらしい――というより、ブレーカーは私の考えることがわかっているのかも?

 とうとう我慢ができなくなった私は、彼の寮へと押しかけた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...