聖女の役目を終えたのですが、別のところへ転移したので堅物騎士様助けてください!

能登原あめ

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 アレハンドロ殿下に呼ばれて、和やかな昼食会。
 テーブルについているのは殿下と神官長、私とベルナルドさんだけ。
 まずは食事をおいしく食べてから話そうと言い出して黙々と食べる。

 1皿目はサラダ。びっくりするほど山盛りの千切りピーマン。いったい1人何個使ったんだろうってくらい。
 最初、嫌がらせかと思ったけどドレッシングがおいしかった。

 2皿目にお米の代わりにパスタで作られたシーフードパエリア。殿下は米よりパスタ派なのかな。
 3皿目の牛ほほ肉の赤ワイン煮は濃厚でとろとろしていて、ナイフなんていらないくらい柔らかい。
 つけ合わせはズッキーニやミニキャロットで、きれいに網焼きされていた。

 4皿目にバゲットとカキのアヒージョが出てきてもう食べれないよって思いつつぺろり。この世界の料理、おいしすぎる。

 5皿目のデザートはお米のミルクデザート。
 言ってみれば砂糖を加えたミルク粥だから、好みが分かれると思う。お米だと思わなければ、大丈夫かも。自分で作ってまで食べたいかというと……ないかな。

「歴代の聖女はみな、このデザートを好まなかったと書かれていた。アンは?」
「私の生まれた国では米は甘い味つけにしませんので驚きました。新しい味です」
「そうか、はははっ」

 殿下がわざとこのメニューを希望したのかな。
 ちょっと……いや、性格悪いと思う。
 こうして一緒に食べるのは最後なのにさ。
 
「それで……もう決めたのかな? スッキリした顔をしているね」
「はい。私、還りません。ベルナルドさんとメノアレス島に行きます」

「そうか、おめでとう。ではお祝いを贈らせてもらうよ。これからの生活に困らないくらいのものを。今度は受け取ってね。……何か欲しいものはある?」

 今後困らないだけもらえるなら文句はない。そもそも島暮らしだしね。
 私はベルナルドさんの顔を見た。お互いに見つめ合った後で。

「平穏、でしょうか」


 







 それから1週間もしないうちに、たくさんの贈り物と共に私とベルナルドさんはひっそりと船に乗った。
 今回は晴天なのと、1番良い船室を用意してもらったから前回ほど酔わなかった!

 とはいえソファで、だらしなく横になる。
 ベルナルドさんがびっくりするくらい過保護でブランケットをかけてくれたり、さっぱりした飲み物を用意してくれたりした。
 
「ベルナルドさん、最初からこんなでごめんなさい」
「いいから、目を閉じて」

 ベルナルドさんが私の目蓋に左手を乗せた。
 その指には私とお揃いの金の指輪がはめられている。
 実は船に乗る前に、神官長立ち会いのもとで誓い合い、私達は結婚した。
 指輪の存在に、私達は夫婦なんだって噛み締めてしていると、不意打ちで唇にキスをされる。

「……⁉︎」

 私が見えないからって、ベルナルドさんずるい!
 きっと赤くなっていると思うけど、ベルナルドさんの大きな手が私の目蓋を覆ったままで少しも見ることができない。

「アン、愛しています。これからは俺とのんびり島暮らしをしましょう」
「……はい。ベルナルドさんの顔が見たいです。見て、好きって言いたい」
「……少しだけ、待ってください」
 
 どうしよう。顔がにやけてしまいそう。

 別のことを考えて気を引き締めないと!
 神官長も国中を回る旅に戻るそう。
 いつか島にも回ってくるみたいだから、また会えるのを楽しみにしてる。
 
「……アン」

 手を外されて、頬に赤みを残したベルナルドさんの顔が思ったよりも近くにあった。
 やっぱり、蒼い目が綺麗だな。

「愛してます、ベルナルドさん」
「…………っ⁉︎」

 赤くなった顔を隠すように、ベルナルドさんが私を抱きしめた。








 メノアレス島に戻って、1番最初にしたことは大掃除と片づけ。
 アレハンドロ殿下はそれはそれはたくさんの贈り物をくれた。
 口止め料ともいうのかな。

『殿下。実は私、船酔いが酷くて船が苦手なんです。島についたらもうそこから出ないと思います』

『そう? 前回の聖女……公爵夫人とは全然違うんだね。彼女は今も船で各地を回っているみたいだよ。そのうち会うかもしれないね、島で。……アン、お幸せに』

 殿下はにっこりと笑った。
 私の島で大人しくしますよーってアピールが伝わったのかな⁇
 
 太っ腹なことに、陛下からベルナルドさんへメノアレス島にあるジンの酒造所の権利と伯爵位を賜った。
 酒造所のオーナーは伯爵の方が箔がつくからって。

 もともとベルナルドさんの実家は子爵家で商売をしているらしく、結婚後に貴族だって知ってびっくりしてる。
 爵位のない次男だから騎士になったんだって男らしく笑っていてキュンとした。
 
「ベルナルドさんの大好きなお酒が飲み放題ですね!」

 ちょっと困ったように笑うけど、嬉しそう。オーナーとして時々見回るのが仕事って、ほとんど何もしないのと変わらないんじゃないかな。
 
「独りでこの島に来た時は、こんな幸せを手にすることになるとは思いませんでした」

 ベルナルドさんはそう言って私の手を握る。
 私はここで前を向いて生きていくんだ。
 
「ベルナルドさんに最初に会えたのが私の1番の幸運ですね!」









          終



******


 ここまでお読みくださりありがとうございました。
 この後はR18展開となりますので、大丈夫な方はおつきあいくださると嬉しいです。

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