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おまけ 

妻の幼なじみ

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 僕たちが結婚してから初めてアンジーの幼なじみがやって来た。
 半年ほど前に伯爵家に嫁いだ女性。
 二人きりで話したいこともあるだろうから、僕は父から教えてもらった仕事をこなす。

 僕の知らないアンジーの子どもの頃の秘密のエピソードとか。
 かわいいアンジーの失敗しちゃったエピソードとか。
 冒険しちゃったエピソードとか。

 知りたい、訊きたい。
 お茶会の後半なら僕が一緒でも大丈夫かな?
 いやでも、女同士のおしゃべりにやっぱり邪魔か……。
 いや、アンジーに限って僕に内緒の話をしないはず!

 よし、挨拶がてら顔を出して邪魔者扱いされたら、スーッと下がろう。
 うん、そうなっても悲しくないぞ。







「アンジー、やっぱりあなたのこと……諦められないって言うのよ、彼」
「でも……私、もう結婚してるから……」
「そんなの関係ないわよ!」
「それ……ヴァルに内緒にしてもいいと思う?」

 扉に手をかけようとしたところで、穏やかでない話が聞こえた。

 まさか!
 僕のアンジーが、内緒で愛人を持とうとしてるの⁇
 そんな……。

「みんなも一緒よ? あなただけではないわ」
「……どうしようかな……」
「いいじゃない、旦那様が仕事してる間に行って帰ってくればいいじゃない」
「そう、かしら……?」

 待って。
 僕のアンジー、口車に乗らないで。

「そうよ。問題ないわよ……ね? 難しく考えることないの。ただ、楽しめばいいだけ」

 大問題! 問題大ありだ!
 彼女は今後立ち入り禁止っ!
 これって、なんだか僕一人じゃ満足できないってこと?

「うーん……でも、やっぱりヴァルに話すわ」
「……本当に? もう、出られなくなるかもしれないわよ? そう、じゃあしかたないわね。どうするか決めたら手紙ちょうだいね」

 さすがアンジー‼︎
 信じていてよかった!
 僕、監禁したり、鎖で繋いだりしないよ?
 鎖を使う時は一緒に繋がれるし、監禁部屋作って一緒にこもってもいいし?
 出かける時はずっと一緒にいるけどね!

 友人が帰る気配を感じて僕は姿を隠す。
 それからアンジーが彼女を送り出して部屋に戻ってきたところを捕まえた。
 何も言わずにぎゅっと抱きしめる。

「ヴァル? どうしたの?」
「…………」
「今日は女同士でお喋りできて楽しかったわ。ありがとう……」

 僕を見上げるアンジーはかわいい。
 やましいことなどなさそうだ。

「アンジー、僕に言いたいことがあるなら、遠慮なく言って!」
 
 小首を傾げたアンジーが、少し考える様子を見せてから笑った。

「あのね、さっき彼女に誘われたんだけどね……お世話になった司祭様が今度のパーティーで私にピアノを弾いて欲しいんですって。子どもたちが喜んで歌うからって……ここに来るまではよく顔を出していたの……でも、侯爵家と関わりのない教会だし、派閥とか、もし何か問題があったら……」

「司祭様っていくつ……?」

 僕がおそるおそるたずねる。

「ヴァルったら……ふふっ、多分七十には届かないくらいかな? そんなに心配なら、パーティーの前にヴァルも一度行ってみる?」
「行くよ、行く!」

 そう言った僕の胸にアンジーは顔を押しつけてポツリとつぶやいた。

「ヴァル以外見えないくらい大好きよ……」

 僕の妻がかわいくてたまらない!
 どうしよう!
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