愛は重くてもろくて、こじれてる〜私の幼馴染はヤンデレらしい

能登原あめ

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パターン1 (わんこ系独占欲強いヤンデレ)

君さえいればいい

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* ヒーローによる自傷行為がありますので、苦手な方はご注意下さい。







******


 ここはどこだっけ?
 私の部屋のはずなのに、ブレーカーがいる。

「エリン、帰りが遅かったね。……それにお酒の匂いがする。どこに行ってたの? 誰と?」

 一度に訊かれてすぐに答えられない。
 月明かりに照らされて、私をのぞき込むブレーカーの蜂蜜色の目が色濃く見える。なんだか少し、怖い。

「帰ってすぐシャワー浴びたんだね……なんで?」
「…………」

 飲み会の時に、トビーに言われたことが衝撃的過ぎて、飲み過ぎてしまったらしい。
 帰ってすぐにシャワーを浴びたのは、酔いを覚ましたかったからで……あきれた顔したママに水を飲まされて、それから多分ベッドに倒れ込んで寝てしまったのだと、思う。

「どうして何も言わないの? 何か後ろ暗いことがあるとか?」
「……違うよ。えっと、まず……今日は職場の親睦会があって、初めて参加したから飲み過ぎたみたい。職場の人、みんないたかな。誰かに聞いてもらえばわかるよ」

 ブレーカーは私が嘘をついていないか、確認するようにじっと見つめている。

「ブレーカーも飲み会だって聞いてたから出たんだよ。それと、酔いを覚ましたくてシャワーを浴びたけど、部屋に入ったらそのまま眠ってしまったみたい」

 ぼんやりした頭でそこまで話して、なんだかいろんなことが面倒くさくなってきた。

 どうしてここまで説明しなくちゃいけないんだろう?
 私のこと信じてないの?
 頭の片隅にトビーに言われたことが一瞬よぎる。
 よく考えなくちゃ。

「ブレーカー、私、もう眠いから一人にして」

 ブレーカーに背を向けて目を閉じる。
 
「エリン……どうしてそんなに冷たいんだ。やっぱり何かあった? 何か言われた? それとも」
「ブレーカー、うるさい……」

 話し合いは明日じゃだめなの?

「……エリン、僕のこと嫌いになった? そんな態度とるなんて、他に好きな男ができた……?」
「…………」

 静かな部屋にブレーカーの声が響く。

「僕、エリンがいなきゃ、エリンが僕を好きでいてくれないなら生きていけない。……こんな僕なんて生きてる意味ない」

 不穏な言葉の後で、カチャカチャと金属こすれる音が聞こえてきた。
 聞きなれない音にゆっくり振り返ると――。

「ブレーカー! なにやってるの⁉︎」

 薄暗闇の中でベルトを首に巻きつけるブレーカーの姿が目に入る。
 一気に酔いが覚めて、彼に飛びついた。

「やだ! 怖いことしないで! なんで、こんなこと、するの?」

 ベルトの端を持つ手を上から握って、外そうと手を動かす。だけど手が震えて、うまく動かない。
 ブレーカーは静かに涙を流しながら、抵抗せず私にされるがまま突っ立っていた。

「……ッ、……エリン……どうして? どうして止めたの? もう僕のこと嫌いなんでしょ? エリンに嫌われたまま生きていけないよ……」

 ベルトを投げ捨て、ブレーカーに抱きついた。
 心臓が激しく打って、声が抑えられない。

「ばかっ! いつも好きって、ブレーカーが好きって言ってるじゃない!」
「でも……今夜のエリンは冷たくて、いつもと違った……こんなの、初めてで……っ」

 私の体に彼の腕が回されて、痛いくらいきつく抱きしめてくる。
 
「エリン……僕を嫌わないで」
「嫌いになるわけないじゃない」

 間髪入れずに答えてから、ふとトビーに言われたことを思い出す。

 ブレーカーが好きだって、思い込み?
 違う。
 そうじゃない。
 私達の間はそんな簡単なものじゃない。
 
 こんなに面倒くさい相手だもの、好きじゃなかったらつき合いきれない。

「ブレーカー、好きよ」
「……エリン‼︎ 僕、僕……っ、エリンだけいればいい、エリンが大好きで、僕のすべてなんだ!」

「うん……わかった。あのね、職場の飲み会に初めて出たから嬉しかったの。お酒もおいしかったし、楽しかった。少し飲み過ぎたのは反省するけど、ブレーカーを嫌いになるとかないよ。さっきみたいなこと、2度としないで」

「だって……トビーがエリンと同じ店で働くって、さっき父さんから聞いて不安だった。あいつ、ずっと……」

「ブレーカー。私が一番好きなのはブレーカーだよ。学園には、トビーの他にも男の子はいっぱいいたけど、ブレーカーより好きになった子はいないんだから。それに私達、結婚するでしょ……? するよね?」

「うん! する! 絶対に! エリン、僕と結婚してください!」
「はい、これからもよろしく、お願いします。……あのね、少しずつ計画たててもいいんじゃないかな。そろそろ本格的に決めてもいいと思う」

「……これって、先にエリンがプロポーズしてくれたんだよね! 僕、絶対、幸せになる!」 
「……うん。ブレーカー、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで元気で仲良くしよう」

 ブレーカーの表情がぱぁっと明るくなる。
 今夜の彼の感情の揺れ幅が大き過ぎて、疲れがどっと出た。

 面倒くさい、でもそんなところも可愛くて、好き。
 こんなに私のことを好きになってくれる人なんて、これから先も現れないと思う。

「ブレーカー……、私、眠りたい」
「うん。エリン……僕邪魔しないし、何もしないからここで寝顔見ていていい?」
「……寝顔見てるだけ?」
「うん。エリンは僕のものだって実感したい」

 だめかな、どうかな、ってそわそわした態度で私を見る。

「うちにはママもパパもいるから、変なことしないって約束できる? そういうことしたら、みんなに反対されると思う。早く結婚したかったら、一緒に眠るだけだよ、守れる?」
「エリン! 大好き! 約束守るよ!」

 2人で横になるとベッドがとても狭く感じた。

「エリン、エリン、愛してる。早く僕だけのものになってほしいな。そしたらもっともっとがんばれる」

「ずっと私はブレーカーのものでしょ。これから先もそう。明日……みんなと相談しないとね。結婚式とか、ドレスとか、家探しとか……」

「全部、エリンの希望通りにするから! でも面倒なことは全部僕に任せて。僕の妻になることだけ、考えて……」
「うん……ありがとう。ブレーカー、おやすみのキスしよ」

 私の言葉にブレーカーがかたまる。

「それは……我慢できなくなるからダメ。すごくしたいけど……嬉しいお誘いなのに、僕断らないと不埒なことしちゃうから」

 ブレーカーのつぶやきが心地いい。
 今日はすごく驚いたけど、私がブレーカーを好きでいる限り、この関係は大丈夫。
 家族が増えたら、きっとブレーカーも落ち着くのかな。

「じゃあ、早く結婚しないとね……」

 私の漏らした声に、ブレーカーが嬉しそうに頑張るって答えた。

 






******


 お読みくださりありがとうございます。
 病み、依存傾向のヤンデレ併発。
 もう一話、わんこヤンデレ視点のエロがありますが、もう十分という方はここまでで。
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