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 梅干しと呼んでいるし、梅と似ているけど粒が大きくて何か違う実みたい。 
 じっと見つめて考えていると、隣に立ったフランシスが同じように眺める。

「これは杏?」
「アンズ? この辺ではアブリコって言うかな。夕焼けみたいな色で、甘酸っぱいから生でも食べるよ。ユミの育ったところではそう言うの?」
「うん」

 梅は生じゃ食べないから、やっぱり杏みたい。
 オレンジ色とか橙色と言うんじゃなくて、夕焼けみたいな色という彼の表現は独特だけど面白いと思う。
 それともオレンジもダイダイもないのかも。

「おもしろいね、もっと教えてくれる?」

 何が知りたいのかと思って彼を見上げる。
 私も彼に色々聞いてみたい。

「ユミはまだ来たばかりでこの村のこと知らないでしょ? これから店に戻ったらしばらく時間があくから案内しようか?」
「えーと……」

 さすがに今日会ったばかりの人と出かけることに抵抗がある。
 
「あら、いいわね。私じゃ案内しきれないし、店で何着か見繕っておいで。……この子、この村の気候に合うものを何にも持ってないの、靴から何から必要なもの見立ててくれる?」

 あみちゃんがそう言って私の背中を押す。

「わかった。もっと可愛くして戻ってくるよ。まかせて、アミさん」

 確かに、もともと着ていた服では浮いてしまうから、あみちゃんの服を着ているけれど……これだっておかしいとは思わない。

「じゃあ、行こうか」

 戸惑いながら外に出ると、鹿毛の馬が私をじっと見つめる。
 フランシスが荷台に品物を置き、私に声をかけた。

「隣に座って」

 御者台と言われる席に隣り合って座った。
 あみちゃんの家は森に近く、村の端に建っていて一番近くの家まで歩いたら十五分くらいかかるみたい。
 街の真ん中まで歩いたら一時間弱というところ。
 
 フランシスが誰の家だとか、ここで卵が買えるだとか説明してくれて、だんだんとこれからこの世界で住むことに現実味が帯びてきた。

「小さな村だけど、たいていのものは揃うから不便はないと思う……それでも困ったら俺に声をかけてね」

 お互いに前を向いているからか話しやすいし、彼とはそのままの自分でいられるみたい。

「うん、ありがとう」

 思わず自然と笑みが浮かぶ。

「あ、やっと笑った。……そんなに不安そうにしなくても、この村は怖いところじゃないよ」

 横を向くと、彼が私を見つめていてどきっとする。

「前、見て」
「うん、みてる。それにギャリーがしっかりしてるから少しくらい大丈夫」

 ギャリーって、この馬のことかな。

「……この村の人はみんな、あなたみたいにじっと見るの?」

 もしそうだとしたら落ち着かないかも。

「そんなことないけど……俺がユミのことを知りたいからみてるだけで」

 他の文化圏から来てるから好奇心が強いのかな。
 そう思ったら納得した。

「そう、なんだ」
「…………もうすぐ雑貨店うちだから荷下ろし手伝ってくれる?」
「うん、わかった」

 一人でお店に入るのは不安だったからほっとする。
 彼は店の脇に馬をつなぎ、荷台から私に小さくて軽い包みを渡す。
 フランシスはおばあちゃんの瓶詰めの入った箱ともう一箱を持って店の前に荷物を下ろす。

「それ、この上に乗せておいて」

 私に持たせた包みを指差して言うから、箱の上にそっと載せた。
 それから荷台に戻って商品を預かる。
 フランシスが残りの箱を持って店に入った。

「ただいま。仕分けお願いしてもいい?」

 店番をしていた女性が顔を上げる。

「ありがとう、こっちで分けるわね。……あら? いらっしゃいませ」

 目が合って、私ははじめましてと小声で言った。

「この子、アミさんの孫でユミ。これから一緒に住んで仕事も手伝うんだって」

 何を言われるのかと身構えてしまう私に、女性がにこにこ笑いかける。

「まぁまぁ! それはアミさんも喜んだでしょうね! 私たちも嬉しいわ……。旦那さんが亡くなってまだそれほど経っていないから……ユミちゃん、困ることがあったら、遠慮しないで声かけるのよ?」
「はい……ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 フランシスに肩をポンポン叩かれて、力が入っていたことに気づいた。

「あ、俺の母さんね。母さん、ユミの服選びたいから奥使っていい?」
「あら……そうね、それアミさんの服だものね。かわいいエプロンドレスが入ってきたのよ、大きなリボンがついていてね。一枚くらいあってもいいと……」
「母さん、ユミは俺と同い年なんだ」

 目を丸くするフランシスのお母さんが、ごめん、ごめんと笑って奥の個室へと案内してくれた。

「フランシス、悪さしちゃだめよ?」

 彼のお母さんはそう言って息子をからかって店先へと戻った。
 私相手に悪さなんて考えられない。

「……母さんがごめん。俺が女の子の服を選ぶのなんて初めてだから」
「そうなの?」
「うん。……ユミの服は一緒に選びたいって思って……」

 意外にも彼が顔を赤くする。
 照れた顔が年相応にみえて、くすっと笑った。

「この服、そんなにおかしい?」
「ユミは何を着てもかわいいと思うけど……これはアミさんのほうが似合うと思う」

 アミちゃんの服はオリーブ系の茶色だから渋すぎるのかな。
 フランシスが何着か選んで持ってきた明るい服を見て思った。
 彼のお母さんもワンピースだったし、この村の女性の普段着はワンピースらしい。

「あまり汚れが目立たない服がいいな」
「エプロンも買うといいよ。まず着替えたら声かけて」

 フランシスが出て行った後、梅仕事をしても汚れが目立ちにくいだろうと思って紅梅色……ほんの少し紫の混じった落ち着いたピンクのワンピースを身につけて声をかけた。 
 悪くないと思う。
 日本では着たことない色だけど。

「うん、かわいい。エプロンはこれとか」

 そんな調子で三着のワンピースと二枚のエプロンと靴を選んだ。

「さっそく着替えて。村を案内するから」



 

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