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1-① ×××のステータス画面が現れた![改稿版]
しおりを挟むゲームのやりすぎで頭がおかしくなったらしい。
目の前にステータス画面。
何度か瞬きしたけど、消えてなくならない。
「おい、聞いているのか? 桜木、このままじゃ進級できないぞ」
今は、目の前の先生のステータス画面のほうが、気になるんだ。
いや、ほら。
ゲームのステータス画面ってさ、ジャンルによって全然違うとは思うけど。
職業とか称号とか、HPやMP、レベルやランク、場合によっては好感度に親密度とか、アイテムボックスとか。
だけど、コレ。
藤山 ちんこ
『サイズ Fujisaanの如し』
『硬度 計測不明』
『角度 計測不明』
『持続時間 未知数』
『勃起不全 処方箋 心から愛する人ができる』
藤山ちんこ、って名前みたいになってるんだが?
Fujisaanの如しって、そこは藤山に合わせてFujiya-maじゃないのかよ⁉︎
こんな個人情報知りたくなかった。
なんだ、これ?
先生の声が全く耳に入ってこない。
「はぁ……しかたねぇな。補習してやるから、来週は放課後残れ」
整った顔立ちなのに、最近目立つ目の下の隈。
二十八だった気がするけど、後ろ姿は学生と変わらないくらい細身で小柄。
以前より痩せて見えるのは勃起不全のせいとか?
そんなこと訊けないけど。
「あ、はい」
「わかってんのか? 留年したくないだろ、ちゃんと俺んとこ来いよ」
「はい⁉︎」
留年?
慌てる俺を見上げて、頭をぽんと叩いた。
「お前、元は悪くないんだ。もう、ちょっとやってみろ」
職員室を出て教室へとカバンを取りに戻ると、クラスで一番仲のいい梅野が待っていた。
「……おせーよ」
「わりぃ…………!」
梅野 ちんこ
『サイズ 日本人の平均 膨張時不穏』
『硬度 人参』
『角度 直立不動』
『持続時間 T-faallのポット』
『ダメだとわかっていても、床オナがやめられない』
いや、だから。
なんだこれ、人参が腹にくっついてるところが浮かんで困る。
友達のシモ情報も知りたくなかったけど、色々気になりすぎる。
だけどいきなり突っ込めるわけがない。
「……あのさ、ごめんな?」
俺ちょっとお前のこと、見る目変わったわ。
梅野が無邪気に笑って言った。
「いーよ。ポテトおごりなー?」
「あー……しかたねーな」
それにしても、これ夢か?
「なー、今日何年何月何日?」
「は? 寝ぼけてんの?」
梅野が言った日づけは間違いなく俺の思っている通りで。
「なんか、俺疲れてるのかな……」
ファーストフードのカウンター越しに立つ可愛いバイトのステータスは見えなかったけど、やってきた店長のは正面に立った時に一瞬浮かんで消えた。
硬度、こんにゃくっていうのはきっと見間違いだろう……。
「昨日さぁ、何時までゲームしてた?」
「んー、十二時前に終わったけど、Twiiitterにあげる動画を編集してたら結構かかっちゃったんだよな」
「あれな」
呆れた顔して俺を見るけど、お前だって起きてただろうが。
でも梅野は意外とコツコツ勉強するタイプだから、俺が留年かもって話をしたから心配そうな顔をしてる。
ため息をついてコーラを飲んだ。
留年も問題だけど、このステータス画面も何とかならないかな。
消えろ、消えてしまえ。
……念じたらあっさり消えるのか。
ステータスオープン! とか念じたら出てくるのか……あぁ、さっそく出た。
念じればまた出てくるのか。
「ちょっと、トイレ」
もしかして、鏡に俺のステータスも映る?
ものすごく怖いけど、興味はある。
運良く誰もいなくて、鏡の正面に立つ。
「まじか……」
鏡に映し出された俺の情報。
桜木 ちんこ
『サイズ 南米にある赤道が通る共和制国家の平均』
『硬度 波』
『角度 木になるバナナ』
『持続時間 コーヒーの抽出時間』
ちょっと待て。
これは世界遺産に登録されている珍しい動植物がいるゾヴガメの島のことか?
しかし、それが大きいのか小さいのか、それさえもわからない。
それに波って、なんだ?
並じゃなくて、波なのか。
バナナはよくわからない。
コーヒーの抽出時間はおよそカップ麺くらい、か……?
「悔しいが合っているかもしれない……」
じゃあ、先生も、梅野も……本当なのか……?
