上 下
5 / 9

5 新生活

しおりを挟む



「これ、よければ使って。指輪、なくすと困るよね?」

 ジュストさんが私に革紐を渡してくれた。

「ありがとうございます! これでもう落とす心配しないですみますね」

 なんで気づかなかったんだろう。
 指輪にリボンを通して首からかければよかったんだ。

「そんな紐しかなくて悪いな」
「いえ、かっこいいです! 嬉しい、です。本当にありがとうございます」

 私の言葉にジュストさんがほっとしたように笑った。








「ここが物置ですか……?」

 部屋を片づけたら家賃はいいって言うから、相当散らかっていると思ったけど……。

「木箱がたくさんありますねー」
「……屋台で使ったものとか、使わなくなったものとか……まぁ、屋台関係のものを置いてある」
「端に積み重ねてしまえば、私はこのままで大丈夫そうです」

 窓もあるし、天井も高くて部屋もけっこう広い。
 木箱の大きさも同じものが多いし、表に出ているものもなくて全部木箱の中にしまわれている。

「ごめん……とりあえず今日はそうしよう」

 窓を開けてジュストさんが箱をどんどん壁に寄せて積み上げる。
 私が箱を持とうとすると、ほうきを渡された。

「こっちは大丈夫だ。掃除を頼む」
「はい!」

 壁一面に箱を積み重ね、ほこりを落として床をはき、モップをかけた。
 するとベッドと小さなテーブルが置けるくらいのスペースができて。

「二人で片づけたら早かったですね。スッキリしました」

 どこかでブランケットを買ってこないと!
 マット代わりに敷く分とかける分で。
 それなら今の手持ちのお金で足りそう。
 寒くなるまでに部屋を整えればいいかな。

 そんなことを考えていると、ジュストさんが同じ大きさの木箱を床に並べ始めた。

「ジュストさん?」

 せっかく片づけたのに。

「とりあえず、これをベッド代わりにして。……マットがあるから持ってくる」

 ジュストさんが軽々とマットを抱えて来て、その上にシーツを置いた。

「私、やります!」

 一緒にシーツの端を持ってピンと広げてかぶせれば、立派なベッドが仕上がった。
 満足のいくものが作れて、ジュストさんと笑い合う。

「……毛布はこれを使って。寒いならもう一枚」
「いえ! 大丈夫です! よかったです、買いに行こうと思っていたので。とっても助かりました」

 ジュストさんって気遣いも細やかで、口に出さずに行動する、すごく理想的な男の人で感動しちゃう。
 
「足りないものはないか? うちにあるものは何を使ってもいいよ」
「ありがとうございます! 今すぐは思い浮かびません」

 ジュストさんが、私の頭をポンと撫でた。

「じゃあ、その時言って。次はシャワー浴びて、一眠りかな。……パジャマある?」
「ない、です……なくても平気です!」

 いや、俺が平気じゃないって、ジュストさんが呟いた気がしたけど。

「パジャマ代わりになりそうなもの持ってくるから」
「何から何まで、ありがとうございます」
「リルは、たいしたことしてなくてもありがとうって言うんだな」

 そう言われて首を傾げる。

「感謝の言葉は、何度言っても減らないから出し惜しみするなって、お母さんがよく言ってました」
「そうか……」
「ジュストさんには、言い足りないくらいです。本当に本当に感謝してます」

 わかった、って言ってジュストさんが部屋を出た。
 私、うるさかったかな。
 でもすぐにパジャマかわりのシャツを持って来てくれて浴室に案内してくれた。

「使い方は大丈夫か?」
「はい、あの……あまり、ありがとうって言わないほうがいいですか?」
「言葉が足りなくて悪かった。……すみませんと言われるよりありがとうのほうが気持ちいいものだって思ったんだ。……そのままでいい。リルはそのままがいい」

 何だかちょっと恥ずかしい気持ちになって。

「ありがとう、ございます……ジュストさん」
「うん、じゃあ、声かけなくていいから昼までゆっくり過ごして。俺も部屋で一休みする」
「はい、ありがとうございます」

 






 お風呂に入った後、ジュストさんに声をかけなくていいと言われていたけど迷っていた。
 さっき掃除したから、もう一回ジュストさんもお風呂に入りたいんじゃないかって。

 でも、疲れて部屋で眠っているかもしれない……。
 私を乗せてずっと走っていたから、すごく疲れているはず。
 邪魔しちゃうのは悪いし……。

 ジュストさんの部屋の前に立ったものの、ノックしていいものか悩んだ。
 部屋に戻ろうか、どうしようか廊下をウロウロする。 

 そしたらすっと扉が開いて。

「……リル? どうした?」

 足音立てたのかな、私。
 見上げると、ジュストさんがすうっと息を吸って、それから一歩後ろに下がった。

 私、邪魔しちゃったのかもしれない。
 だってなんだか困ったような、ちょっと怖い顔をしているから。

「あの……、お風呂ありがとうございました。ジュストさんも入るかなって……。邪魔してごめんなさい」
「そっか、ありがとう。謝ることは何もないよ。……じゃあ、冷たいシャワーでも浴びてこようかな。リル、早く部屋に戻っておやすみ」
「はい! おやすみなさい」

 ジャグリオン獣人さんは、水浴びするんだなぁ、なんて思って。
 足早に通り過ぎるジュストさんの後ろ姿を見送った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

【R18】ヤンデレに囚われたお姫様

京佳
恋愛
攫われたヒロインが何処かおかしいイケメンのヤンデレにめちゃくちゃ可愛がられます。狂おしい程の彼の愛をヒロインはその身体に刻みつけられるのです。 一方的な愛あり 甘ラブ ゆるゆる設定 ※手直し修整しました

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる

梗子
恋愛
森の入り口の村に住むクレアは、子どもたちに読み書きを教えて暮らしているごく普通の村娘 そんなクレアは誰にも言えない秘密を抱えていた それは狼男の恋人のロイドがいるということー ある日、村の若者との縁談を勧められるが、そのことがロイドに知られてしまう。 嫉妬に狂ったロイドはクレアを押し倒して… ※★にR18シーンがあります ※若干無理矢理描写があります

〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。 そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。 +性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

獣人彼氏とまどろむ朝にらぶえっち

山吹花月
恋愛
猫獣人の彼といちゃ甘寝起き朝えっち。 ふさふさ猫耳、尻尾、喉ごろごろ。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

処理中です...