愛は重くてもろくて、こじれてる〜私の幼馴染はヤンデレらしい

能登原あめ

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パターン4 (あほになっていく変態ヤンデレ)

私の幼馴染はおかしい

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* 髪と匂いフェチの気持ち悪いヤンデレとなっています。ゆるいコメディです。
* 2人の関係をお読みになってからどうぞ。(別パターンは一旦忘れて下さい)








******


 ブレーカーはいわゆる変態と呼ばれる人間かもしれない。

「エリン、新しいリボンだよ……その、今つけているのは僕に
「うん……いつも、ありがとう……」
「僕が外すよ」

 私の後ろに立つと、はぁはぁと荒い息が髪にかかる。

「エリンの髪は本当に綺麗で、触り心地が良くて……はぁ、甘い……匂いでめまいがしそうだ」

 するりとリボンを解いた後は、手櫛でゆっくりじっとり整えてから、結い直して新しいリボンを結んでくれる。

「可愛い……とっても似合うよ……」
「……ありがとう」

 私はしばらくの間、目を閉じて動かずにそのまま待つ。
 だって、振り返ると彼は――。

「エリン、すごくいい匂い。すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」

 きっとリボンを鼻に押し当てて恍惚とした表情を浮かべているに違いないから。
 少し……かなり気持ち悪いと思わなくもないけど、ブレーカーの欠点はこれだけだと思えば大丈夫。

 いつからこうなってしまったのだろう。
 私がブレーカーの寝癖を直すのが当たり前になっていて、そのお礼だって誕生日にリボンをもらうようになった。
 あの頃から私の髪を撫でるのが好きではあったけど、それだけで。

 学園に入ってからは、ブレーカーの父親の仕事を手伝うこともあるらしく、誕生日だけでなくリボンをくれるようになって……。

『古いのは僕が処分するよ』
『せっかくブレーカーにもらったから捨てたくない』
『だけど、新しいリボンを入れる場所が必要だよ』

 確かに箱にぎゅうぎゅうに詰めるのは良くないと思って、それから古いものと交換するようになったんだっけ。
 その頃からもしかして匂いを楽しんでいたのかな。ちゃんと手入れしていたけど。

 隠さなくなったのは、学園を卒業して結婚が確かなものに決まってからだと思う。
 私達は長い付き合いだし、彼とは半月もしたら結婚する。

 友人のデボラに相談したらやめたほうがいいんじゃないかと言われたけど、私はブレーカーが好きだし……彼から逃げられるとは思わない。

 変態でも、やっぱり彼が好きな気持ちが……少し減ったかもしれないけど、なくならなかった。
 
「今週はこれをずっと使おうね。洗っちゃだめだし、僕に髪の手入れをさせてね」
「うん、わかった……重たいし、もう少し切りたいな……なんて!」

 ずっと髪を伸ばしているから、腰の辺りまである。重いし、肩は凝るし、洗うのも乾かすのもすごく面倒くさい。
 ブレーカーは切るくらいなら、僕が手入れするからってほとんど毎日私の部屋にやってきてタオルでしっかり水気を取ってからオイルまで塗ってくれる。

「エリンは長い髪がすごく似合うね。エリンほど可愛い子は見たことないよ」
「ブレーカーってば……言い過ぎ」
「嘘じゃないって、本当にそう思ってる」

 私が髪を切っても?
 その質問は学園に通ってる頃にした。
 想像しただけで泣けてくる、って言って、翌日にはなぜかブレーカーが地肌が透けるほどの短髪になってしまった。

 エリンが切りたくなったら、代わりに僕が切るから、って。
 意味がわからないけど、学園の女子達は悲鳴を上げ、男子達の間ではしばらく短髪が流行った。
 学園の人気No.1のブレーカーの影響力ってすごく大きいって思った出来事。
 
 あの日、私は放課後の教室に呼び出され女の子達に囲まれて、ブレーカーに変な影響を与えるな、って髪を引っ張られた。
 それだけじゃなくて、お揃いにしてあげるって、髪を切られて――。

 さすがに短髪は問題になると思ったらしく、脅しのつもりか握り拳で掴んだ長さだったけど。

「本当だったら、もっと長くなっていたのに」

 なぜ同じタイミングであの事件を思い出しているんだろう。
 愛かな?

 駆けつけたブレーカーが私の姿を見た後、絶叫して教室内のものを手当たり次第壊していった。
 きっと女の子達に直接手をあげないようにするには、それしか怒りをおさめる方法がなかったのかも……しれないけど。

 いや、割れた花瓶の破片や、蹴飛ばした机が倒れたせいで、壁に飾られた絵画も落ちたし、擦り傷や打撲はあったかもしれない。
 ブレーカーの壊れっぷりに体が動かなくなって青くなっていたから。

 あの子達は私に謝罪した後すぐに学園をやめてしまったし、ブレーカーが壊したものは商会からランクアップされたものに弁償されたっけ。

 理由が理由だし、ブレーカーの家は学園に多額の寄付をしていたのもあって穏便に、多分穏便にすんだのではないかと思う。
 
「そうかもしれないけど、きっと今のほうがブレーカーが手入れしてくれているから、きれいだと思うよ」
 
 不揃いな髪はきれいに整えてもらって、切った髪はブレーカーが泣きながら瓶に詰めていた。
 あれは彼の部屋の片隅に飾られていたけど、新居には持ってこないよね、聞きづらいな。

「エリンは本当に優しいな……結婚する日が待ち遠しいよ」


 一週間使い続けたリボンをくるくると小さくまいて、かっこよくチュッ、て……匂いを嗅いだのはバレているのだけど、胸ポケットにしまった。

 ちなみにリボンが返ってくることはなく、ブレーカーの部屋にコレクションされている様子もない。
 だけど、きっと私は知らない方がいいんだと思う。
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