デリケートすぎて突っ込めない話題だけどな。
ちんこステータスは見ないようにしよう。
「桜木、とりあえずな。今目の前でこれをやれ」
現れたステータスはすぐに消して、藤山先生に渡されたプリントを受け取った。
あの日以来いつでもどこでもすぐ飛び出すステータス画面。
すぐ消すようにしているけど、父親の様子とかマジで知りたくなかった。
だって『桜木ちんこ』表示だし。
バイアグゥラァ使用歴とかさ、相手が誰かも……考えたくない。
小三の弟は……まぁ、癒し系だ。
思わず小指をみつめた。
あれ見たら、たまにはゲームで負けてあげようと思った。
弟は多分これから急成長する、はずだ。
「桜木。わからなかったら、声かけろよ」
「はい」
渡されたのは中学レベルの英語だからだいたい問題なく解けて、ぼんやり藤山先生の顔を見た。
相変わらず、疲れた顔。
ちょっと申し訳ないなと思う。
確か、茶道部の顧問もやっていた気がするし授業の準備とか色々やることあるんだろうな。
「先生、終わりました」
「あ、そうか。どうだ?」
「これくらい、楽勝です」
「だよな。じゃあ、この辺りからわからなくなる?」
元々苦手な英語がこの学園に入ったら好きになるわけもなく。
確かに前回も、前々回のテストも散々だった。
テスト前でも英語は課題の答えを見ながら写していたくらいで、やる気も出ない。
他の教科は平均以上取れているけど。
「この辺、意味わからないです」
「……とりあえず、時間が限られてるからこれとこれを重点的に、だな。……今日はこんなもんか。とりあえず、んー、明日も来れる?」
「あー、はい」
「ここ、がんばり時だから。俺のクラスから留年は出したくないからなー」
先生が疲れた顔で笑う。
本当だったら俺に時間を割かないで早く休みたいところだと思う。
いい先生なんだよな。
担任が英語科で、藤山先生でよかった。
「わかりました、本気出します。……進級したら、なんかお祝いして下さい」
「いや、お前が俺をいたわる番だろーが」
「あー、そうですねー。一つくらい先生の言うこと聞いてもいいですよ」
「……ふぅん。約束だぞ? なんか考えとくから」
その時担任の目がギラついたことに気がつかなくて、俺はあっさり頷いた。
それからしばらく先生の解説を受けつつ、ひたすら問題を解く日々。
ついでに文法とか英語関連をまとめてみてもらい、底上げもしてもらった。
誰も寄りつかない資料室の片隅で邪魔されることもなく、短い時間だったけど集中することができたのがよかったと思う。
先生も忙しいだろうし、埃っぽいから長居できなかったというのもあるけど。
その結果、期末テストはそれなりの点でなんとか留年はまぬがれた。
勉強してなかった期間を考えれば、悪くないと思う。
「桜木、今日空いてるか? ほら、一つ言うこと聞いてくれるんだろ。人手が必要なんだ」
ある金曜、ホームルームの前に一人で歩いていた俺は先生に呼び止められた。
今日は特に予定もない。
友達と帰りに遊んでもいいと思っていたけど、奴らと約束してないし、いつもなんとなくそんな流れになるだけで。
よく遊ぶのは梅野以外に松野と竹田。
やっぱりバッチリみてしまったんだ。
松野 ちんこ
『サイズ 毎月十四日は恋人の日という近くの国の平均』
『硬度 トックッ』
『角度 南無三ソールタワー』
『持続時間 チヂミ一枚焼く時間』
『OTENGA大好き。集める勢い』
トックッは火を通す前か後かでだいぶ違うぞ?
タワーって、もう角度は関係あるのか、ないのか。
それより、なにより、OTENGA様⁉︎
竹田 ちんこ
『サイズ ワインとチーズの美食の国の平均』
『硬度 セミハードチーズ』
『角度 えっ?フェル塔』
『持続時間 カタツムリの歩み』
『LGBTQのGなのかBなのか悩み中』
いや、だからさ。
全部芸術の都がある国に寄せなくてもいいよ、ステータス画面!
最後に重大な悩みをさらけ出しちゃってるけど、俺は竹田とずっと友達だ。
色々言えなくてつらい。
視界に入るクラスメイトの分は、シャットアウトすることをおぼえた。
弱みを握りたい奴の分はあとでじっくり見てもいいと思ってるが。
「……聞いてるか?」
藤山先生に呼ばれて、意識を戻した。
「あー、はい。いいですよ。先生のおかげですから」
「そうか、じゃあついでに進級祝いでメシ奢ってやる……内緒にしとけよ」
「ヤッタ!」
何も考えずに頷いたのは自分が悪いけど。
あの資料室で、埃を被った資料や備品の整理をさせられることになるとは思わなかった。
「これ、今年のやつじゃない」
思わずつぶやいた俺に、先生が小声で言った。
「これなー、退職する栗林先生のもので、腰を痛めてずっと休職されてるから任されちゃったんだよな」
栗林先生は定年後にも講師として五年ほど働いていたそうで、最近見かけないとは思っていた。
資料室は長い間栗林先生の私物置き場兼息抜き部屋でもあったらしい。
だから、ここでのんびり勉強教えてくれたのか。
「……藤山先生、お人好しですよね」
相変わらず疲れた顔してるくせに。
早く休めばいいのに。
