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28 召喚先で待っていたのはマシュマロのような王子様でした
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* 髪のないヒーローは別の小話集で書きましたが、このタイプのヒーローは初めて書きました。
******
「……聖女様! ようこそ我が国へ」
仕事帰りにコンビニで新作スイーツを端から買って、お店を出たら異世界にいた。
「…………」
「さすが聖女様、落ち着いていらっしゃる。女神様が選ばれた方だけあって立ち姿もお美しい! ささ、こちらへ……バターナッッツ殿下の元へ案内いたします」
落ち着いているわけじゃない、状況判断しているだけだ!
なんだろ、ここ。
中世というより近世よりなヨーロッパの教会っぽい。
彫りの深い顔立ちの人々に囲まれているけど言葉は通じていて、テレビで観るような現代のヨーロッパとも違うみたい。
最近読んだ異世界ファンタジー(BL)の雰囲気ではあるけど……。
これって、さっき頭の中での妄想劇場が本当になったのかな?
『異世界行って王子様と結婚したいわー。仕事辞めて、家事もお任せで、子どもは……とりあえず2人、かなぁ? できれば王位継承権の低い王子様と田舎領主夫妻としてのんびり暮らしたいわぁ』
『すてき♡ 叶えてあげる♡ こっちの世界のことは任せて♡』
イマジナリーフレンドの声かと思ったんだけどな。
「バターナッッツ殿下は懐が深く、知識欲旺盛で人当たりのいいおおらかなお方なのです。中々釣り合う女性が見つからなかったのは、聖女様が異世界にいたからなのですね」
『ッ』多くない?
ペラペラと説明してくれるのは神官長さん。
王位継承権は7位と低いものの、魔力が多く国全体に防壁をはって守っているそう。
なんかすごい。
だからこそ、聖女の伴侶が欲しかったらしいんだけど、特異な見た目でこの世界の聖女はひとめ殿下を見たら卒倒してしまうのだとか。
「特異な見た目……?」
「個性です、同じ人間です」
魔力が強いせいです、って神官長は言うけどそれって見た目がかなりブ……変わっているってことかも。
男は顔じゃないと思っているけど、生理的に受け付けないタイプだったらどうしよう。
もう帰れないって聞いてるし。
「聖女様、なにとぞバターナッッツ殿下をよろしくお願い申し上げます!」
私は背中を押されて部屋の中へ勢いよく踏み込んだ。
「……あっ!」
ぽよん。
大きな体の王子様は押されて転びそうになった私を大きなお腹で受け止めてくれた。
「大丈夫?」
マシュマロボディだ。
男性には言わないかもしれないけど、マシュマロみたいにふわふわしてる。
ぷるんと優しく受け止めてくれて、なんだかとっても癒される。
なんだろ、これ……?
「…………」
「聖女様? 私はバターナッッツ。ナッツと呼んでほしい。突然この世界に召喚してすまなかった。こちらに応じてくれてありがとう。女神様が一番相性のいい相手だと選んでくださったが……私のような者と結婚はすぐ考えられないだろうから、まず友だちになってほしい。どうかな?」
抱きついたままの私は肩を叩かれてハッとした。
もちもちぷるんの王子様は困ったような顔で私を見ている。
顔も癒し系で可愛らしいし、特異とか思わない。
大きな体が嫌がられたのかな。この国では嫌われ要素なのかもしれない。私はマッチョよりふわふわマシュマロボディ派、今さっきから!
「私はスクナです。あの! ナッツ殿下も私でいいんですか? 庶民ですけど」
「もちろん! この23年、スクナさんをずっと待っていたのだと思う」
「4つ年下……」
じっと見たら肌が若いし、キラキラした目は小さい頃からお気に入りのビー玉みたいにきれい。
「年齢なんて私は気にしない。頼りなく見えるかもしれないけど、魔力は十分あるしスクナさんを大切にするし、苦労させない。私の見た目に一日も早く慣れてもらえたら、嬉しい……」
そう言うから思わず眉をひそめた。
「ごめん、図々しいことを言ったみたいだ。まずは友だちから……」
「いや、そうじゃなくて」
王子様なのに自己評価すごく低いみたい。
「ナッツ殿下は国にバリアはれるほどの魔力があるんでしょ? すごい、尊敬する。マシュマロボディも私は好き。それになんていうか……すごく特別感がある。そう、これは! 夢の国で特大の高級ぬいぐるみを手に入れたような特別感と幸福感があるの! あー、ふわふわであったかくて安心する」
両親に泣いてねだっても買ってもらえなかったけど、あれは今この幸福を味わうためだったかも!
