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パターン2 (愛しさと憎しみと傲慢俺様系ヤンデレ)

私の居場所

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 みんなが学園を卒業した頃には、私は住み込みの仕事に慣れてきた。
 あの日、一番遠くまで行く夜行馬車に乗って、着いた先で途方に暮れていた私を助けてくれたのがお金持ちの品のいいおばあさん。

 仕事を探しに田舎から出てきたと言った私に、うちで働けばいいのだと、何も聞かずに雇ってくれた。
 広い屋敷に庭師や料理人、馬番や執事もいて、私はおばあさんの話し相手兼身の回りの世話するメイドとして雇われた。

 おばあさんは穏やかだし、仕事仲間も気さくで意地悪をされることもなく、休みの日に遊びに誘われることもあって毎日が楽しい。

 その中でもトビーはちょうど私と同い年で、気が合った。
 男の人に優しくされたのは初めてかもしれない。 
 幼い頃をのぞけば……ほんの少しブレーカーのことを思い出してすぐに打ち消す。
 もしかしたらトビーのことを好きになれるかも。

 ドキドキすることはないけど、トビーと一緒にいると安心する。
 トビーが一番遊びに誘ってくれるし、好きとは言われてないけど、好意は感じた。


 だけどトビーの買い出しにつき合って、屋敷に戻る途中で出会ってしまった。
 
「あれ? エリンじゃん。見かけないと思ったらこんなところにいたんだ。ブレーカーが心配してたぜ」

 誰にも知られないと思ったのに、ブレーカーの友人のジョシュに見つかるなんて。
 私をじろじろ見た後で笑いながら去って行ったけど、もうこの地も安心できないかもしれない。

 でも、私なんかにこだわらないんじゃないかとも思う。
 ただの幼馴染だから、心配するポーズを周りに見せただけかも。
 そうよ、きっとそう。
 
「エリン? 今の知り合い? ブレーカーって誰?」
「ただの幼馴染だよ。意地悪で、嫌な人」
「ふうん……なんかさっきの男も嫌な感じだったね。何か困っているなら相談にのるから。遠慮しないで話して」

「うん、ありがとう。こんなところまで来ないと思う、けど……会いたくないな」
「それなら、しばらく買い出しは俺やほかの奴らに任せてよ。もともと今日だって俺の手伝いだったし……ごめんな」

 トビーが申し訳なさそうに言うから、首を横に振った。

「気にしないで。ついて行くって言ったのは私だし、一度あの新しいパン屋さんに入ってみたかったから」

 そう答えながら、胸の中に不安が押し寄せた。









「エリン、探したよ」

 たったの3日。
 こんなに早く見つかると思わなくて言葉を失った。
 しかも――。

「エリン、こんなに素敵な恋人がいたのに、家のためにあなたは身をひいたのね……なんて悲しくて、切ない話なの! でももう大丈夫だと聞いたわ。ちゃんと幸せになるのよ」

 おばあさんを味方につけて、私は彼の親に反対された恋人に仕立て上げられたらしい。
 涙を浮かべて、私とブレーカーを祝福する。

「まぁ、まぁ! お似合いよ、あなた達。もしもの時はわたくしも協力するから任せてちょうだい」

 ブレーカーが爽やかにありがとうございます、と笑って言った。外面だけはいいから、騙されないでって思うのに私は声を出すこともできない。

「何も心配しなくていいから、このまま俺と行こう。落ち着いたら連絡しますので、ひとまず彼女を連れて行きますね」

 いやだ。
 ブレーカーは笑っているけど、目の奥が笑っていないもの。
 怖い、恐ろしい。

 私の冷たくなった手を握って、本物の恋人のように気遣うのだ。
 誰か、助けて。

「エリン……本当に心配しなくて大丈夫だ。状況が変わったし、もう俺達も大人だろう?」
「…………でも、急に仕事をやめてしまったら、他の人達に迷惑が」
「大丈夫よ、みんなもわかってくれるわ」

 おばあさんはにこにこそう言うし、後ろに控えた執事も小さく頷く。
 みんな、ブレーカーに騙されている。
 この人はそんな人じゃない。
 とても意地悪で、私のことを――。

「馬車を待たせているんだ……エリン、行こう」
「でも、荷物が……」

 ぐずぐず言う私に、荷物は送らせるわ、っておばあさんが言った。
 私はこの場から逃げ出すことも、助けを求めることもできなくてひどく体が冷えていくのを感じた――。

「それでは、大切なエリンがお世話になりました」

 馬車に乗せられてすぐに、トビーが追いかけてきてくれたけど彼の前で見せつけるように深いキスをされた。
 窓越しにトビーの傷ついた顔を見てしまって、私は視線を上げることができないまま、馬車が動き出す。

「へぇ……男に色目使ってたってのは、本当の話だったんだな」

 低い声でささやかれ、ぞくりとした。
 隣に座ったブレーカーが私の手を強く握る。
 
「どこへ……行くつもりなの?」
「そんなの、家に帰るに決まってんだろ」
「……帰りたくない」
「ふうん? おじさんもおばさんも気にしてたけどな」

 両親に置き手紙はしたけど、一度話し合わないといけないのかもしれない。
 考え込む私に、ブレーカーは言う。

「友達、誰もいなくなったのに、なんで俺に相談しなかった?」

 やっぱり、デボラの秘密を漏らしたのはブレーカーに違いない。
 彼の行動の意味がわからなくて、そんな人に相談なんてできるはずないのに。

「……デボラのこと、どうやって知ったの?」
「うん? 親が話しているのが聞こえた。叔父さんの処遇についてさ、船に乗せられて慰み者にされたらしいよ。教えてあげたいと思ったんだ、そいつの最期を」

「……どうして、学園でその噂が広がったの?」
「大人の話を聞いたのは俺だけじゃないってことさ」
「…………」
「デボラはどうしてる?」

 ブレーカーのせいかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。でも、そっとしておいて欲しかった。
 
「さあ? 俺がエリンのせいじゃないって伝えた後かなぁ、学園に来なくなったよ。お前を疑って裏切った女のことなんてどうでもいいだろ」

 たった3ヶ月でいろいろなことが変わってしまったらしい。
 働いて貯めたお金も愛用のものも何もかも置いてきてしまったのが惜しい。手元にあったら少しは安心するのに。

「とりあえず、今のうちに眠れ。俺も寝るから」

 そう言って先に目を閉じて、本当に寝てしまった。私は馬車が止まったらどうにかして逃げ出せないかとチャンスを狙っていたのだけど……馬車が停まって馬を替えた時もブレーカーに手を握られたままで降りるチャンスがない。
 そっと引き抜こうとすると強く握りこまれる。

「諦めろって。これから先は俺が守ってやる」

 その言葉をそのまま受け取って信じることができたなら――きっと私は幸せになれるのだと思った。








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 お読みくださりありがとうございます。
 この後、ヤンデレあるあるR展開になりますので、この先はお好きなように想像していただいたほうがよいかもしれません。
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