1 / 16
1 雨とピアノ
1 なんか嫌だな
しおりを挟むなんとなく学校に行くのが嫌になってきたのは高一の夏かもしれない。
一緒にお弁当を食べる友達も休み時間に話す友達もいるけど、ほんの少し居心地が悪くて、会話についていけない時がある。
帰りに雑貨屋さんでお揃いのものを買おうとか、誰でもいいから彼氏が欲しいとか。
新しいお店ができたからSNSにあげたいから行こうとか。
つき合うけど、ちょっと疲れる。
すでにみんなグループができているから今さら入れそうなところもないし、一人でいる勇気もない。
夏休みのほとんどをカフェでアルバイトしていたら、その子達はショッピングや映画に出かけていたらしい。
SNSも見る時間がないくらい疲れていたから後から知った。
嘘。
本当はいいねして回るのも疲れて見ないようにしていたから。
高校生って、思っていたより楽しくない。
これなら仲の良かった子達と同じ近くのガリ勉校にすればよかったかな。
学校説明会で先生の大学受験に対するものすごい熱意とか校則が厳しそうなこととか、研究発表会みたいな文化祭で嫌になっちゃったけど。
私の通う学校は偏差値が高くて入るのは大変なのに、校風が自由すぎて大学受験に苦労する学校と言われている。
それでも難関の国公立大を目指す特進科クラスと、やる気のある頭がいい子達の選抜クラスのおかげで、大学合格実績はいい。
将来の夢なんてないし、どうやって見つけたらいいかもわからない。
自由な校風だったらやりたいことが見つかるかもと思って選んだ。
自分で勉強すれば大丈夫なんて軽く考えていたけど、入ってみたら周りはみんな遊ぶことばかり考えている。
わかっていたつもりだったのに、全然わかっていなかった。
「福島は忙しそうだったから、誘わなくてごめんね?」
「ううん、気にしないで。バイト詰め過ぎて、死にそうだった。こっちこそ、ごめんね!」
「じゃあ、今日さー、私達にアイスおごってよ! 駅前の新しくできたところの! 使う暇なかったんでしょ」
なんか面倒くさい。
そう思ったけど、私は笑って。
「今回だけだよー。あの店ちょっと高いって聞いてる。トッピング一つまでね」
「やった! やっぱり福島っていい子だよね~」
調子いいなぁ、と思いつつ私は笑う。
ちゃんと笑えているかわからない。
彼女達とアイス食べて写真撮って、さよならした。
私一人帰る方向が逆で、ちょっと遠い。
どっ、と疲れて何やってるんだろうって思う。
三人にアイスをおごったから、私の時給一時間半くらい飛んでった。
アイスは普通に美味しかったけど、また食べたいかって言ったらコンビニの高級アイスクリームのほうがいい。
パステルカラーのラムネみたいなトッピングは、見た目は可愛かったけどガリガリするし、甘くなり過ぎて正直半分食べた頃には邪魔に思った。
無駄遣いしちゃったな。
その後も彼女達とつき合ったし、学校に行かないなんて選択肢はなくて普通に通った。
時々ズル休みしたけど。
ちゃんと何の授業を休んだか、単位の少ない授業の日は休み過ぎないようにメモまでとった。
「福島、バイト疲れ? また土日も働いていたの?」
「うん……頑張って貯めてるよ。早くピアノ欲しいし」
またおごってと言われるのは嫌だったから、電子ピアノを買うからお金貯めてるって宣言した。
ピアノは中二でやめてしまっていて、家に中古のアップライトピアノはある。
この三年調律していなくて梅雨時に久しぶりに引いたらなんだか音が違って聞こえて、どうせなら自分の部屋における電子ピアノが欲しくなった。
習っていた頃ピアノの練習は楽しくなかったけど、好きな曲を自由に弾くのは楽しくて夢中になる。
まぁ、そんな話をしたらふーん、って興味なさそう。
「偉いよね~、私だったら洋服とかアクセに使っちゃうもん」
「だよね~、手元にあるとあるだけ使っちゃう」
「わかる! いつも金欠なんだよね」
うーん、そうなのか。
すぐ使っちゃうと、本当に欲しいものを買いたい時に買えないって昔おばあちゃんがよく言ってた。
「今一番欲しいのがピアノだから、洋服もアクセも今は我慢してる。お姉ちゃんに借りてるよ」
「お姉ちゃん、いいよね~。うちなんてお兄ちゃんと弟だし、全然ダメ」
「わかる~! でもお兄ちゃんは最近貢いでくれるようになった」
