上 下
2 / 14

2 島国

しおりを挟む

 
 島国ではある、多分。
 海が近くて、潮の匂いがして……人々は黒髪黒目の人……以外もいっぱいいる!
 女性はふんわりしたワンピースを着て、男性はシャツにハーフパンツに草履? 
 
 日本の最南端、とはまた違うと思う。
 なんだろう? 違和感。
 日本じゃなくて、まだ異世界じゃない?
 
「あのー、すみません。この島の地図ってどこかにありませんか?」

 のんびり日向ぼっこをしている老夫婦に話しかけると、すぐ近くに観光案内所があることを教えてくれた。
 さすがにここはどこですか、なんて訊けないよ!

 来たことがない日本の小島ならいいんだけど……。
 きっと、島全体が異国風の観光施設なのかも?
 そうだ、きっとそれだ!
 それか……基地の中なら異国っぽくてもおかしくない。物々しい装備してる人なんて1人もいないけどね!
 
 違和感を感じながら辿り着いた場所で見たのは、地球では見たことのない配置の島々と文字。
 なぜか読めるのはありがたいけど、ここは異世界のままらしい。

 まさか……別の異世界だったらどうしよう⁉︎
 お世話になったあの国は――?

「すみませーん、もっと大きい地図はないですか?」

 観光案内所のお姉さんによると、ここはつい最近まで聖女として暮らしていた国の所有のメノアレス島と言って、本土まで船で5日くらいかかるみたい。
 カレンダーを確認すると、時間も1年巻き戻って……いなかった――。
 何度見ても、今日のまま。

 ええー?
 何でこんなところに飛んじゃったんだろう?
 でも不幸中の幸いかも……別の異世界だったらどうすることもできなかっただろうし。

「週に一度船が出ていて、昨日出航してしまったんですよね。しばらくこの島から出ることはできないですよ。それにこの時期は大雨が多くて欠航も多いんです。……もし、宿代が心配なら船を待つ間できる短期のお仕事も紹介しますけど……観光地なので、結構そういうお客さんも多いんですよね」

 そうだった。
 宿代だけじゃなくて、船のチケットだって買えない!
 こんなことなら、珊瑚さんごのネックレスとか、柘榴石ざくろいしの指輪とかもらっておけばよかった。
 お金はもらっても意味ないって思ったし。

 日本に持ち帰ってもベルナルドさんを思い出してつらくなるかもだなんて、乙女心炸裂してる場合じゃなかったよ!

「……あの。どんな仕事ですか? 私にもできます?」
「そうですねぇ、女の子なら宿屋の皿洗いや掃除、料理屋の給仕ってところですね」

 そう言って私をじろじろ見る。

「短期でしっかり稼ぎたいなら酒場もありますけど……成人してます?」
「してます! でも、料理屋がいいです。酔っ払いの相手は多分できないと思うので」

「わかりました……ちょっと聞いてみますね。宿はとってあります? まだなら一緒に探すか住み込みのところをあたってみますけど」
「住み込みでお願いします!」







 紹介してもらったのは、島でも有名な大きなレストラン。働いているのも同じような立場の子やリゾートバイトのノリの子も多くいて、サバサバしている。
 入れ替わりが多いからかな。

 ありがたいことに寮があるからそこに入ることになった。まかないも出るというし食事も困らない。
 人生で1回くらいリゾートバイトしてみたかったんだよね。いい経験かも!

 ここで船代と神殿までの交通費と宿代を働いて貯めてから、もう一度、今度は正確に日本のあの時間に戻してもらわないと。
 次は遠慮せずもらえるものはもらうって決めた。

 この先何があるかわからないから、周りからどれくらいかかるか聞いて、余裕をみて最低2ヶ月、頑張れたら3ヶ月も働けばなんとかなると思う。
 早く帰りたい気持ちもあるけど、あの日に戻してもらえるなら問題ない……多分。

 こっちで生活している間に髪が伸びたり誕生日を迎えて成長している分、見た目と中身が当時と変わってしまう不安はあるけれど。
 とにかく今やれることをやるしかない!

