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番外編

新婚旅行 3(終) 島国へ

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 二日ほどの船旅で着いた先は、マールという国で、人間と獣人が仲良く共生しているところらしい。
 船の中に猫耳カチューシャをつけてる子どもがいて可愛いなぁと言った私に、フランシスがそっと教えてくれた。

 港町でも、見た目は人間と変わらない人たちばかりで違和感はない。
 日本人みたいな見た目の人はいないけど、屋台の職人さんが黒髪だったし、黒髪や黒目の人は時々見かけた。

 街で人気の宿に決めて、私たちはのんびりと散策することにした。

「フランシス、このお店見てみたい」

 この国も女の人はワンピースを着ているけれど、そのお店に飾られている服がなぜだか馴染みがあるデザインな気がする。
 二人で中に入ると、黒髪の女性がにっこり笑った。

 表に飾られたワンピースをみせてもらい、値段も手頃だし試着したらものすごく着心地がいい。

「ユミ、似合うよ。かわいい。これ着て帰る?」
「いいの?……嬉しい。ありがとう!」

 私たちのやりとりを聞いていた女性に話しかけられた。

「お客様は遠くからいらしたのですか?……身内と同じ民族のようにお見受けしたもので……」
「……あの、どのあたりが似ているのでしょう?」
「……髪と眼の色と顔の作りに肌の色。……少し小柄なところもでしょうか……あと名前も似ていたもので、つい。……不躾に失礼しました」
「いえ、むしろ、もっと知りたくなりました。もしこんなところで同郷の方に会えるなら、会ってみたいです」

 もしも私やあみちゃんみたいにこの世界に来てしまった人がいるなら会いたいけれど、ただ似ているだけということもあるから。

「私、ララと申します。普段は工房にいるのですが、こういうのもご縁ですよね……えぇと、……ニホンから来た、ユミさん、と伝えます。お互いの都合が合うといいですね……では、また連絡します」

 しばらく滞在する宿の名を伝えた。
 翌日に観光をして戻るとさっそくララさんから伝言が残されていて、その人の住まいに二日後に案内してもらえることになった。

「ユミと同じところから来た人なのかな?」
「わからないけど、フランシスにもつき合わせちゃってごめんね?」
「俺はユミとこうしていられるだけで幸せだから気にしなくていいよ。この旅はのんびりいろんな国を見てユミと思い出をたくさん作りたい。梅は探すけど」

 そんなふうに言われて私も同じだって思ってぎゅっと抱きついた。

「フランシス、大好き。ありがとう……私もだよ」

 







 川のほとりに立つ暖かみのある家に、私たちは招待された。

 優しそうな旦那様と三人の子どもたちに囲まれた二十代半ばの女の人は私を見るなり懐かしそうな顔をした。

「……はじめまして……日本人よね?……久しぶりに日本語話すな……私はマミです。遠いところからようこそ。……それと、主人や家族たちは日本がこの世界にあると思っているから、内緒にしてね」
「はじめまして……ゆみです。日本の方とお会いできて嬉しいです。……その件はわかりました」

 周りの人たちは、日本語で話す私たちのことを暖かく見守ってくれていて、慌ててフランシスを見た。

 にっこり笑って私の腰を引き寄せ、お互いに自己紹介をする。
 私の耳には日本語同様に聞こえるけど、フランシスがマミさんたちと話す時、ほんの少し子どもっぽい話し方に聞こえるから言語が違うんだなぁとあらためて思う。
 そんな彼に、そっと口止めをお願いした。

 ララさんは一杯だけお茶を飲んだ後、妹の赤ちゃんの手伝いをするからって帰って行き、旦那さんが子どもたちを一手に引き受けて庭へ出た。
 フランシスも後学のためにって呟いて、わたしの頭にキスを落とした後、二人きりにしてくれた。

「……マミさんは、こちらの言葉が話せるのですか?」
「……今はね。最初は言葉が通じなくて大変だったけど、もう十年以上前にここに来たから……。こっちに来て良かったと思ってる。ゆみちゃんは?」
「私はなぜかどの国の言葉も聞き取れるんです。こちらの世界の魔術師の影響かもしれないそうですが……実は今、新婚旅行中で……私もこっちに来て良かったと思ってます」

 穏やかなマミさんとそんなふうにおしゃべりして、せっかくだから梅の木はないかと尋ねた。

「……あるよ。梅ジャムかピクルスくらいにしかしないけど」
「杏じゃなくて、生で食べれないあの、梅ですか?」
「うん、そう。ゆみちゃんの住むところにはないの?」

 梅ジャムの味見をさせてもらったら、本物の梅だった。

「ないんです!だから、梅干しが作れなくて……杏で作ってるんですけど」
「梅干し!懐かしい……」
「よければこれ、どうぞ。杏ですけど….」

 今回の旅のために干し梅にして持ってきていたから、おすそ分けした。
 マミさんも喜んでくれて、さっそく案内してくれるという。

「シロくん、梅の木のところまで行ってくるから、しばらく子どもたちをみててね。すぐもどるから」
「木に登っちゃダメだよ?」
「もうしないからっ、大丈夫」

 マミさんが旦那様の頬にキスすると、子どもたちが真似して旦那様にちゅっと可愛らしくキスするという平和な一コマを横目に、私はフランシスにそっと近づいた。
 彼は眠る赤ちゃんを抱っこして座っていて、少し先の未来をみているみたいで幸せな気持ちになる。
 多分彼も同じように思っているのかも。

「梅の木があるんだって。みせてもらってくるね」
「梅が?……こんなにあっさり見つかると思わなかったよ。よかったね」








 歩いて十分もしない場所に梅の木が群生している。

「確か、梅の種から育つのを待つか、冬に枝を切って土に埋めるみたい……冬になったら枝を送るよ?」
「いえ、あの……まだしばらく旅をするので、冬にお邪魔してもいいですか?」

 マミさんはにっこり笑ってもちろんと答えてくれた。
 ただ、雪の降る前のほうがいいと言うのでちょっと旅行期間が短くなるからフランシスと相談が必要かも。

「私、マミさんに会えて本当によかったです。しかも梅まで見つかって……。私の姉が村に残っているんです。……時々手紙を送ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。こちらこそ会えて、本当に嬉しい。……私からも手紙、書くね。その前に梅の枝を取りに寄ってね」
「はい!……マミさん、家族のところへ戻りましょう」
 
 まだ旅は始まったばかりだけど、素敵な出会いがあったことと、さっそく梅が見つかったことをあみちゃんに伝えたい!
 
「時々お姉さんに旅の様子を手紙で知らせたら、喜ぶと思う」

 マミさんの言葉に私は大きく頷いた。

 







      《新婚旅行 編》  終







 * * * * *

 お読みいただきありがとうございます。
 だいぶご都合主義ですが、『甘く優しい世界で~』のルルの結婚後一年後くらいの時期かなぁと思います。



 

 






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