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6 王宮
しおりを挟む気まずい。
豪華な馬車に2人きり、非常に気まずい。
「…………」
「……あの」
「…………」
「……あの、ベルナルドさん」
「……はい」
話しづらいんだけど!
「ベルナルドさん、巻き込んでしまってごめんなさい。私、頼りになるのはベルナルドさんしかいなくて……だから、さっき嘘ついちゃって……その」
「いえ、いいんです。わかっています。私でよければ恋人役としてあなたのそばにいさせてください」
「……いいんですか?」
ベルナルドさん、こんな無茶苦茶なこと言う私に優しい。
本当なら島でスローライフを満喫してただろうに、初めて会った時からずっと護ってくれている。
「あの……、ここをうまく切り抜けられたら何かお礼をさせてください。とりあえず、私達つき合いたてってことでいいですよね? だって私達……」
手を握り合ってるだけでお互い真っ赤だし!
私はベルナルドさんが好きだから演技じゃなくて本気でいけるけど、ベルナルドは堅物でどうやら純情みたいだから。
「わかりました。つき合って……1週間にしましょうか。旅の間に、恋が芽生えたことにしましょう……それならば……」
「はい、そうですね。そうしましょう」
どっちの手汗かわからないし、恥ずかしいけど、私は離したくないって思ってる!
「この度は多大なる迷惑をおかけした。聖女様がこの国を救ってくれたというのに、このようなことを起こした神殿の者達にはきつい制裁を考えておく。聖職位の剥奪、私財没収、労働刑……それとも希望があるか?」
この白いお髭のおじいちゃんが陛下だったんだ!
たくさん紹介されて覚えきれなかったよ。
口髭のオールバックのおじさんが息子で、次期国王として実務はほとんどやっているのかも。
神殿にあまり興味はないのかもしれないけど。
「制裁はいりませんので、無事に元の世界の元の場所の元の時間に還してほしいです」
それだけ! それを最優先でお願いしたい。
もちろん今度はもらえるものはもらうから。
ベルナルドさんがこの2ヶ月、私がどうしていたか悲壮感たっぷりに話したから、陛下の顔は神妙。
なんだかんだと楽しんだなんて言えない!
「さすが聖女様だ。遠慮せず、希望を述べてみよ。余ができることはなんでもしよう。神官長は3日以内に呼び戻すが、その間快適に過ごせるよう王宮内に部屋を用意させよう」
1週間前に旅立った人を3日以内に呼び戻すんだ……すごいな王族。
「あの、恋人の彼も一緒にお願いします!」
こんなところで一人きりは嫌だ。
陛下が白い眉を大きく上に上げる。
「……なるほどわかった。それならばゆっくりできるように離れを用意させよう。聖女様が望めば年頃の孫もいたのだが。いや、詮なき事よ。して、聖女様は彼も元の世界に連れて行こうとしているのかな? 前例がないのでできるかわからないが……それが希望であるなら文献を探してみよう」
なにか勘違いしてるみたいだけど、そういうことにしておいたほうがいいのかな?
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
ベルナルドさんと日本へ行く?
そうなると……国籍もなくて仕事も困るだろうけど。記憶喪失で難民認定みたいなのいけるのかな……?
ボディガード的なお仕事とか、いやそんな危ない仕事じゃだめか。
親戚の大叔父さんが、農家の後継ぎがいないって言ってた!
ベルナルドさん、体力はありそうだし悪くないかも?
多分お母さんは味方してくれそうな気がする。イケメンマッチョ好きだし。
あ、真面目に考えすぎちゃった。
ベルナルドさんもそんなことは望んでいないだろうな。ずっと黙ったままのベルナルドさんをちらりと見て、余計な想像を追い払う。
離れに案内されて、大きな風呂に入った後でランチが出てきた。
まず1皿目にいきなり魚介のリゾット。
最初はサラダかスープくらいでいいのに、やっぱり昼が1日の中でメインみたい。
2皿目は子羊のあばら骨つきの肉の炭火焼きで、香ばしくてとてもおいしい。
添えられた焼き野菜もおいしかった。
3皿目はアーモンドのタルトみたい。
コーヒーはバルのほうが甘く感じたけど、王宮のものはすっきりして上品に感じた。
「ベルナルドさん、おいしかったですね」
「はい」
なんだかずっとベルナルドさんがソワソワしている気がする。
「どうしました?」
「その……この後はシエスタにしましょう」
ベルナルドさんの言葉に、控えていた給仕の方達が静かに退室し始めた。
「何かございましたら、ベルを引いて下さい。裏手の建物に数名控えておりますので」
私達は恋人同士になりたて……な設定のわけだし、使用人達の配慮が恥ずかしい!
それはともかくベルナルドさんはきっと2人きりで内緒話をしたいんだと思う。
私の寝室に移動すると、人の気配がすべて消えた。
窓から王城に向かってぞろぞろと歩く姿が見える。
離れでは完全に2人きりにしてくれるみたい。
「ベルナルドさん?」
寝室の入り口に立ったまま固まるベルナルドさんに声をかけた。
「……アン。ここはその……すごく言いづらいのですが、恋人のための離れとして作られています」
「へ~、そうなんですか」
「…………」
雰囲気的にはテレビで観たスイートルームっぽいと思う。広くて、扉もいっぱいあるし。
この後、探索してもいいかも。
「えーと?」
「その、この部屋はアンが使ってください。私はソファで寝ますので」
「……えっと……。もしかして寝室はここだけで、ベッドがこれだけってこと、ですか?」
ベルナルドさんが無言で頷く。
私が恋人だって言ったから、陛下が余計な気をまわしちゃったんだ!
「ベルナルドさん、ごめんなさい。私がソファで寝ます」
ベルナルドさんだと足は伸ばせないだろうけど、私なら問題ない。
王族仕様できっと座り心地もいいだろうし、寝ることもできるはず。
「いや、アンにそんなことをさせるわけには」
「ベルナルドさんのほうが体が大きいですし、無理ですよ」
「俺は床で寝てもいいです」
足指が埋まりそうなくらい深い絨毯ではあるけれど!
「あの……素直になりましょう、ベルナルドさん」
なぜかベルナルドさんが唾をゴクリと喉を鳴らして飲む。
「大きいベッドなので、一緒に寝ましょう。私、それほど寝相は悪くないと思いますし、多分うるさくないと思います。……あ、ベルナルドさんがもしうるさくても、私は一度寝たら起きないので気にしなくていいですよ」
ベルナルドさんが額に手を当てて、大きく息を吐いた。
「アン……わかりました。あなたはとても……危なっかしくて目が離せません。俺からも……すべてから護ります」
「えっと? ごめんなさい。私、ベルナルドさんに迷惑ばかりかけて」
「そんなことはありません! 俺は……っ、あなたの……護衛騎士ですから」
「ベルナルドさん……ありがとうございます。あの……本当にシエスタとります?」
ベルナルドさんが真っ赤になって、可愛く見えてしまった私は、彼の手をとって離れの中をひとつひとつ見学することにした。
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