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パターン5 (クールを気取った目覚めたばかりのヤンデレ)

わからない

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          * ブレーカー視点
 
 エリンは一緒に課題でチームを組んでから、トビーとチャドともよく話すようになった。楽しそうにしていると何だかムカつく。
 
「エリン、今度よかったら店に遊びに来ない? 兄さんが新作のパイを作る日があってさ、いろんな人の意見聞きたいから女の子に味見してほしいんだって。俺、女の子の知り合いがいないから、ぜひ、エリンに来てほしいなって……だめ、かな?」

「え⁉︎ 食べたいし行きたい! だっていつもどれを食べてもおいしいから」
「……どれを食べてもおいしいなら、判断できないんじゃないか?」

 前のめりになるエリンに、普段無表情のチャドがかすかに笑った。
 なんだかイライラする。

「味はちゃんとわかるよ! 甘いとか、しょっぱいとか、スパイスが効いてるとか!」
「それくらいみんな……」

 チャドが何か言いかけたが、トビーが被せるように話し出す。
 トビーはエリンが好きだって態度を隠しもしない。

「兄さんはどんな意見も聞きたいっていうから大丈夫だよ」
「本当? それならぜひ! そうだ、デボラにも声かけていい? 彼女は流行りに詳しいから」

 隣のクラスで仲良しのデボラが一緒なら安心だろうか。彼女は落ち着いているし、間違いは起こらないだろう。

「そんなに気になるなら、話に加わってくれば?」

 ジョシュがニヤニヤしながら俺を見る。

「関係ない」
「そうか? エリンは食い意地が張ってるからなー。食べ物に釣られるかも。それに、お前からかっさらうチャンスと思っている、痛っ!」
「うるさい」

 思わずジョシュの耳を引っ張ってしまった。

「まったく……素直じゃないなぁ! だけどさ……真面目な話、エリンを狙ってる男は多いぜ」
「意味がわからない」

 エリンは幼馴染だ。
 ずっとそばにいて、家族みたいなものじゃないか。
 いるのが当たり前で、1日に1回は俺を好きだっていう。それは昔から変わらない。

 でもこうして別の男と楽しそうにしている姿は見ていてイラつく。
 見なきゃいいのに、なぜか目で追っている自分がいるのがおかしい。

「ブレーカーさぁ……考えすぎじゃね? もっと単純に考えたらいいんじゃないか?」
「単純に……エリンは幼馴染だ」
「…………」

 ジョシュが黙って、俺も考える時間ができたかと思ったが、すぐに次の授業が始まった。







「……そういうわけで、今度パイの試食会に行ってくるね。一番おいしいものをブレーカーに買って帰るから!」
 
 帰り道、エリンが楽しそうに無邪気に笑う。
 エリンの一番はずっと俺で、今も変わらないらしい。
 不思議とほっとするのも意味がわからないし、なぜかもやもやした。

 行って欲しくないと思ってしまうから。
 なんだこれは。

 深く考えるのが面倒くさくなって、エリンに言われるまま、子供みたいに手をつないで帰る。
 仲がいいわね、なんて近所のおばさん達に声をかけられるのは恥ずかしい。
 エリンが嬉しそうだから、こうして我慢するわけだが……我慢?

 手をつなぐのが嫌なわけではない。
 エリンの小さな手は好ましい。
 それに、この手を他の男が握るのは嫌だ。
 
「それでね、明日はデボラと買い物に出かけるの」
「ふうん」

 エリンは隠し事ができない。
 何でもかんでも話してしまう。
 だから、心配することなんて、何もない。







 いつもの休みなら、エリンが押しかけてきて隣でずっとしゃべり続ける。
 いつものことだから、たまにうるさいと思うこともあったけどそれが当たり前で……でも今は雨の音しかしない。

 それに時間が経つのも遅い気がする。
 いや、遅い。
 雲が分厚くて薄暗く感じたが、夕暮れまでにはほど遠い。

 以前デボラと出かけた時もランチの時間以外はずっと歩き回っていたと聞いた。
 一つ一つ店の名前を出されたけど覚えてもいない。
 
「エリンって、傘を持って行ったのか?」

 朝は雨が降っていなかったし、エリンは抜けているから忘れて持っていかなくてもおかしくない。
 そう考えると気になって窓をちらちらみてしまった。

 勉強する気にもなれなくて、立ち上がる。
 どうしてこんなにエリンのことばかり考えているんだと頭を振った。
 しばらく経って、大きな傘を恋人同士のような近しい距離でくっついて差すエリンが見えて、思わず窓に駆け寄る。

「あいつ……!」

 かすかに見えたのはトビーの緩んだ顔だった。傘の影に入ってこっちにも気づかないが、2人の様子もよくわからない。

 デボラと出かけたはずなのにどうしてトビーといるのか。
 俺に嘘をついたのか?

 一体何があって、2人が一緒にいることになって恋人みたいに見えるのか。
 胸が焼けつくように痛む。  
 それにこの焦燥感はなんだ。

 トビーはエリンを玄関まで送ったようで、エリンの母親に声をかけられたのか一緒に中に入る。
 みんな笑っていたように見えた。
 玄関の扉が閉まる様子が、なぜか俺だけのけ者にされたように感じる。

 エリンはただの幼馴染のはずで、拒絶されたと考えるのはおかしい。
 だが、とにかく不快だった。

 エリンは俺を好きだと言っていたのに。
 今はもうトビーの方が好きなのかもしれない。
 エリンはトビーを恋人だと紹介したのか?
 長い間過ごしてきた俺より、あいつを選んだのか?

 ジョシュも言っていたのに、俺は何もしなかった。
 いやだ。
 これでは本当にただの幼馴染でしかない。
 
 考えたくない。
 考えがまとまらない。
 だけど、わかった――。
 
「今さらエリンが好きだと気づくなんて……」

 目の前が真っ暗になった。







******


 お読みくださりありがとうございます。
 きだったのに、みたいな状況となってしまいました。
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