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番外編
新婚旅行 街へ
しおりを挟む「時間のあるうちに、梅の木を探してくれない?」
あみちゃんが、寒い冬がくる前に新婚さんなんだからついでに旅行してきたらって言う。
「冬になると葉も落ちて梅の木も探しづらいだろうし。……フランシス、お願いできるかしら?」
「アミさんは、俺たちがいない間大丈夫?」
「次の梅の時期までに戻ってきてくれれば大丈夫よ。こっちは冬も短いしのんびりしてるから」
みつからなくても、木の実とか野菜の種とか変わったものを見つけたら持ち帰って来てだなんて、私たちにプレッシャーがかからないように言う。
だから、なんとか見つけて苗を持ち帰りたいと思うけど、梅の花が咲いてないと見つけづらいなぁと思う。
アパートのすみに梅の木はあったから多分みればわかると思うけど、アブリコの木と似てるから。
「フランシス、ゆみ、楽しんできて。私だってこの村にたどり着くまで半年近く旅して来たんだもの……こっちは大丈夫よ、困ったらみんなが助けてくれるから」
それから、地図を広げてあみちゃんが行ったことのない土地を調べた。
フランシスが学校に通っていたという大きな街から、船でそう遠くないところにある島国へ行けるらしい。
島国が日本みたいな気候だったら、梅とか日本の野菜に近い種とか手に入るかもしれないと思うとわくわくする。
あみちゃんが言うにはどの国の言葉も聞き取れて話せたからなんとかなるだろうって。
フランシスは幼い頃に行って以来だけど、だいたいわかるって言ってた。
標準語と方言くらいの差なのかな。
それから私たちは一週間もしないうちに街の宿に一泊して出航を待つことになった。
十三歳から三年ほど下宿していたという家の前を通り、屋台でいろいろなものを買って近くの公園へと向かう。
「この辺りにはよく息抜きにやって来たんだ。静かだし、のんびり」
「フランシス‼︎」
私は声のしたほうへ身を乗り出そうとして、彼の背中に隠されるように腕を回された。
驚いて見上げると見たことのない顔をしている。
表情がないの。
「久しぶりね!フランシス!会えて嬉しいわ。ねえ、これから一緒に……妹さん?」
フランシスの陰にいた私は、ようやく声の主の姿を見た。
ものすごく華やかで色っぽいお姉さんがじろじろと私を見る。
全く似ていないのに、どういうつもりだろうと思う。
「妹さんも一緒に食事はどう?しばらくこの街にいるの?この街に住むならいいところ紹介するから」
高い声で矢継ぎ早に話すからに耳が痛くなってきた。
「……ここには一泊するだけだから、かまわないで」
ため息まじりにそっけなく言うフランシスに驚く。
いつもにこにこしてるのに。
「相変わらずね。……そんなところも……」
「じゃあ、お元気で」
「え⁉︎ ちょっと!」
足早にその場を離れることになって、抱えられるように小走りに進む。
公園の奥まった、人気のないところまで来てようやくフランシスが立ち止まった。
「ユミ、ごめんね?……彼女は元クラスメイトだけど……少し、うるさくて」
「……フランシスは優しいし、かっこいいからモテたんだね」
ぽろりと思ったことが口をついた。
そしたら、フランシスが慌てて私を抱きしめる。
「……優しくしたいのはユミだけ」
「…………そう、なの?……ありがと……」
村には同じくらいの歳の女の子がいなかったから意識したことなかったけど、フランシスはみんなに優しいと思っていた。
「あの子にいやなことされたの?」
「……そうでもないかな。街の女の子は苦手で関わらなかったから」
「あの子も同い年なの?……私が子どもに見えるわけだよね」
ちょっと落ち込む。
フランシスと出会った時、頭を撫でられたくらいだし。
「ユミはかわいい。大好き。……この街の子たちに惹かれたことはないよ」
そう言って私に口づける。
「ね……?せっかくここに来たし、美味しく食べよう?」
「うん。……フランシス大好き」
気にしてもしょうがないし、二人きりのこの時間が大事だから。
ベンチもあったけど、芝生の上にフランシスが直に座った。
「おいで?」
腕を広げるからためらわず彼の膝に横座りした。
「……私、フランシスが好きすぎると思う。人に見られたら恥ずかしいけど、フランシスとくっつくの、大好きだし、いつもそばにいたい」
そう言いながら、彼の胸に額を押しつけた。
「……ユミ……色々案内しようと思っていたけど……ご飯食べたら、宿に戻る?」
「……フランシスは、戻りたいの?」
「葛藤してる。この街を案内したい。でも、早く二人きりになりたい、とも思う」
「じゃあ、宿に戻りながら一ヶ所だけ案内して?……そしたら、ゆっくりできるでしょ?」
「うん、そうだね」
膝の上に座ったまま、お互いに食べさせ合う。
お肉の串焼きは香ばしくて、夢中になって食べていたらフランシスに口の端を舐められた。
赤くなる私ににっこり笑う。
「ソースがついてたから」
「…………言ってくれたら自分でとるのに……」
「それじゃ、楽しくないよ」
白身魚とポテトのフライもじゃばじゃばと酢をかけていたのがびっくりしたけど、さっぱりしておいしい。
それでも食べ切れないからフランシスの口にポテトを放り込む。
時々私の指まで食べて、いたずらっぽい顔をして笑う。
今日はフランシスのいろんな表情がみれて、なんだか幸せ。
それから、紅茶風味のもっちりしたパンのようなケーキのようなもの。
フランシスのおばあちゃんが作ってくれていた懐かしい味に似ているらしい。
田舎のほうでは出がらしの紅茶で作るって聞いたから、今度試しに作ってみようと思う。
「……全部おいしい。フランシスと一緒だから何倍もおいしくなるよね」
「……ユミ、俺早く戻りたくなってきた」
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