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3 それが儚いものだと知ったら
4 デート
しおりを挟むSNSに先輩を登録して、しばらく眺めた。
まず名乗って、それからお礼?
いきなりデートの話なんて訊けない。
無難に……無難な話題ってなんだろう?
いきなり長文で送ったら重いよね……?
でも、友達相手に送るのとは違うから悩む。
絵文字は? スタンプは?
悩んで、悩んで。
“鹿児島まいです。登録しました。よろしくお願いします”
なんていうか真面目。
もっと親しみがわくような文面にして、絵文字を……なんて考えていたらそのまま送信してしまった。
「やってしまった……」
何かスタンプでごまかそう。
でも、これは可愛すぎるかなとか狙いすぎかなとか悩んでいるうちに。
“こちらこそよろしく”
“もっと普通でいいよ”
凪先輩の文面から顔が浮かぶ。
きっと笑っていると思う。
だけど……普通ってどんな?
好きな人に普通に接するって難しい。
悩んでいたら、コミカルな猫がくつろぐスタンプが送られてきて少し和んだ。
猫なのも先輩っぽい。
“岩手先生の運転びっくりしました”
送信してから手を重ねていたあの時間を思い出して恥ずかしくなった。
“あれはひどいよな”
“怖くて助手席には乗れない”
“終業式の次の日空いてる?”
連続で通知がくるから考える余裕もない。
カレンダーを確認するまでもなく。
“空いてます”
その後は時間と待ち合わせ場所を決めて、先輩との最初で最後のデートが決まった。
終業式の翌日は穏やかに晴れた冬らしい天気だった。
そして、先輩は意識していないのだろうけど今日はクリスマス。
絶対遅刻したくなかったから、時間が気になって起きたのは家を出る二時間前。
どきどきしてちゃんと眠れなかったのに。
前日に悩んで悩んでようやく決めた服も、朝になってやっぱり違うかもって鏡の前で試着を繰り返して、結局初めに選んだものにした。
髪の毛だって今日は変な寝癖もなかったし、ものすごく頑張って自然に見えるように仕上がっている。
最後に鏡を見た時、私としてはいい状態になったと思う。
「チケットを二枚もらったけど、ここへ行くならまいちゃんとだって思った」
そう言って誘われた場所はキャラクターと触れ合える全天候型のテーマパーク。
ものすごく意外だった。
そもそも彼の母親がスーパーの福引で当てたらしいけど、家族で興味を持った人がいなかったって。
クリスマスということもあって人が多いし、先輩の体調が気になったけれど、室内なら無理せず休憩して……早めに帰ればいいのかも。
まずは先輩の身体優先。
先輩のしたい事には全部つき合おう。
いい思い出にしたい。
でも、顔色とか無理してないかは私が気をつけないと。
そんな決意を固めたわけだけど、私自身十年ぶりくらいに訪れたから楽しい。
「こういう場所、好きだと思った」
「すごく楽しいです。……先輩は」
「楽しいよ。それに、まいちゃんが笑っているところ、久しぶりに見たかも」
「そんなことないです。でも、保健室に行く時ってだいたい頭が痛いから、笑わないかもしれないですね」
特に最近は先輩のことばかり考えて、眠れなくて本当に頭が痛かったから――。
「そう、だね。向こう行こうか」
先輩がなぜか笑って私の手を握る。
「…………」
「人がたくさんいるから、はぐれないようにこうしていて」
「はい」
先輩にいい思い出を作ってもらおうと思ったのに、私のほうが楽しすぎる。
それに先輩は私のことをどう思っているんだろう。
手を繋ぐのも妹みたいに思ってるわけじゃないよね……なんて夢をみてしまう。
それからパンフレットを見つめながら早い時間に軽食を取った。
私はキャラクターの形のワッフルにたっぷりの生クリームとキャラメルソースがかかったもので、先輩はほろ苦いチョコソースがたっぷりかかったもの。
「先輩、この後ショーがあるみたいですけど……もしかして体調が悪いですか?」
向かいに座る先輩が、頬杖をついてぼんやり私を眺めていた。
柔らかく笑って、そうじゃないって言う。
「まいちゃんとこうして出かけて嬉しいなって思って。三学期なんてほとんど休みみたいなもんだから……」
「もう保健室で会えなくなるんですね」
「……そうだね」
寂しい。
本当に今日が最後なのかもしれない。
「まいちゃんさえよければ、またデートしてよ」
「はい! 私いつでもつき合いますから」
また会えると思ったら気持ちが晴れていく。
私ってすごく単純。
「……今日、誘ってよかった」
先輩の声は小さかったけど、胸にじーんと染み渡った。
ショーが始まる前からのんびり待って、まったりしたライド系に一つだけ乗った。
クリスマスだからカップルも見かけるけど、断然小さな子供を連れた家族が多い。
ちょうどみんな冬休みに入るタイミングだからかも。
でも夕方になると早めに退場する家族が増えて落ち着いてきた。
私達も帰るかどうか考えた結果。
「一度外でご飯食べてゆっくり休んでから、最後のクリスマスショーを見よう」
再入場のスタンプを押してもらって、ファミレスに入る。
近くにテーマパークがあって夕食には早めの時間だといっても、クリスマスのファミレスは半分も席が埋まっていない。
この辺りは飲食店がたくさん並んでいるとはいえ、こんなに空いているのは初めて見たかも。
ファーストフードはかなり人がいたんだけどな。
「空いてますね」
「実は前にもクリスマスに来たことがあるんだ。びっくりするくらい人がいなくて、もしかしたら今回もそうかと思った」
「そうですか……」
これまで先輩に彼女がいた話とか聞いたことがなかったけど、胸の中がもやもやする。
「この辺りのイルミネーションが観たいから、ご飯奢るしつき合えって突然姉に言われてクリスマスにドライブしたんだ。……多分当時の男と別れたばかりだったのかも。外から見て夕食時なのにお客さん三組くらいだったから、なんでも食べろってここに入ったんだよね」
そう言って笑うから私もつられる。
なんだ、心配することはなかったんだ。
「このお店って、どこにあってもたいてい混んでいるから意外です。クリスマスって盲点なんですね。でも、こうしてゆっくり過ごせるから疲れがとれるって思います」
「うん、俺もそう思う。今日のメインはテーマパークだしね」
先輩と一緒に過ごせる時間は幸せで、お店なんて関係ない。
しかもここにいる人達の服装から、時間をつぶしてテーマパークに戻るような気がする。
カップルに友達同士に家族連れ。
みんな一緒なんだと思ったら妙な連帯感を感じて頬が緩んだ。
ここで身体を休めて最後まで楽しみたい。
先輩ともう少し一緒にいられる。
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