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1 雨とピアノ

2 再会

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 教室に入ったらいつも通り、友達が声をかけてくれた。

「福島、久しぶり~! どしたん?」
「心配してたんだよ~」
「……うん、ありがと。冬休み中バイトしすぎて体調崩しちゃってた」

 休んでいる間一度もSNSで連絡してこなかったのに、心配してたとか。
 
「なんか、顔青い? やっぱまだ体調悪いんじゃない?」
「……そうかも」
「保健室行ったら?」
「……そうする、来たばっかりだけどごめん」
「しかたないよ~お大事に~!」

 手を振る彼女達に、私は一人保健室に向かう。
 一度教室に寄ったし。
 お母さんにも保健室行くかもって伝えてある。


 それからは教室と保健室を行ったり来たりすることが多くなって。
 学校に私の逃げ場ができた。
 三学期、ずっとここで過ごせたらいいのに。

「失礼します」

 保健室で体温を測っていた私の前に、中学の同級生が入って来た。
 島根銀之助。

 おじいちゃんがつけたという古めかしい名前は一度聞いたら忘れない。
 銀山とつけられそうになって両親が慌てて止めたというのも有名な話。

「委員長? 久しぶりだね」
「福島? 体調悪い?」
「あー、うん、少し」

 いつも微熱がある。
 なんかいつも体調不良なのは、病院へ行ったら自律神経が乱れているんだって。
 今は薬を飲むほどでもないから規則正しい生活としっかりご飯食べてしっかり眠るように言われたばかり。

「そうなんだ、お大事に。……ところで、もう委員長じゃないからその呼び名やめてくれない?」

 中学三年生の時、彼は同じクラスで学級委員長だった。
 三年間学級委員だったんじゃないかな。
 クラスの人気者グループにいた中では静かなタイプだったと思う。

「あー……ごめん。つい呼び慣れてて。今は学級委員やってないの?」
「……やってるけど」
「あははっ……」

 声を出して笑ったのが久しぶりだった。

「いや、笑うとこじゃないし。……ところで先生は?」
「さっき、職員室に呼び出されていたからすぐ来るんじゃないかな」

 プリントをひらひらさせて、窓の下の丸椅子に腰かけた。
 気持ちよさそうに窓から入る風に顔を緩める。
 なんだか、変わっていないみたいで。

 今ここに二人きりでいると、中学生に戻ったみたい。
 クラスメイトとして時々話す程度だったけど、あの時代が楽しかったからこうして彼と話せて嬉しい。

 お互い高校の制服を着ているのが不思議に思えた。

「福島とは校舎が違うもんな。もしかしたら入学して初めて話すかも」
「そうだね。やっぱり特進科って大変?」
「うーん……朝の0校時がつらかったけど、今は慣れたかな」
 
 私は電車通学で、彼は自転車で。
 それから、普通科はすごく緩いんだって話して。
 特進科は土曜はほぼ毎週模試かゼミで、長期休みのたびに勉強合宿があるんだって聞いた。

 同じ高校なのに校舎が違うから噂でしか知らなくて、聞いていておもしろい。
 勉強合宿で勉強漬けなのに、早朝から自習する奴がいるとか信じられない。

「……しかも、前日の夜も就寝時間ギリギリまで自習してるんだよ? 自由時間というのは名ばかりで、俺もやんなきゃかなーって思うくらい皆やってる」
「あははっ、すごいね!」

 説明会の時に偏差値が高すぎて別世界だと思っていたし、特進科は体育祭とか文化祭とか自由参加で、何が何でも勉強優先っぽい。

「福島は? 楽しい?」
「……どうかな」

 思わず首を傾げる。
 ちょっと学校選び失敗したかも、なんて言いづらい。

「ふぅん……そういえばさ、三年の時の社会の高知先生結婚したらしいよ。新しく赴任してきた先生と」

 島根がすぐに話題を変えてくれたから、私はそれに乗っかる。
 なんだろう、この居心地の良さ。

「え? 嘘⁉︎ 高知先生って三十歳くらいだっけ。あのまま独身かと思った」
「今、弟の担任なんだ。すっごい浮かれているみたい。ずっと彼女いないって言ってたからさ、よかったよな」

 そんな話をしているうちに保険医が戻って来て、島根は笑って私に手を振った。
 私も胸の前でこっそり手を振る。

「福島さん、もしかして体温計挟んだまま?」
「あ、そうでした……ごめんなさい」

 測り直すといつもと同じ36.8℃――。
 でも今日は島根と話せて興奮しているかも。

「いつもより顔色がいいかも? どうするー? 教室戻ってみる?」
「……次の時間は体育なので、もう一時間だけここにいさせてください」

 
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