思わずお腹に顔をうずめる。
ぽよん、ぽよん。
殿下が私の肩にそーっと手を回した。
控えめ!
「スクナさん、私暑苦しくない?」
「全然! 私暑い時に熱いもの食べるの好きだし! スクナでいいよ。私もナッツって呼ぶから」
「……はい。スクナに嫌われなくてよかった……」
「嫌うわけない、こんなッ」
マシュマロボディ、知らなかった!
「もう離せない! 一生そばにいるよ、ナッツ」
「……大切にします、スクナ」
ぎゅっと包み込まれるように抱きしめられた。
多分190センチはあるわ、身長が。
体重はわからないけど意外と機敏に動けるみたいだし、健康問題さえなければ……。
「短命とか嫌だよ⁉︎」
「……? あ、えーと魔力が有り余って今の状態なだけで、健康に問題はないんだ。それに、年に数回防壁の補強をすると、ガリガリに痩せてしまう。体型がコロコロ変わるから気持ち悪い、かもしれない」
過去にそう言われて傷ついてきたのかも。
体に魔力ためこめるってすごいことだし、もっと自分の力を誇っていいのに。
「そんなの気にしない! 協力する! 私、新作のスイーツ持っているんだ。一緒に食べよう」
よかった~、新作いっぱい買っておいて。
「スイーツ……?」
「甘いもの! お菓子、デザートだよ!」
ぱあぁっとナッツの顔が嬉しそうに明るくなる。
「甘いもの好き? よかった! 一緒に食べよう」
コンビニスイーツを気に入ったナッツが、菓子職人を集めて再現しようと目を輝かせた。趣味も好みも合うなんてサイコー!
私たちは即結婚して、本当に田舎の領地へ。
腕のいい菓子職人たちの試作品を端から食べるナッツは年中ふわふわぽよんのマシュマロボディで癒し系。
もちろんバランスの良い食事と運動もしているよ!
ナッツの魔力もより強力になって安定していて、国の先も明るい。
聖女の私が隣にいるからってみんなが言うけど何もしてない。
そう言うと彼は笑ってぽちゃっとした腕を広げた。
「スクナは私だけの聖女だよ」
ナッツの腕の中に飛び込んで、はぁっと息を吐いた。
この世界で新しい性癖に目覚めて、すてきな王子様と結婚できたなんて!
縁結びの女神様、ありがとうー!
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「……聖女様! ようこそ我が国へ」
仕事帰りにコンビニで新作スイーツを端から買って、お店を出たら異世界にいた。
「…………」
「さすが聖女様、落ち着いていらっしゃる。女神様が選ばれた方だけあって立ち姿もお美しい! ささ、こちらへ……バターナッッツ殿下の元へ案内いたします」
落ち着いているわけじゃない、状況判断しているだけだ!
なんだろ、ここ。
中世というより近世よりなヨーロッパの教会っぽい。
彫りの深い顔立ちの人々に囲まれているけど言葉は通じていて、テレビで観るような現代のヨーロッパとも違うみたい。
最近読んだ異世界ファンタジー(BL)の雰囲気ではあるけど……。
これって、さっき頭の中での妄想劇場が本当になったのかな?
『異世界行って王子様と結婚したいわー。仕事辞めて、家事もお任せで、子どもは……とりあえず2人、かなぁ? できれば王位継承権の低い王子様と田舎領主夫妻としてのんびり暮らしたいわぁ』
『すてき♡ 叶えてあげる♡ こっちの世界のことは任せて♡』
イマジナリーフレンドの声かと思ったんだけどな。
「バターナッッツ殿下は懐が深く、知識欲旺盛で人当たりのいいおおらかなお方なのです。中々釣り合う女性が見つからなかったのは、聖女様が異世界にいたからなのですね」
『ッ』多くない?
ペラペラと説明してくれるのは神官長さん。
王位継承権は7位と低いものの、魔力が多く国全体に防壁をはって守っているそう。
なんかすごい。
だからこそ、聖女の伴侶が欲しかったらしいんだけど、特異な見た目でこの世界の聖女はひとめ殿下を見たら卒倒してしまうのだとか。
「特異な見た目……?」
「個性です、同じ人間です」
魔力が強いせいです、って神官長は言うけどそれって見た目がかなりブ……変わっているってことかも。
男は顔じゃないと思っているけど、生理的に受け付けないタイプだったらどうしよう。
もう帰れないって聞いてるし。
「聖女様、なにとぞバターナッッツ殿下をよろしくお願い申し上げます!」
私は背中を押されて部屋の中へ勢いよく踏み込んだ。
「……あっ!」
ぽよん。
大きな体の王子様は押されて転びそうになった私を大きなお腹で受け止めてくれた。
「大丈夫?」
マシュマロボディだ。
男性には言わないかもしれないけど、マシュマロみたいにふわふわしてる。
ぷるんと優しく受け止めてくれて、なんだかとっても癒される。
なんだろ、これ……?
