甘く優しい世界で番に出会って

能登原あめ

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 なんと、シロくんは翌日あっさりと仕事を決めてきた。
 しかも働くのは明日から。
 家具職人の見習いだから、しばらく給料は安いけどこれまでの経験があるから見習い期間は長くないだろうということ。
 私も刺繍の仕事があるから二人でがんばろうと答えた。

 ケビンさんに報告した翌日、さっそく役所に結婚届けを出した。
 今日は主役だから手伝わなくていいよ、とケビンさんが狩ってきた肉をメインにララとルルがご馳走を用意するとはりきった。
 しばらく散歩に行くよう追い払われたから、川沿いを手を繋いでのんびり歩く。

「僕、二人の家は川のほとりに建てたいんです。どうですか?」
「うん、いいと思う。シロくんと一緒ならどこでも嬉しい」

 アパート暮らしだったから自分たちの家だなんてそれだけで嬉しすぎる。
 散歩から戻ると、準備の終わったララとルルが私の手を引き部屋に入った。

「マミー、おめでとう。これ、二人からお祝い」
「おめでとう。さっそく着てくれると嬉しい」

 やわらかな生地でできたクリーム色のワンピースで、裾に刺繍が施されている。
 手持ちの服で精一杯おしゃれして、新しい服を作ろうなんて思わなかったから、二人からのプレゼントに胸がいっぱいになる。

「ありがとう……すごくかわいい、素敵……着るのがもったいないくらい。気づかなかったよ。……大変だったでしょ?」
「私たちも仕事が早くなったのよ。お出かけの時にも着てね」

 ララの言葉に何度も頷く。
 しゃべったら涙が出そう。
 それなのにルルが追い打ちをかける。

「マミー、大好きだよ! 時々会いに来てね」
「……刺繍の仕事しに、いっぱい来るよ……ルル、ララ大好き」

 みんなで抱き合って泣き笑いした後、さっそく着替えて、ララが共布で作ったリボンで可愛く髪を結ってくれた。
 ワンピース姿の私を見てシロくんが駆け寄ってきた。
 慣れたと思っていたけど甘い匂い。
 
「マミさん、きれいです」
「ありがとう」
「この後マミたちは新居に移るから、今日は早めに晩ご飯だよ」

 ケビンさんの声でパーティが始まる。
 美味しい料理を食べて、おしゃべりして、最後にハート型のイモノニッコロガシ。
 ケビンさんが特別に頼んでくれた、飴がけのおいしいもの。

 いつもよりサイズが大きいからか、つやつやの柔らかめの飴が薄くかかったものが四つ。
 お腹がいっぱいだったので、私はシロくんと分け合って食べさせ合う。
 シロくんは飴がけのスイートポテトは初めてのようでおいしいと笑顔になった。

「本当に仲良しだね」

 みんながニコニコしながら見てくる。
 恥ずかしい。
 帰り際にもう一つと明日食べられるようにたっぷりと料理も持たせてくれた。







***


 いつもシロくんが一人で帰る道のりを二人で手を繋いで歩いて新居に足を踏み入れる。
 シロくんはずっと黙っていたけれど、それはすごく優しい沈黙で私の心も凪いでいた。
 ランプを灯し、やわらかな光に照らされた居心地のいい空間に私は惹きつけられる。
 
「夢みたい……」

 これから二人で暮らせるんだね。
 ここが私たちの居場所になるんだね。
 後ろにいたシロくんを振り向こうとしたら、そっと抱きしめられた。

「やっと……やっとです」

 シロくんの言葉に顔だけ振り向いた。

「やっと、僕のものにできます」
「シロくん……シロくんも、私のもの?」
「そうですよ、僕の奥さん」

 そう言われて照れて笑ってしまう。
 私も体の向きを変えてシロくんにぎゅっと抱きついた。

「私の旦那様、今日からよろしくお願いします」
 
 どちらからともなく唇を寄せる。
 ただ触れるだけなのに呼吸が浅くなる。
 
「このまま食べちゃっていいですか?」

 見たことのないシロくんの表情に戸惑いながら頷いた。

「いいよ」

 シロくんに手を引かれて寝室に入る。
 途端に部屋の中に甘い匂いが立ちこめた。
 あぁ、発情しているんだ、と気づく。

「シロくん……甘くていい匂い」
「マミさんのほうがいい匂いですよ」
 
 ぴったりと抱きしめあってお互いに匂いを嗅ぐ。
 
「シロくん、ヴァニラクリームシューあなたが好きです
「僕も。ヴァニラチョコシューあなたが欲しいです

 シロくんはワンピースにボタンがないことに気づいて、真剣な顔で裾からまくり上げた。
 寝室の灯りは薄暗くはあるけれど、シロくんの表情がわかるくらいには明るい。

 ララ、かぶりのワンピースはこういう時恥ずかしいよ……言えないけど。

 下着になった私は恥ずかしさに震えて涙目でシロくんを見る。
 シロくんも慌てて下着になって、私を抱きしめて一緒に布団に入った。
 
「ごめん、もう恥ずかしくないですか?」
「うん……」

 シロくんが顔中にキスを降らせる。
 
「マミ」

 そう呼ばれて唇が重なる。
 何度も啄んでからにゅるっと舌で舐められた。
 少しだけ口を開くとシロくんの舌が口内を巡る。

 上顎や舌の裏を撫でられてビクッとすると、リボンをするっとはずして優しく髪を撫でた。
 どう息していいのかわからないのは相変わらずで、だんだん頭がぼんやりしてきてシロくんの腕をぎゅっと掴んだ。

「マミ……鼻で呼吸して」
「シロくん……慣れてるの?」
「マミが初めて。……ケビンさんがくれた本に書いてあった」

 ケビンさん……。
 なんだか恥ずかしくなって目を閉じる。
 
「最後までしたら恥ずかしくなくなるのかな?」

 私の呟きにシロくんは真面目に答える。

「……何度かしたらかも? 続きしていい?」

 私が頷くともう一度唇を寄せて、舌が滑り込む。
 
「あっ……んっ……」
「かわ、いい……僕の、つがい……」

 ほんとに食べられてしまうんだ、私。
 深く唇を合わせて、お互いの唾液が混ざる。
 飲み込めない唾液が顎をつたい、目ざとく見つけたシロくんが顎をぺろっと舐めてまた唇を塞ぐ。
 私の舌を甘噛みし、びくんと揺れるとシロくんが舌を吸う。

 身体が熱い。
 下腹部がキュンとして、なんだかおかしい。
 泣きたくなってきた。
 シロくんが触れる全ての場所が気持ち良くて、なんでも許してしまいそう。

「シロくん……」

 私の顔を見て、シロくんの抱きしめる腕に力が入った。
 熱のこもった瞳で囁く。

「大切にするから……」

 まぶたに口づけてから、ゆっくりと唇が重なる。
 シロくんの舌が私の舌を逃さないというようにねっとりと絡みつく。
 私は心がかき乱されて彼の腕を強く握ると、ちょっとだけ優しくなった。

 だけど、唇が離れることはなく。
 シロくんのすべてが私を好きと伝えてくる。
 だから私は意識して息を吐き、身体をゆだねる。
 さっきよりスムーズに息継ぎかできるようになると、私からも仕掛けてみたくなった。
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