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3 僕は目立たない王子 ※

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 国王の第二妃の息子として生まれた僕は、王位継承権五位だが、ほぼ意味をなさない。
 このまま優秀な正妃が産んだ第一王子が継承するだろうし、僕は学ぶことが好きだからこの国の研究機関に勤めることを希望している。
 それが認められそうなくらい平和な国だ。
 
 剣術や体術の授業が苦手で、時折森の中へ逃げこんだ。
 そこで出会ったのが、魔女の末裔のソフィア。僕と同じ十五歳。
 時々顔を合わせることが増えて、僕達が秘密の恋人になったのが十八歳になった時。

 それはとてもくすぐったくて、幸せな気持ちで、その時だけは身分も何もかも忘れて僕自身になれる。
 ソフィアのことが大好きだった。

 真っ直ぐに伸びた黒髪に漆黒の瞳で、とても高い魔力を持っていた。
 みんなには内緒よと、どこからか水を出してみたり、焚き木に火をつけたりする。
 魔女は薬師だと思っている国の中で、魔法が使えると知っているのは王族とあなただけよ、と教えてくれた。

 彼女は魔力が多く、邪なことを考える輩から祖母の大魔女がこの森で匿っているのだとすでに教育係から習っていた。
 王も兄達もみな明るい金髪だと言うのに、栗色の髪を持つ僕は、目立たない。
 あぁ、そんな王子がいたな、と言われるくらいに地味なのは自覚している。
 彼女が僕を知らないことを利用して、商家の息子だと嘘をついた。
 そのことにほんの少し胸が痛んだ。
 
「デヴィン、大好きよ」
「僕もソフィアが大好きだ」

 森の中で、僕達は抱き合って口づけた。
 唇を合わせるだけでは物足りなくて、彼女の口内に舌を差し込む。

「んっ、デヴィン……」

 彼女が僕にしがみついて、柔らかな肢体に欲が湧き上がった。
 この先へと進んではいけないことだと、わかっていたけれど。

 ソフィアの潤んだ瞳も、甘い吐息を漏らす唇も魅力的過ぎてこの時、どうしても止まることができなかった。
 外套を脱いで広げ、そこに彼女を横たわらせる。
 
「絶対に、僕の妻にする。だから……」
「……はい。私も、デヴィンに夫になってほしい」
「うん、約束する。愛しているよ」
「私も愛してる」

 森の奥深く、護衛も持たず、他の誰とも会ったことのない開けた場所で。
 彼女は素肌を晒すのを恥ずかしがったけれど、僕に身を委ねてくれた。
 本当は僕の部屋の柔らかな寝台で愛し合えたらよかったのに。
 僕達は恋に溺れていて、熱に浮かれていた。
 異性からの愛と温もりにも飢えていたのかもしれない。

 お互いの身体に触れて、口づけして、愛を囁く。
 柔らかな胸の頂を口に含み、もう片方はそっと手で包んだ。
 触れるか触れないかわからないくらいの方が、彼女が反応する。

 女性の身体は初めてで、触れないとわからない。
 興味深く、指で触れると彼女の身体がぴくんと震えた。
 お互いが汗ばむくらい触れ合って、ようやく。

「ソフィア、そろそろいい?」
「うん」

 震える彼女を抱きしめると、ほっとしたようにすがりついてくるから、愛おしく思って何度か唇を啄んだ。
 
 湿った音が静かな森の中で響いた。

「んっ、あっ……」

 早く彼女を自分のものにしてしまいたい。
 そうしなければ、と彼女の足のつけ根に自身を押し当て、腰を前に進める。

「……っ!」
「ぁあ……っ」

 彼女がか細い声を上げ、震えた。わずかに腰を引いて、僕は一息に貫いた。
 温かくきつい締めつけに射精感が高まるけれど、彼女の瞳から涙が溢れて、ほんの少し僕の理性が戻る。
 心臓が早鐘を打ち、苦しい。

「ソフィア」
「デヴィン、痛い」
「ごめん」

 彼女の涙を拭い、口づけを落とす。

「いいよ……愛してる」
「うん、僕も愛してる。……ここ、触るとどう?」
「ん、いい……」

 身体を起こしてお互いの繋がる間に触れながらぎこちなく腰を動かすと、彼女の吐息に控えめな声が混じった。

「これが、いいの?」
「んっ……っ、あっ……!」

 突如、彼女が声を上げ、僕自身をきつく締めるから、慌てて引き抜いて精を吐き出した。
 荒い息のまま彼女を抱きしめる。

「早く結婚したい」

 僕は心からそう思って彼女に口づけた。
 彼女を迎え入れるためならなんでもする。
 

 
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