「アン、こっちをお願い!」
「はーい! わかりました」

 仕事は朝食の片づけと皿洗い、昼食は配膳と片づけ。夜は酒場になるし、長時間労働はキツいから私は仕事しないけど、昼から夜中まで働く子達もいる。

 チップがたくさんもらえるらしいから、同じ時間働くなら夜働いている子のほうが稼ぎもいいし、さっさと辞めていく。
 同じ部屋の子が夜中心に働いていて、入れ違いで挨拶くらいしかしてないから、ほぼ一人部屋と変わらなかった。

 気が合わなくてストレスが溜まることもないし、無理なく働いてあっという間に2ヶ月が経つ。
 レストランのオーナーと支配人にはあと1ヶ月で辞めると伝えてある。
 
 雨季らしく外に遊びに行くこともあまりないからお金を使うこともなくて予定より貯まっていると思う。
 職場の人とだいぶ打ち解けてきたし、晴れたらBBQしようとか海にくり出そう、なんて話もしていてこの生活も悪くないかもと思う自分がいてちょっと困る。

 案外私ってどこででも生きていけるのかも。
 この島は観光にものすごく力を入れているみたいで、すぐに飽きることもないらしい。
 のんびりするのもいいし、今は雨季だけどほとんどの季節は海で泳げるらしいし、お忍び利用のコテージもある。

 島には酒造所もあって、お酒は安いし、おいしいし、島民も気さくで雰囲気がいいから心地いい。

 せっかくだから船に乗る日までのんびり観光しながら、昼だけ働いてもいいかなと思っていたのだけど。

「悪いが、人が足りなくて今夜だけ仕事に出てくれないか? このところの雨続きで、出港できず客が多いんだ」

 同室の女の子は3日前に結婚して、寮を出て行った。ちょっとびっくり。仕事は辞めないけどあと数日お休みをとっている。
 昼の仕事も慣れたし、私も1回くらいなら夜の仕事もなんとかなるかな。

「昼間よりチップをたくさんもらえるから、稼げるよ。それに、ボーナスもはずむから」
「わかりました、やってみます」

 そういうわけで、1日限定で夜の仕事に入ることになった。
 何事も経験、経験。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました

高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。 どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。 このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。 その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。 タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。 ※本編完結済み。番外編も完結済みです。 ※小説家になろうでも掲載しています。

乙女ゲームの愛されヒロインに転生したら、ノーマルエンド後はゲームになかった隣国の英雄と過ごす溺愛新婚生活

シェルビビ
恋愛
 ――そんな、私がヒロインのはずでしょう!こんな事ってありえない。  攻略キャラクターが悪役令嬢とハッピーエンドになった世界に転生してしまったラウラ。断罪回避のため、聖女の力も神獣も根こそぎ奪われてしまった。記憶を思い出すのが遅すぎて、もう何も出来ることがない。  前世は貧乏だったこら今世は侯爵令嬢として静かに暮らそうと諦めたが、ゲームでは有り得なかった魔族の侵略が始まってしまう。隣国と同盟を結ぶために、英雄アージェスの花嫁として嫁ぐことが強制決定してしまった。  英雄アージェスは平民上がりの伯爵で、性格は気性が荒く冷血だともっぱらの噂だった。  冷遇される日々を過ごすのかと思っていたら、待遇が思った以上によく肩透かしを食らう。持ち前の明るい前向きな性格とポジティブ思考で楽しく毎日を過ごすラウラ。  アージェスはラウラに惚れていて、大型わんこのように懐いている。  一方その頃、ヒロインに成り替わった悪役令嬢は……。  乙女ゲームが悪役令嬢に攻略後のヒロインは一体どうなってしまうのか。  ヒロインの立場を奪われたけれど幸せなラウラと少し執着が強いアージェスの物語

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

ただの政略結婚だと思っていたのにわんこ系騎士から溺愛――いや、可及的速やかに挿れて頂きたいのだが!!

藤原ライラ
恋愛
 生粋の文官家系の生まれのフランツィスカは、王命で武官家系のレオンハルトと結婚させられることになる。生まれも育ちも違う彼と分かり合うことなどそもそも諦めていたフランツィスカだったが、次第に彼の率直さに惹かれていく。  けれど、初夜で彼が泣き出してしまい――。    ツンデレ才女×わんこ騎士の、政略結婚からはじまる恋のお話。  ☆ムーンライトノベルズにも掲載しています☆

私の愛する夫たちへ

エトカ
恋愛
日高真希(ひだかまき)は、両親の墓参りの帰りに見知らぬ世界に迷い込んでしまう。そこは女児ばかりが命を落とす病が蔓延する世界だった。そのため男女の比率は崩壊し、生き残った女性たちは複数の夫を持たねばならなかった。真希は一妻多夫制度に戸惑いを隠せない。そんな彼女が男たちに愛され、幸せになっていく物語。 *Rシーンは予告なく入ります。 よろしくお願いします!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...