学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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1 雨とピアノ

1 なんか嫌だな

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 なんとなく学校に行くのが嫌になってきたのは高一の夏かもしれない。

 一緒にお弁当を食べる友達も休み時間に話す友達もいるけど、ほんの少し居心地が悪くて、会話についていけない時がある。
 
 帰りに雑貨屋さんでお揃いのものを買おうとか、誰でもいいから彼氏が欲しいとか。
 新しいお店ができたからSNSにあげたいから行こうとか。
 つき合うけど、ちょっと疲れる。

 すでにみんなグループができているから今さら入れそうなところもないし、一人でいる勇気もない。

 夏休みのほとんどをカフェでアルバイトしていたら、その子達はショッピングや映画に出かけていたらしい。
 SNSも見る時間がないくらい疲れていたから後から知った。
 
 嘘。
 本当はいいねして回るのも疲れて見ないようにしていたから。
 高校生って、思っていたより楽しくない。

 これなら仲の良かった子達と同じ近くのガリ勉校にすればよかったかな。

 学校説明会で先生の大学受験に対するものすごい熱意とか校則が厳しそうなこととか、研究発表会みたいな文化祭で嫌になっちゃったけど。

 私の通う学校は偏差値が高くて入るのは大変なのに、校風が自由すぎて大学受験に苦労する学校と言われている。

 それでも難関の国公立大を目指す特進科クラスと、やる気のある頭がいい子達の選抜クラスのおかげで、大学合格実績はいい。

 将来の夢なんてないし、どうやって見つけたらいいかもわからない。
 自由な校風だったらやりたいことが見つかるかもと思って選んだ。

 自分で勉強すれば大丈夫なんて軽く考えていたけど、入ってみたら周りはみんな遊ぶことばかり考えている。

 わかっていたつもりだったのに、全然わかっていなかった。

「福島は忙しそうだったから、誘わなくてごめんね?」 
「ううん、気にしないで。バイト詰め過ぎて、死にそうだった。こっちこそ、ごめんね!」
「じゃあ、今日さー、私達にアイスおごってよ! 駅前の新しくできたところの! 使う暇なかったんでしょ」

 なんか面倒くさい。
 そう思ったけど、私は笑って。

「今回だけだよー。あの店ちょっと高いって聞いてる。トッピング一つまでね」
「やった! やっぱり福島っていい子だよね~」

 調子いいなぁ、と思いつつ私は笑う。
 ちゃんと笑えているかわからない。

 彼女達とアイス食べて写真撮って、さよならした。 
 私一人帰る方向が逆で、ちょっと遠い。

 どっ、と疲れて何やってるんだろうって思う。
 三人にアイスをおごったから、私の時給一時間半くらい飛んでった。

 アイスは普通に美味しかったけど、また食べたいかって言ったらコンビニの高級アイスクリームのほうがいい。

 パステルカラーのラムネみたいなトッピングは、見た目は可愛かったけどガリガリするし、甘くなり過ぎて正直半分食べた頃には邪魔に思った。

 無駄遣いしちゃったな。
 その後も彼女達とつき合ったし、学校に行かないなんて選択肢はなくて普通に通った。
 
 時々ズル休みしたけど。
 ちゃんと何の授業を休んだか、単位の少ない授業の日は休み過ぎないようにメモまでとった。

「福島、バイト疲れ? また土日も働いていたの?」
「うん……頑張って貯めてるよ。早くピアノ欲しいし」

 またおごってと言われるのは嫌だったから、電子ピアノを買うからお金貯めてるって宣言した。
 ピアノは中二でやめてしまっていて、家に中古のアップライトピアノはある。

 この三年調律していなくて梅雨時に久しぶりに引いたらなんだか音が違って聞こえて、どうせなら自分の部屋における電子ピアノが欲しくなった。

 習っていた頃ピアノの練習は楽しくなかったけど、好きな曲を自由に弾くのは楽しくて夢中になる。
 まぁ、そんな話をしたらふーん、って興味なさそう。

「偉いよね~、私だったら洋服とかアクセに使っちゃうもん」
「だよね~、手元にあるとあるだけ使っちゃう」
「わかる! いつも金欠なんだよね」

 うーん、そうなのか。
 すぐ使っちゃうと、本当に欲しいものを買いたい時に買えないって昔おばあちゃんがよく言ってた。

「今一番欲しいのがピアノだから、洋服もアクセも今は我慢してる。お姉ちゃんに借りてるよ」
「お姉ちゃん、いいよね~。うちなんてお兄ちゃんと弟だし、全然ダメ」
「わかる~! でもお兄ちゃんは最近貢いでくれるようになった」 
「お父さんのほうがチョロくない?」
「なにそれ~」

 楽しそうにどうやって貢いでもらっているのか話すのを頷きながら、ぼんやり考える。
 
 なんだかしんどいなぁ。
 
 冬休みになって、バイトはお正月以外ずっと働いた。
 SNSに初詣の写真がアップされていたけど、やっぱり誘われていない。

 私が夏休み同様バイトだと伝えていたし、こっちから声かければよかったんだけど。

 それにSNSのグループから外されているわけでもないし、気にしなくていい。
 そう思いつつ、私をのぞいた三人だけのSNSグループが存在しているらしいことに気づいてしまった。
 私が誘われてないライブの話を間違って出しちゃってたから。

 別に学校で仲間外れにされているわけじゃない……。
 でもこれって、仲間外れなのかな。

 三学期を乗り切れば二年生だから。
 あともうちょっと頑張れば、クラスも変わるしもうちょっと気の合う子もできるかも。

 でも。

「今日、学校行かなくてもいいかも」

 最初は休むことに罪悪感を感じていたのに、だんだん慣れてきた。
 バイトもしばらくお休みさせて欲しいと連絡したけど、このまま辞めちゃうかも。
 さすがに十日も休むと家族も口うるさくなる。

「体調が悪くて……」

 中途半端に熱が出て、頭も痛いし立ちくらみすることもある。
 いろんなところがちょっとずつ不調。
 嘘じゃない。

 母が私の顔をのぞき込んで、思案げにみつめた。

「電子ピアノのお金、足りない分出そうか? 高校生なんだから、学生の本分は勉強なのよ」
「……そんなことしたら、お姉ちゃんが不公平って怒ると思う」
「……お姉ちゃんが言い出したのよ。うちにあるピアノを売ってその代金をあげたらって」

 大学生になって、大人になったのかな。

「まぁ、あの子にも今度旅行に行くから小遣いちょうだいって言われているんだけど」
「……お姉ちゃんらしい」
「せめて高校は卒業しないと」
「うん」

 お母さんの心配もわかる。
 でも、朝身体を起こそうとすると頭が重くてだるい。

「明日から行く、けど保健室行っちゃうかも」
「いいよ」
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