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番外編

ルルの恋のお話 2

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「俺の番……俺のルル……。親御さんのところに早く挨拶に行きたい」
「うん。私もノアさんの家族に挨拶を……」
「兄だけだから、あとで寄っていいか?」

「うん、それと私……さっき屋台で二つ買おうとしてたの。姉もいるけど、今はパパと二人暮らしだから」
「……そうか、じゃあ売り切れる前に買ってから、家まで送る。……ほかに予定は?」

 私の顔をのぞきこんでまっすぐみつめてくる。
 それだけで体温が上がる。

「今日はもうそれだけ。……うちに来る?」
「家に父親がいるのか?」
「……いないけど、待ってたらパパが帰ってくるから……」

「ルル、俺は番とはいえ男だ。むやみに家にあげてはいけない」
「わかってるけど……ノアさん、私と結婚してくれるんでしょ? だから……」

 私の言葉に彼が大きく息を吐いて、抱きしめたまま立ち上がった。

「ルルを大切にしたい。だけど、二人きりになったら早く自分のものにしたくなると思う。成人前のルルを傷つけたくない」

「私がノアさんにされて傷つくことなんて一つもないと思うけど」
「…………はぁ……。ルルが大事に育てられたのはわかった。タマゴヤキを買ったら、少しデートしよう」

 そう言われてノアさんの片腕に縦抱っこされて歩き出した。
 熊獣人としては小柄な私だけど、成人した人間の女性くらいはある。
 私よりほんの少し茶色の混じったノアさんの黒髪に手を伸ばして訊いた。
 
「ノアさんも熊の獣人?」
「あぁ、そうだ。ルルもか?」
「うん……一緒なの、嬉しいね」

 私の言葉にさらにぎゅっと抱きしめてくれる。
 ちょっと苦しいけど、幸せで。

「ノアさん、抱っこは嬉しいけど、歩けるよ?」
「……わかってるけど、このままじゃダメか? 離したくないんだ」

 公園内はまだよかったけど、大通りを歩くにはちょっと目立っているような気がする……出会ったばかりだし今日くらいしかたないのかな。

「熊獣人は執着心が強いんだ……知らないのか?」
「今までは知らなかったけど、ノアさんに会ってちょっとわかったみたい」

 私の言葉になぜか唸る。
 あと二年か、って呟いてる。

「ノアさんはどこに住んでいるの? これからもこの街に住む?」

 できればこの街にいてほしい。
 パパの近くにいたい。
 ララもマミーたちもいるけど、一人暮らしになっちゃうから。
 
「この街にいるし、ずっとルルのそばにいるよ」

 そう言うノアさんの顔がほんとに優しくて、暖かい。
 ずっと見つめていられる。

「よかった……ノアさん、大好き」
「俺も、好きだ」
「私、こんなに幸せでいいのかな」

 ママが亡くなってしばらくしてからマミーが異国からやって来て、家族と離れ離れになっちゃって一人ぼっちだからうちで面倒みようってパパが言った。

 おしゃべりができるよう一生懸命言葉のやりとりをしているうちにだんだん仲良くなって、それからいつも一緒にいてくれて大きなお姉さんというより小さなママみたいに思って今では大切な家族になった。

 だから私はママはいないけど家族に恵まれて幸せだって思っていて、さらに今、番が現れてもっともっと幸せで色々な想いがこんなに溢れるなんて知らなかった。

 好きの種類が違うことも知ったばかり。
 家族に対して感じるお日様みたいなぽかぽかした優しい好きではなくて、番に対してはもっと強くて、独り占めしたくて愛しくて胸が苦しくなる、好きだけでは言葉が足りないのだと思う。

「このまま離れたくない……」

 私の呟きにノアさんが唸る。
 背中を優しくトントン叩かれて、顔を上げた。

「……店に着いたから、兄を紹介する」

 ノアさんは私を抱きしめたまま話し出す。
 気のせいかお兄さんが笑いをこらえているように見える。

「兄のベン。こっちは番のルル、十六だから、あと二年したら結婚する」
「…………ノアさん、下ろして……だめ? その、すみません。ルルです。これからよろしくお願いします」
「……いや、ルルちゃん、番同士だからそこは気にするな。俺はすごく嬉しい。……だって、何年も弟は……」

 ベンさんが話し出したところで、ノアさんが唸った。
 ノアさんの癖なのかと思って顔をのぞき込む。

「……ノアさん?」
「ルル、何でもない。兄さん、タマゴヤキ五個包んでくれ。ルルを家に送るから」
「……十個でもいいぞ?」
「じゃあ、十個」
「……ノアさんも食べていく?」
「わからない」
「食べていってくれたら嬉しいけど….パパと二人で十個は食べきれないよ?」
「……じゃあ、六個で」

 二人の屋台は、大鍋に二種類のタイタンがあって、片方は季節のチェリー煮、もう片方はリンゴ煮みたい。
 甘くてとってもいい匂いがするから、おやつの前の時間はいつも混んでいる。

 タマゴヤキは深さのある小皿のような形で層になっていて、すぐ食べる人にはその上に熱々のタイタンを乗せて売っていた。
 他のお店は最初から組み合わせて冷たくして売っているから、珍しいし、絶対美味しいと思う!

 通るたびに空いている時に寄ろうと思って今日まできてしまったけど、もっと早くに気づいていたらノアさんと一緒にいられたのに。
 すごく残念。

 持ち帰り用は木の皮のような入れ物にタマゴヤキを入れてくれて、タイタンは量が多いからか瓶に詰めてくれた。
 なんとなく背を向けて包むベンさんの肩が揺れているようにみえる。
 ベンさんは楽しそうな人だと思う。

「うちのはタイタンとタマゴヤキは別々だから、最後までサクサクで食べれるぞ」

 お金を払おうとした私に、妹になるんだから遠慮するなと持たされた。

「ありがとうございます、ベンさん」








 
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