「…………」
「聖女様? 私はバターナッッツ。ナッツと呼んでほしい。突然この世界に召喚してすまなかった。こちらに応じてくれてありがとう。女神様が一番相性のいい相手だと選んでくださったが……私のような者と結婚はすぐ考えられないだろうから、まず友だちになってほしい。どうかな?」
抱きついたままの私は肩を叩かれてハッとした。
もちもちぷるんの王子様は困ったような顔で私を見ている。
顔も癒し系で可愛らしいし、特異とか思わない。
大きな体が嫌がられたのかな。この国では嫌われ要素なのかもしれない。私はマッチョよりふわふわマシュマロボディ派、今さっきから!
「私はスクナです。あの! ナッツ殿下も私でいいんですか? 庶民ですけど」
「もちろん! この23年、スクナさんをずっと待っていたのだと思う」
「4つ年下……」
じっと見たら肌が若いし、キラキラした目は小さい頃からお気に入りのビー玉みたいにきれい。
「年齢なんて私は気にしない。頼りなく見えるかもしれないけど、魔力は十分あるしスクナさんを大切にするし、苦労させない。私の見た目に一日も早く慣れてもらえたら、嬉しい……」
そう言うから思わず眉をひそめた。
「ごめん、図々しいことを言ったみたいだ。まずは友だちから……」
「いや、そうじゃなくて」
王子様なのに自己評価すごく低いみたい。
「ナッツ殿下は国にバリアはれるほどの魔力があるんでしょ? すごい、尊敬する。マシュマロボディも私は好き。それになんていうか……すごく特別感がある。そう、これは! 夢の国で特大の高級ぬいぐるみを手に入れたような特別感と幸福感があるの! あー、ふわふわであったかくて安心する」
両親に泣いてねだっても買ってもらえなかったけど、あれは今この幸福を味わうためだったかも!
思わずお腹に顔をうずめる。
ぽよん、ぽよん。
殿下が私の肩にそーっと手を回した。
控えめ!
「スクナさん、私暑苦しくない?」
「全然! 私暑い時に熱いもの食べるの好きだし! スクナでいいよ。私もナッツって呼ぶから」
「……はい。スクナに嫌われなくてよかった……」
「嫌うわけない、こんなッ」
マシュマロボディ、知らなかった!
「もう離せない! 一生そばにいるよ、ナッツ」
「……大切にします、スクナ」
ぎゅっと包み込まれるように抱きしめられた。
多分190センチはあるわ、身長が。
体重はわからないけど意外と機敏に動けるみたいだし、健康問題さえなければ……。
「短命とか嫌だよ⁉︎」
「……? あ、えーと魔力が有り余って今の状態なだけで、健康に問題はないんだ。それに、年に数回防壁の補強をすると、ガリガリに痩せてしまう。体型がコロコロ変わるから気持ち悪い、かもしれない」
過去にそう言われて傷ついてきたのかも。
体に魔力ためこめるってすごいことだし、もっと自分の力を誇っていいのに。
「そんなの気にしない! 協力する! 私、新作のスイーツ持っているんだ。一緒に食べよう」
よかった~、新作いっぱい買っておいて。
「スイーツ……?」
「甘いもの! お菓子、デザートだよ!」
ぱあぁっとナッツの顔が嬉しそうに明るくなる。
「甘いもの好き? よかった! 一緒に食べよう」
コンビニスイーツを気に入ったナッツが、菓子職人を集めて再現しようと目を輝かせた。趣味も好みも合うなんてサイコー!
私たちは即結婚して、本当に田舎の領地へ。
腕のいい菓子職人たちの試作品を端から食べるナッツは年中ふわふわぽよんのマシュマロボディで癒し系。
もちろんバランスの良い食事と運動もしているよ!
ナッツの魔力もより強力になって安定していて、国の先も明るい。
聖女の私が隣にいるからってみんなが言うけど何もしてない。
そう言うと彼は笑ってぽちゃっとした腕を広げた。
「スクナは私だけの聖女だよ」
ナッツの腕の中に飛び込んで、はぁっと息を吐いた。
この世界で新しい性癖に目覚めて、すてきな王子様と結婚できたなんて!
縁結びの女神様、ありがとうー!
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