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7 買い付けに出ていた夫①

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 早朝に荷車を戻すのを忘れて、いつも通りに起きた後、私は悩んだ。

 こうなったら、通りすがりの彼に夫のふりをしてもらい、あの荷車とともに出て行ってもらおうか。
 でも、面倒くさいことになる?

 あれこれ考え悩んでいたら、開店前の扉が叩かれた。
 恐る恐るカーテンの隙間から覗くと、商店街の組合の会長が心配そうに立っていた。

「おはよう、ございます。今朝はずいぶん早いですね」
「あぁ、旦那さんが帰って来ているのかい?……まだ会ったこともないし俺が一番先に顔を見せてもらおうと思ってね。挨拶しようと荷車をのぞいたら……荷台に血がついていたから何かあったんじゃないかと……大丈夫かい?」

 私の父くらいの歳で、時々声をかけてくれる彼は食料品店の店主でもあって面倒見がいい。
 夜だったし、血液のことまで頭が回らなかったから困ってしまった。

「あぁ、大丈夫、です。え、と……今、……」

 口籠った私に、何を勘違いしたのか温かい眼差しでうんうん頷いて私の肩を叩く。

「あぁ!気が回らなくてすまないね。急いで帰ろうとして怪我でもしたのかな。久しぶりに帰ってきたなら、夫婦水入らずで過ごしたいよな。邪魔して悪かったね」
「あ、いえ、はい……近道をしようとして派手に転んだらしくて……」
「なるほど、じゃあ、今日はゆっくり休むといい。……みんなに休みだって伝え……、ああ、はじめまして!」

 私の肩越しに挨拶する。
 ぎくりとしてゆっくり振り返った。

「はじめまして、レーンです。……いつも、妻がお世話になってます。店のことは妻に任せっきりで、なかなか挨拶ができなくてすみませんでした……。昨日は早く妻に会いたくて、急いだらこんな怪我を負ってしまいまして……」

 そう言って昨日手当てした腕を前に出す。
 会長が痛ましそうな顔をしてレーンに頷いてから、自己紹介した後、

「こんなに若くてきれいな奥さんだったら、早く帰りたくなるでしょうな。……まぁ、できればこっちに長く残ってくれるほうが、彼女一人より我々も安心だけどね。商売が関わってくるとなかなか難しいかもしれないが……」

 そうですね、とにこやかにレーンが答える。
 なんとかこの場を冗談で済ませようと私は口を挟む。

「会長、あのね、彼は弟なんです!だから」

 私の手をレーンがきゅっと握って引き寄せた。

「実は……血は繋がっていないのですが、親同士の再婚でずっと一緒に暮らしていました。……嫌な噂を立てられたこともあって、人目につかないようにしているんです」
「なるほどねぇ、古い人間はそういうの気にするかもなぁ。噂になると商売柄困るか。それで顔を出さなかったんだな。変に隠すより言ったほうがこの街じゃ暮らしやすいよ。……よし、俺からみんなに話しておくよ!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」

 あれ?
 ちょっと待って?
 なんでこうなった?
 なにこの馬鹿馬鹿しい夫婦ごっこ!

「じゃあ、お大事に。邪魔して悪かったね。奥さんにいたわってもらって。……来週の頭に寄るから変わった商品があったら、他に出す前に取って置いて!」
「……はい、お待ちしてます」








 
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