でもそこが先生のいいとこなんだよな。
「栗林先生は、俺が教育実習生としてここにやってきた時から世話になってるからな。これくらい……って言っても、桜木の手を借りてるわけだけど。……ありがとな。助かるよ」
「……藤山先生のおかげで俺も進級できるし、この後ご飯おごってもらうからいいですよ。早く終わらせて、肉食べたいです」
育ち盛りだもんなぁ、肉かぁ、どこ行くかなぁって呟きながら、先生はどんどんダンボールに資料を詰めていく。
「俺、量食べれればこだわりないんで。高い店連れて行けとか言いませんよ」
「……そう言われると、うまいもん食べさせたくなるなぁ」
「ごちになります!」
「お前なぁ……まぁ、いいや。早く終わらせるぞ」
ゴミとして出すものと、栗林先生に届けるものを分けた後、車に乗せてそのまま直接届けることになった。
「桜木、時間大丈夫か? 俺から親御さんに連絡しようか」
「あ、もう連絡済みです。ご飯も食べてくるって伝えてあるし、うちうるさくないんで」
「……そうか。わかった」
そのまま黙って先生が運転する。
二人きりでこんなに長くいるのに、意外と居心地がいいのは従兄弟の兄ちゃんといるみたいな気分だからかもしれない。
学園から車で一時間弱、セキュリティのしっかりしたマンションに着いた。
「あぁ、ここだ。ダンボール渡したら終わりだ」
「はい」
藤山先生がチャイムを鳴らすと、そう待たされることもなくくだけた姿の栗林先生が現れた。
栗林 ちんこ
『サイズ カスピ海の南東岸に臨む内陸国』
『硬度 とうふ』
『角度 土下座』
『持続時間 永遠に闇の中』
『尿の切れが悪い』
困惑。
まず国名がわからない。
とうふって、おじいちゃんだからか?
いや、メンタルかも?
角度は土下座って、全て闇に葬ったほうがいいかもしれない。
消えろ! ステータス!
俺は何も見ていない。
どんな顔をしていたらいいんだ。
「栗林先生、こんばんは。具合はいかがですか」
藤山先生が声をかける。
「あぁ、相変わらずだよ。今日は手間をかけさせてすまないな」
「いえ、いつもお世話になってますから」
栗林先生が気配を消していた俺に気づいた。
「おや、桜木君もわざわざありがとう。お茶でも飲んで行くかい?」
「いえ、彼を送っていかないと遅くなるので」
俺の代わりに先生が答えてほっとした。
「そうか、引き止めたら悪いな。本当にありがとう。……それじゃあ、気をつけて」
「はい、さようなら。ほら、桜木」
促されて俺も、ペコリと挨拶して背を向けた。
油断してた。
ちんこステータス、恐るべし。
「……じゃあ、飯にするか」
「はい」
車でぼんやりラジオを聴いているうちに、なぜか俺は静かな住宅街の日本家屋に連れてこられた。
暗くてよく見えないけど、庭が広そう。
「遠慮すんな。入れ」
門を開けて、背中を押される。
「俺の家だ。今は一人で暮らしているが、肉、食わせてやるよ」
上着を脱いで、エプロンを身につけ手慣れた様子で準備する。
リビングでテレビでも観てろと言われて落ち着かない気持ちのままリモコンを片手に握ったけど。
そわそわして、結局ダイニングに戻って来た。
「何か手伝いますか?」
「すぐできるから座って待ってろ」
無洗米は早炊き、キャベツはザクザク切って、しょうがをすりおろしタレを作る。
肉を豪快に焼いてタレをからめると食欲をそそるいい匂いがした。
男の料理って感じがする。
いつの間にかわかめと豆腐の味噌汁も用意しているし、料理はできたほうがいいと思った。
二割格好良く見える。
「先生いつでもお嫁に行けますね」
「むしろ嫁いなくても暮らせるからなぁ。さあ食べるぞー」
「いただきます。……うまいです」
ちょっと甘めの豚生姜焼き。
俺の皿には藤山先生の三倍の肉が盛られた。
嬉しいけど、多くないか?
いや食べれるけど。
「そうか。ちょうど貰い物のいい肉があってよかった」
「先生、いつも自炊、ですか?」
「そうだな。好きなものを好きなだけ食べれるしな。最近は疲れてビールと豆腐だけとかだったけど、食べる相手がいると作るのは苦じゃないんだよなぁ」
あのステータス画面から察するに、きっと彼女はいないんだろうな。
「俺、いつでもつき合いますよ。こんなうまいメシ食べれるなら」
「……じゃあ、時々つき合ってもらうかな」
内緒だぞって楽しそうに笑う。
ご飯をおかわりして食べた後、ソファに移動してたわいもない話をしているうちに眠気に襲われた。
今日は金曜だし放課後重労働だったし、さすがに疲れた。
それになんだか先生の声って落ち着いてるし、淡々としていて聞いてて心地いい。
「桜木、送っていくから寝るな」
「あ、はい……」
「まぁ泊まっていってもいいけどな」
「あ、はい……」
「じゃあ、自宅に電話しておくぞ。明日送っていくって」
「あ、はい……」
「さすがにそこで寝るな」
「…………ぁい」
クスッと笑われた気がするけど、眠気に勝てず意識が遠のいた俺にはよくわからなかった。
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