「お父さんのほうがチョロくない?」
「なにそれ~」
楽しそうにどうやって貢いでもらっているのか話すのを頷きながら、ぼんやり考える。
なんだかしんどいなぁ。
冬休みになって、バイトはお正月以外ずっと働いた。
SNSに初詣の写真がアップされていたけど、やっぱり誘われていない。
私が夏休み同様バイトだと伝えていたし、こっちから声かければよかったんだけど。
それにSNSのグループから外されているわけでもないし、気にしなくていい。
そう思いつつ、私をのぞいた三人だけのSNSグループが存在しているらしいことに気づいてしまった。
私が誘われてないライブの話を間違って出しちゃってたから。
別に学校で仲間外れにされているわけじゃない……。
でもこれって、仲間外れなのかな。
三学期を乗り切れば二年生だから。
あともうちょっと頑張れば、クラスも変わるしもうちょっと気の合う子もできるかも。
でも。
「今日、学校行かなくてもいいかも」
最初は休むことに罪悪感を感じていたのに、だんだん慣れてきた。
バイトもしばらくお休みさせて欲しいと連絡したけど、このまま辞めちゃうかも。
さすがに十日も休むと家族も口うるさくなる。
「体調が悪くて……」
中途半端に熱が出て、頭も痛いし立ちくらみすることもある。
いろんなところがちょっとずつ不調。
嘘じゃない。
母が私の顔をのぞき込んで、思案げにみつめた。
「電子ピアノのお金、足りない分出そうか? 高校生なんだから、学生の本分は勉強なのよ」
「……そんなことしたら、お姉ちゃんが不公平って怒ると思う」
「……お姉ちゃんが言い出したのよ。うちにあるピアノを売ってその代金をあげたらって」
大学生になって、大人になったのかな。
「まぁ、あの子にも今度旅行に行くから小遣いちょうだいって言われているんだけど」
「……お姉ちゃんらしい」
「せめて高校は卒業しないと」
「うん」
お母さんの心配もわかる。
でも、朝身体を起こそうとすると頭が重くてだるい。
「明日から行く、けど保健室行っちゃうかも」
「いいよ」
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
人魚のカケラ
初瀬 叶
青春
あの娘は俺に言ったんだ
『もし私がいなくなっても、君は……君だけには覚えていて欲しいな』
父親と母親が離婚するらしい。
俺は父親、弟は母親が引き取るんだと。……俺等の気持ちなんてのは無視だ。
そんな中、弟が入院した。母親はまだ小学生の弟にかかりきり、父親は仕事で海外出張。
父親に『ばあちゃんの所に行け』と命令された俺は田舎の町で一ヶ月を過ごす事になる。
俺はあの夏を忘れる事はないだろう。君に出会えたあの夏を。
※設定は相変わらずふんわりです。ご了承下さい。
※青春ボカロカップにエントリーしております。
新陽通り商店街ワルツ
深水千世
青春
乾いた生活を送っていた憲史が6年ぶりに実家の写真館に戻ってきた。
店があるのは、北海道の新陽通り商店街。
以前よりますます人気のない寂れた様子にげんなりする憲史。
だが、そんな商店街に危機がおとずれようとしていた。押し寄せる街の変化に立ち向かう羽目になった憲史が駆け抜けた先にあるものとは。
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体などとは一切関係ありません。
カクヨム・小説家になろうでも公開中です。
月夜の理科部
嶌田あき
青春
優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。
そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。
理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。
競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。
5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。
皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる